2020年以降、コロナ禍によるテイクアウト需要の拡大がからあげ専門店の新規出店を加速させました。新しい味に出会う機会が増えたのは、からあげ好きの人は嬉しいことだったのではないでしょうか。

 しかし、最近の物価上昇や店舗数の急増による競争激化もあり、2023年は閉店する専門店が増えた年でもありました。逆に言えば、そんな中でも安定してからあげを提供し続けているお店はクオリティの高さと人気が安定している証でもあります。

 そこで今回は、日本唐揚協会認定カラアゲニストであり、「からあげの聖地」である大分県中津市出身の松本壮平氏が、2023年に味わったからあげの中でとくに印象に残った逸品をご紹介しましょう。

元お笑い芸人が揚げる絶品すぎるからあげ|『東京浅草チキン』(浅草)

「美味しさだけでなく楽しさも提供したい」という店主・ハッピー溝上さん(右)は元芸人というだけあってさすがのトーク上手。妻のぷりてぃ溝上さん(左)と2人で営む
「美味しさだけでなく楽しさも提供したい」という店主・ハッピー溝上さん(右)は元芸人というだけあってさすがのトーク上手。妻のぷりてぃ溝上さん(左)と2人で営む

 2022年に浅草にオープンした『東京浅草チキン』は、店主で元お笑い芸人・ハッピー溝上さん自ら揚げる絶品からあげが味わえるお店。2023年の第14回からあげグランプリ・塩ダレ部門で金賞を受賞している実力派です。

 最近は、“おふくろの味”、“実家の味”を再現したような素朴系からあげの人気が高まっていますが、こちらのからあげもまさにその素朴系。ハッピーさんのお祖母さまが作るからあげが味のベースになっています。

からあげグランプリ・金賞受賞の塩からあげ12個(2050円)。8個以上になると紙の箱に入れてくれる
からあげグランプリ・金賞受賞の塩からあげ12個(2050円)。8個以上になると紙の箱に入れてくれる

 からあげは1個から購入可能で、8個以上オーダーするとかわいらしい箱に詰めてくれます。そのからあげ、これまたコロンとしたかわいらしいフォルム。1個40gはありそうな大きめサイズです。

 そして食べた瞬間に思わず「キターーー!」と心のなかで叫んでしまうほど旨い。塩味が抜群に効いていて最高。塩の旨みが舌に染み込んでいくようです。鶏肉の旨みとともに残る塩の後味も最高で肉汁もたっぷり。

 店主・ハッピーさんによると、お祖母さま直伝の自家製塩ダレに24時間以上じっくり漬け込んでいるそうで、だから肉も柔らかく、味もしっかりしているんだとか。さすが塩ダレ部門の金賞からあげです。

「冷めても美味しい、おかずにもおやつにもなるからあげを作りたかった」と言うハッピーさん。味がしっかりしているので、逆に冷めたときは揚げたてとはまた違った美味しさを楽しめます。

●SHOP INFO

店名:東京浅草チキン

住:東京都台東区浅草2-10-1

破壊力抜群の“二郎系からあげ丼”|『めっちゃらんまん食堂』(中目黒)

デカ盛りすぎる「茶色丼」。どう見ても二郎系。からあげ8個、もやし、ニンニク。もやしの上にはアブラが鎮座
デカ盛りすぎる「茶色丼」。どう見ても二郎系。からあげ8個、もやしニンニクもやしの上にはアブラが鎮座

 東京・中目黒にある『めっちゃらんまん食堂』には、「茶色丼」というとんでもないからあげ丼があります。見た瞬間に「え? ラーメン二郎?」と思わずつぶやいてしまうかもしれません。聞けば、『ラーメン二郎』が大好きなオーナーや店長さんが、二郎へのリスペクトから「同じようなものをからあげでも作れないか」と、試行錯誤を経て完成したメニューなんだとか。

 何しろ、ラーメン丼ぶりに1個40g前後のからあげが8個、そしてもやしニンニクもやしの上にはアブラ(背脂)がのせられています。ご飯は約450g、もやしが約350g。からあげと合わせると、総重量はおよそ1.2kgほど(!)。

 からあげにはタレがかかっており、こちらの普通のからあげよりも少し味が濃いめですが、これが美味しい。もちろん、タレがかかっていても衣のカリッと感は健在。

もやしの上のアブラはゼラチン質でコラーゲンたっぷり
もやしの上のアブラはゼラチン質でコラーゲンたっぷり

 もやしの上のアブラ(背脂)は、オリジナルレシピで作ったというゼラチン質たっぷりの逸品で、これがまた激ウマ! トロリとした舌触りに、こってりとした甘辛い味わい。白いご飯にはもちろん、これを舐めるだけでもお酒のアテとして成立しそうなキケンなウマさ。

 そのアブラを崩してからあげと一緒に食べると味変も楽しめますが、それだけではもったいない。ご飯もたっぷりあるので、アブラやニンニクを混ぜつつ食べるのがオススメです。ちなみにご飯はいわゆる「おかかご飯」。ここにアブラとニンニクが加われば、おかずなしでも余裕でいけます。

●SHOP INFO

店名:めっちゃらんまん食堂 中目黒高架下

住:東京都目黒区上目黒3丁目 中目黒高架下

九州醤油の旨さ際立つ“博多風からあげ”とは?|『からあげ八ちゃん』(湯島)

肉の旨みと九州醤油の美味しさが光る
肉の旨みと九州醤油の美味しさが光る

 東京メトロ千代田線・湯島駅の地上出口から徒歩数十秒の場所にある『からあげ八ちゃん』は、博多風からあげが味わえるお店。こちらでオーダーした「からあげ定食」は、「たれ」、「たれこしょう」、「たれ一味」、「たれ韓辛」、「たれにんにく」、「特製塩」、「特製ポン酢」という7つの味から好きなものを選べます。初めてならシンプルな「特製塩」がオススメ。

 からあげは、やや大きめサイズのものが4個。「特製塩」は別の器に盛られています。ひと口食べると「シャリッ!」とした歯ざわりの衣。爽快な音が脳内に響き渡る、悩殺系の咀嚼音です。そしてその衣が唇に触れたときの心地よさ! 油っぽさはほぼなく、ほんのり温かい。しっとりとしたやさしい感触です。

 肉も絶妙なやわらかさで実に美味。ちょっと弾力もあって、噛むほどに肉の旨みがしぼり出されてくる感じです。秘伝のタレに3日間漬け込んでいるそうですが、この味付けがとにかくスゴい。

 ご承知の通り九州の醤油は甘め。その醤油を使用しているから、コク深さと甘み、上品な醤油の風味がしっかりと染みています。これは関東エリアではなかなかお目にかかれない味です。

「たれこしょう」。甘辛くてご飯がすすみまくる
「たれこしょう」。甘辛くてご飯がすすみまくる

 からあげは1個から追加オーダーが可能。こちらでも特に人気という「たれこしょう」もぜひ。甘辛いタレとゴマの食感が絶品で、白いご飯に合うんです。ご飯にのせれば、美味しいタレがご飯にもしっかり乗り移って、からあげ1個でご飯1杯軽くいけるハズ。

●SHOP INFO

店名:からあげ八ちゃん

住:東京都文京区湯島3-33-9小能ビル1F

藻塩の旨みと甘みがクセになる「旨塩からあげ」|『大衆食堂 安べゑ』(亀戸)

箸でつまみやすいサイズと美しいかたち。揚げる前にしっかり丸く成形しているから旨味を逃さない
箸でつまみやすいサイズと美しいかたち。揚げる前にしっかり丸く成形しているから旨味を逃さない

 2023年の第14回からあげグランプリ・塩ダレ部門で初めて金賞を受賞した『大衆食堂 安べゑ』。からあげ界で注目を集める新星ですが、味わうべきは、こちらの「旨塩からあげ」です。

 コロンとした、ゴルフボールのような真ん丸の可愛らしいルックス。揚げる前に丁寧に成形しているんですね。最近はこうした“真ん丸からあげ”を見る機会が増えましたが、これは美しいだけでなく、揚げるときに肉に均等に熱が入って絶妙な揚げ具合に仕上がるのもメリット。

 ひと口かじると、いきなり塩の旨みに襲われます。塩味が実にイイ! 淡路島の藻塩を使った漬けダレにひと晩しっかりと漬け込んでいるそうです。かすかに甘みも感じる塩の味わいが口の中で乱反射。上顎や舌の裏に拡散された旨みが舌の上に跳ね返ってきます。衣はカリカリ食感で、これまた秀逸なウマさ。油っぽさもなく、肉には弾力の中にもフワッとやさしく歯を受け止める柔らかさも◎。

右が「旨塩からあげ」。真ん丸なルックスがなんとも愛らしい。左が「手羽先盛合わせ」
右が「旨塩からあげ」。真ん丸なルックスがなんとも愛らしい。左が「手羽先盛合わせ」

 もうひとつの人気メニューである「手羽先盛合せ」は、手羽先からあげ5種類の味が楽しめます。赤:唐辛子入りスパイス、黄:カレー、緑:あおさ、黒:黒胡麻、白:塩の5色。串に刺さって、ピンと伸びたルックス。食べるこちらも思わず背筋がピンと伸びてしまいそう。いずれも肉厚で、チップの部分まで美味しい。可食部豊富な手羽先からあげです。

●SHOP INFO

店名:肉豆冨とレモンサワー 大衆食堂 安べゑ 亀戸駅前店

住:東京都江東区亀戸5-1-1

カラアゲニストも唸るラーメン屋のからあげ|『京都北白川 ラーメン魁力屋』

「唐揚げ」5個
唐揚げ」5個

 ここ数年、ラーメン店のサイドメニューからあげのレベルが上昇し続けています。からあげとラーメンの相性の良さは抜群。からあげをダシの効いたラーメンのスープにひたして食べると、見事な味変にもなるのです。

 京都に本店を置き、全国に120店舗を展開する『ラーメン魁力屋』も、からあげが旨いラーメン屋の一つです。こちらは背脂醤油ラーメンが人気ですが、定食やお酒のアテになりそうなサイドメニューも充実しています。オススメの組み合わせは「唐揚げ」と一番人気の「特製醤油全部のせラーメン」。

「特製醤油全部のせラーメン」。のどごし良好な中細麺は小麦の旨みも感じます
「特製醤油全部のせラーメン」。のどごし良好な中細麺は小麦の旨みも感じます

 からあげは1個30gほど。カリッとしつつ、かすかにモッチリ感もある衣は、歯がすぐに肉に到達する薄さ。肉の旨みがダイレクトに舌に到達します。その旨さが口の中にどっしり居座り、次のひと口、次の1個を無意識に求めてしまうほど。ニンニクの風味も爽やかで、まさに正統派の醤油からあげといった雰囲気。

 そしてラーメンのスープにひたして食べるとまた旨い。カリッとしていた衣にしっとり感が加わります。醤油味のスープが、からあげの醤油味とからんで、味わいが倍加。相性バツグン&バランス良好すぎて、からあげスープ⇒麺⇒からあげ⇒……という無限ループが始まります。

●SHOP INFO

店名:京都北白川 ラーメン魁力屋・五反田

住:東京都品川区西五反田1-8-1
営:11:00~24:00(L.O.23:45)
休:無休

●著者プロフィール

松本壮平
ライター・編集者。一般社団法人日本唐揚協会認定カラアゲニスト。生まれも育ちも「からあげの聖地」である大分県中津市。美味しいからあげを求めて東奔西走する「から活=からあげ探索活動」に明け暮れている。

食楽web