暑くて湿度の高い夏、暑くはないがジメジメする梅雨、寒くて乾燥する冬と、多様な気候を冷暖房器具を駆使して乗り切る日本人。「アレルギー発生原因であるカビやダニと無縁の生活をするには、1年を通じて室内の相対湿度が60%を超えないことが重要」と一級建築士の松尾和也氏はいいます。松尾氏の著書『お金と健康で失敗しない 間取りと住まい方の科学』(新建新聞社)より、カビやダニから身を守るための解決策を紹介します。

「相対湿度」が高くなる原因とは

カビとダニが「好き」、もしくは「嫌いではない」という方はまずいらっしゃらないでしょう。この両者ともに共通するのは「相対湿度が高い環境を好む」ということです。

アレルギー発生の原因のひとつであるカビとダニ両方と無縁の生活をしたければ、1年を通じて室内の相対湿度が60%を超えないようにすることが重要になってきます。ここで、相対湿度が高くなる原因を整理してみます。

結論は2つしかありません。空気中の水分量が多いこと、そして室温が低いことです。この2つが重なるほど、相対湿度は高くなります。

相対湿度…一般的に「湿度」というときは「相対湿度」を指す。ある温度の空気中に含みうる最大限の水分量(飽和水蒸気量)に比べて、どの程度の水分を含んでいるかを示す値のことで、〈%RH〉で表す。

絶対湿度…湿り空気(一般に存在する空気)中の乾き空気(全て水分を含まない空気)1gに対する水蒸気の重量割合を示し、〈g/kg〉で表す。

[図表]は東京の月ごとの外気、及び室内の温度、相対湿度、絶対湿度を一覧にしたものです。

室内は冷暖房はしていますが、加湿、除湿はしていない状況での湿度を表しています。

これを見ると、5月から9月にかけての室内相対湿度は60%どころか70%をも超えてしまうことがわかります。ということは、この期間は除湿しなければカビもダニも発生しやすい環境ということになります。

対して冬は30%程度とかなり低くなっています。しかし、これは室温20℃の場合の相対湿度を表しているということが前提条件です。

北側の窓の下枠は窓の性能が低かったり、室温が低いと10℃を下回ります。戸建住宅においては、大半が5℃を下回ってしまいます。この状況では結露してしまうことも多いですし、結露していなかったとしても、その付近だけは相対湿度が80%を超えている時間が長くなってしまっています。

窓だけではありません。ユニットバスの床は、家の中でも最も温度が低くなりがちな部分です。さらに水分が大量にあるので、カビが生えるには最高の条件が整っていると言えます。

こういうことがわかった上で、夏(梅雨も含む)と冬に分けて理想的な過ごし方を模索してみます。

カビやダニを発生させない理想的な過ごし方

夏(梅雨を含む):窓を閉めて夏は冷房、梅雨時期は除湿運転を行うことで相対湿度が60%を超えないように暮らす。

自分が長く過ごす部屋だけではなく、カビを発生させたくない場所は全て(=家全体)が60%を超えないように暮らすことが理想的。これを常識的な冷房費で実現するには、徹底的な夏の日射遮蔽と屋根もしくは天井の断熱強化、少ない台数のエアコンで家全体を冷房するための冷房設備計画が重要になります。

エアコンの台数が多いと、冷やすのは簡単になりますが、1台毎の内部冷媒温度をそれほど下げなくてもよくなることから、湿度が下がりにくくなってしまうからです。

また本質的な解決策ではありませんが、夏の時期は太陽光発電が設置されている住宅であれば、冷房費は発電分から大半を相殺することが可能になりやすいというメリットがあります。

冬:[図表]の中の絶対湿度を見ると11月から3月にかけては7g/kg以下が続いています。

人が乾燥感を感じず、またインフルエンザ等のウイルスに感染しにくくするためには、この7g/kgというのは超えておきたいラインになります。

しかし、こうするとカビやダニにとっては理想的な状況に近づいてしまうという矛盾が生じてしまいます。これを解消する方法は2つあります。

家全体を暖かく、涼しくすることは「贅沢」ではなく「必須」

加湿することによって水分量は増えてしまうのですが、家全体の室温を20℃以上に暖かく保つことができれば、相対湿度が60%に到達することはありません。

また、先に述べたことと重なりますが、最も表面温度が下がって相対湿度が上がりやすい(結露しやすい)場所はユニットバスの床面、次が窓の下枠(特に主寝室の北窓の下枠)となります。

ユニットバスの床面に関しては最後の入浴後に水分を拭き取るというのが理想的ですが、加えて床下エアコン暖房によって浴室床の表面温度を冷たくしないことが非常に効果的です。

窓に関しては、ガラス部分より枠部分の方が冷えてしまいます。よって、最も冷えてしまう枠の部分を樹脂製の窓にする。

さらに言うならペアガラスよりもトリプルガラスに、ガラス間のスペーサーをステンレスよりも樹脂スペーサーの窓にすることが理想的です。既存住宅で窓自体が変えられない場合は、樹脂製の内窓をつけるという手法もあります。

最後になりますが、夏同様に冬も家全体を20℃以上に保つことを経済的に許容できる暖房費に抑えようとすると、それなりの断熱性と気密性が必須になります。

これまでは家全体を暖かく、涼しくというのは贅沢だと捉えられがちでした。ですが、人間が健康に暮らすために非常に重要な要素であるということをご理解いただければ幸いです。

松尾 和也

松尾設計室

一級建築士

(※写真はイメージです/PIXTA)