ブルーレイ&DVDセットの販売とDVDレンタル、デジタル配信がスタートし、話題を集めている『ブルービートル』(23)。大学を卒業したばかりのメキシコ系アメリカ人の主人公、ハイメ・レイエス(ショロ・マリデュエニャ)が青と黒のアーマー風スーツに身を固めて戦うビジュアルに、アメコミ映画好きならば大きく興味を惹かれたはずだが、残念ながらアメコミヒーローとしては、日本での知名度はかなり低い。しかし、スーパーマンバットマンワンダーウーマンと同じくDCコミックスで活躍するキャラクターで、実は原作コミックスをひも解くと長い歴史を持つ作品でもある。そんな気になる『ブルービートル』とは、どんなヒーローがどのように活躍する作品なのか?原点であるアメコミ版の歴史を踏まえて作品の見どころを解説していこう。

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「ブルービートル」のコミックスが誕生したのは、いまから80年以上前となる1939年。歴史的には、第二次世界大戦が始まろうとしている時期だが、1938年DCコミックスの前身であるナショナル・アライド・コミックスが「スーパーマン」をスタートさせて大ヒットを記録し、アメリカではアメコミヒーローブームが巻き起こっていたタイミングでもあった。

DCコミックスでのブルービートルワンダーウーマンの先輩

そのヒットのなかで1939年5月、さらなるヒーローコミックスの歴史を変える作品となる「バットマン」がナショナル・アライド・コミックスから発表された。そして、その直後の1939年8月にライバル会社である中堅出版社のフォックスコミックスから「ブルービートル」のコミックスが発売される。ちなみに、「ワンダーウーマン」やマーベル・コミックスの「キャプテン・アメリカ」が1941年に登場したことを考えると、「ブルービートル」はアメコミヒーロー史においては屈指の歴史を持つヒーローでもあることがわかる。

その後、1950年代にアメコミヒーローコミックスの人気が下火になると、フォックスコミックスは会社を閉鎖。その権利は、中堅出版社のチャールトン・コミックスに売却され、そこから初代ブルービートルの設定を引き継いだ2代目の物語がスタート。しかし、80年代に入り、チャールトン・コミックスもアメコミヒーローコミックスから撤退し、その権利はDCコミックスへと移譲される。そして、一部設定が変更された2代目のブルービートルDCコミックスで活躍するが、とある事件で殺害されてしまう。そして2006年に3代目となる新たなブルービートルが登場。映画では、この3代目を主人公とした物語が描かれているのだ。

ジャスティス・リーグにも参加した2代目ブルービートル

では、ブルービートルとはどんなヒーローなのだろうか?初代ブルービートルの正体は、考古学者のダニエル・ギャレット。彼は邪悪な古代エジプトの王カーフレーの墓を調査するなか、エイリアンバイオテクノロジーが残された甲虫型の古代の遺物スカラベを発見する。ダニエルは、そのスカラベによって、青い鎖帷子に身を包み、超人的なパワーを身に付けることとなり、ブルービートルを名乗りヒーローとして活躍する。

しかし、教え子のテッド・コードの伯父であるジャービス・コードの目論む世界征服を阻止する戦いのなかで傷ついたダニエルは重傷を負い、死の直前に自身の相棒になっていたテッドに青いスカラベを託す。研究者であり、ハイテク企業の御曹司でもあるテッドは、ダニエルのように青いスカラベには選ばれず、超人的な能力を得ることはできなかった。それでも、ギャレットの意志を継いだコードは、高い格闘技術を身につけつつ、財力を駆使して特殊なガジェットを開発することで2代目のブルービートルとして活動。コミックスでは、その活躍が認められてヒーロー集団ジャスティス・リーグにも身を置き、スーパーマンバットマンとも行動を共にしていた。しかし、政府機関に絡む事件を調査中に敵の凶弾によって死亡してしまう。

■3世代にわたるコミックスのブルービートルの物語を映画版は再構成

それからしばらくの時を経て、青いスカラベは高校生のハイメ・レイエスが手にすることになる。スカラベはレイエスを宿主として選び、彼の脊髄と融合。スカラベの正体は宇宙人のテクノロジーによって生み出された兵器であり、戦闘時には防護服をまとい、ハイメの思念に合わせて攻撃武器を産み出す能力を解放する。この特殊なアーマー状のスーツをまとい、ハイメはヒーロー活動を開始。DCユニバースで活動する若きヒーローチーム、ティーンタインズにも参加している。

このようにコミックス版では3世代にわたって紆余曲折の歴史を重ねてきたブルービートルの物語を、映画では3代目のハイメ・レイエスを主人公に据え、家族の協力のもとヒーローとして成長する物語として再構成している。

■コミックスの人間関係を知ると、より楽しめる映画版の世界

敵となるのは、原作コミックスの2代目ブルービートルであるテッド・コードが経営していたコード社を乗っ取った彼の妹であるビクトリア・コード(スーザンサランドン)。彼女は、テッドが研究していたブルービートルの力を軍事利用すべく暗躍する。しかし、それを好ましく思わないテッドの娘であるジェニー・コード(ブルーナ・マルケジーニ)は、スカラベを盗み出し、偶然に出会ったハイメにコード社から持ち出すよう手渡す。スカラベはハイメを宿主として選び、彼の体に融合。その結果、ハイメはコード社に追われる身となるが、大切な家族を守るためにスカラベの能力を使い、ブルービートルとして戦うことを決意する。

主人公のハイメが住むのは、メキシコに接するアメリカのテキサス州エル・パソ。メキシコ移民の子孫であり、都市部は発展するものの移民の人々は貧しい暮らしを強いられ、ハイメはそこから抜け出すために大学を卒業したものの、破産直前に追いやられた家族を救うことができず思い悩む。そんななか、ハイメは職を得ようとコード社に訪れてヒーロー的な能力を得ることになるのだが、そうした社会的な背景とリンクした青年像の描き方は、メキシコ移民版「スパイダーマン」とも言える仕上がりとなっている。

■ブルービートルのスーツは「アイアンマン」を想起

また、ハイメの思念によって形状を変えるブルービートルのスーツの表現は「アイアンマン」を想起させる。その結果、予告編だけ見てしまうとライバルであるマーベル・シネマティック・ユニバースの良いところ取りという作品と誤解してしまいそうだが、前述した長い歴史を持つ原作へのリスペクトと現在のアメリカが抱える移民問題とのリンクした社会情勢が描かれ、現代だからこそ描くべき独自のエンタテインメント作品として楽しめる1作となっている。

そして、原作コミックスの情報を踏まえれば、劇中に散見できるより細かい描き込みが楽しめるはずなので、アメコミヒーロー映画好きなら偏見を持たずにじっくりと楽しんでみてほしい。

文/石井誠

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