2024年は辰年。十二支で唯一、空想上の生物である龍(竜)がフィーチャーされる年だ。東洋、西洋にかかわらず、竜やドラゴンは古来より神話や伝承の題材になっており、現在まで様々な創作物でその姿が確認できる。本稿では、辰年に観るのにぴったりな“ドラゴン映画”をピックアップしたい。

【写真を見る】「ハリー・ポッター」に登場するドラゴンのなかで最も獰猛なハンガリー・ホーンテイル

■邪悪な竜、スマウグに奪われた王国を取り戻そうとする「ホビット」三部作

J.R.R.トールキンのベストセラー小説が原作の「ホビット」。本作は「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の前日譚で、平和なホビット庄で暮らしていたホビット族のビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)が、13人のドワーフ魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)と共に、邪悪な竜、スマウグに奪われたドワーフ王国を取り戻そうとする壮大な冒険ストーリーが展開される。

スマウグが本格的に姿を現すのが、第二部『ホビット 竜に奪われた王国』(13)と完結編となる第三部『ホビット 決戦のゆくえ』(14)。スマウグは巨大な体躯と鋭いかぎ爪、羽ばたけば突風を巻き起こす翼を持ち、口から吐く火炎は一瞬にしてすべてを消炭にしてしまう恐ろしい存在だ。一方で、金銀財宝に目がなく、宝の山に囲まれながら長い眠りについていた。また、自身が絶対的強者という余裕からか、寝床に侵入してきたビルボをからかうように弄んだり、ドワーフたちのリーダー、トーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミティッジ)の挑発にまんまと乗ってしまうなど、人間臭い部分もあった。ちなみに、スマウグのモーションキャプチャと声を担当しているのはベネディクトカンバーバッチで、ビルボ役のマーティン・フリーマンとのドラマ「SHERLOCK/シャーロック」のコンビがまさか(?)の共演を果たし、驚いたファンも多いはず。

■かわいい赤ちゃんから獰猛な種まで!様々なドラゴンが登場した「ハリー・ポッター」シリーズ

ホグワーツ魔法魔術学校を舞台に、“選ばれし者”ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)と闇の魔法使いヴォルデモート(レイフ・ファインズ)の因縁と戦いを描く人気シリーズ「ハリー・ポッター」には様々なドラゴンが登場した。第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)ではハグリッド(ロビー・コルトレーン)が希少なドラゴンの卵を入手し、それが孵るところをハリーたちも目撃。ノルウェー・リッジバックという種類の赤ちゃんドラゴンが、生まれてすぐに小さな火を吐いている姿が短いシーンながら印象的だった。

赤ちゃんドラゴンはまだかわいいと言えるサイズだが、「ハリー・ポッター」の世界におけるドラゴンはかなりの危険生物。第4作『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(05)には、ハンガリーホーンテイルと呼ばれる特に獰猛な種類が登場する。約100年ぶりに開催された「三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)」の代表選手の一人に選ばれたハリーは、この危険なドラゴンが守る金の卵を奪うという課題に挑戦していた。二部作で製作された最終章の後編『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11)では、グリンゴッツ魔法銀行からハリーたちが脱出する際に、金庫を守るウクライナアイアンベリーという種のドラゴンを解放してその背にしがみついて飛び去っている。

クリスチャン・ベールマシュー・マコノヒーらが地上を灰の世界に変えた怪物に立ち向かう『サラマンダー

終末世界を舞台に人類が生き残りを懸けて戦う『サラマンダー』(02)。6500万年前に恐竜を食らい尽くし、休眠状態についていた火を吐くドラゴンサラマンダー”が目覚め、人類を含む生物のほとんどが絶滅状態に。少年時代に目の前で母親をサラマンダーに殺され、生き残った人々と空からの脅威に怯えながら暮らしていたクイン(クリスチャン・ベール)は、戦車やヘリコプターで武装した義勇兵たちと出会ったことから、人類の生存のためサラマンダーと対峙することになる。

主人公クインを演じるのはクリスチャン・ベール、義勇軍を率いるヴァン・ザン役にマシュー・マコノヒー、クインの親友クリーディー役にジェラルド・バトラーと、2000年代前半の製作だから実現したであろうかなりの豪華な布陣に。全体的に戦闘シーンが多いとは言えないが、どこからともなく空から現れて人間に食らいつくサラマンダーの恐怖、三角測量を用いてサラマンダーの位置を特定しながら戦うヴァン・ザンたちの連携、トラウマを乗り越えて成長するクインの雄姿など見どころは多く、作り手の気概を感じられる作品になっている。ロックバンド、Mad at Gravityによる主題歌「Burn」「Walk Away」も作品の世界観とマッチしていてカッコイイ!

■高潔なドラゴンと騎士の絆が描かれる『ドラゴンハート』

神聖視される一方で、権力や力、時に悪の象徴にされることもあるドラゴン。そのなかで、ドラゴンの高潔な魂を描いたのが『ドラゴンハート』(96)だ。10世紀頃のヨーロッパを舞台に、人語を理解し、話すこともできる“最後のドラゴン”ドレイコと、“ドラゴンハンター”の騎士ボーエンの友情を軸に、圧政で人々を苦しめる暴君との戦いが活写されていく。

敵として出会ったドレイコとボーエンが、戦闘が膠着状態に陥ったことから協力関係を結び、だんだんと絆を深めていく様子が楽しい。また、騎士道精神に苦悩するボーエンの姿も映しだされ、暴君を倒すためにドレイコが取る選択は涙なしには見られない。ボーエンをデニス・クエイド、暴君をデイヴィッド・シューリスが演じたほか、なんとドレイコの声をショーン・コネリーが務めている。

■太ったドラゴンが“コロコロ”かわいい!『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』

根強い人気を誇る名作テーブルトークRPGを原作とする『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(23)。クリスパイン演じる盗賊のエドガン、その相棒でミシェルロドリゲス扮する戦士ホルガらが凸凹パーティを結成。波乱万丈な冒険を繰り広げながら、ヒュー・グラントの怪演が光る詐欺師や強力な魔法使いに立ち向かっていく。

様々な種族やモンスターが生息する世界が舞台の本作にも、もちろんドラゴンが登場する。希少なアイテムを手に入れるため、地下世界に突入したエドガン一行を巨大なレッド・ドラゴンが襲う。丸々と太ったビジュアルが特徴で、見境なくなんにでもかぶりつこうとしたり、手足は使わずにコロコロと転がりながら移動する様子がなんともかわいらしい。

■まだまだいっぱい!竜やドラゴンが登場する映画たち

●『ネバーエンディング・ストーリー』(84)

古本屋で手にしたある本に読みふけるいじめられっ子の少年と、”虚無”によって消えゆく世界を救うため冒険に出た本の登場人物の物語が並行して進んでいく。本の主人公アトレーユ(ノア・ハサウェイ)の相棒となるのがドラゴンファルコン。東洋の竜に近いフォルムだが、白いモフモフした毛に覆われ、犬のような顔つきをしている。性格も愛嬌があって親しみが感じられる。

●『ヒックとドラゴン』(10)

バイキングの少年と一匹のドラゴンとの友情ストーリー。一人前のバイキングを目指すヒックが、ケガをして飛べなくなった“ナイト・ヒューリー”と呼ばれ恐れられているドラゴンと出会う。掟に背いてそのドラゴンの力になりたいと思ったヒックは、一緒に飛行訓練をして手助けしようとする。

●『ラーヤと龍の王国』(20)

“龍の石”の守護者である少女ラーヤが、魔物の危機に瀕する国を救おうとする。500年前に魔物を滅ぼしたと言われる伝説の“最後の龍”シスーがラーヤの仲間に加わる。シスーは他人を疑うことを知らない性格で、過去の経験から自分だけを信じて生きてきたラーヤに、人を信じることの大切さを諭していく。

●『ムーラン』(98)

時は古代中国。北方騎馬民族による侵攻にさらされ、国中に徴兵令が下されるなか、高齢で足の悪い父に代わって、親想いの一人娘ムーランが軍に入隊する。守り神である赤竜のムーシューがムーランをサポートし、彼女を英雄にしようとする。

●『眠れる森の美女』(59)

オーロラ姫に呪いをかけた魔女マレフィセント。呪いで眠り続けるオーロラ姫を助けに駆けつけたフィリップ王子の前に、黒いドラゴンの姿になって立ちはだかる。

●『ピートと秘密の友達』(16)

ウォルト・ディズニー製作による実写とアニメーションの合成作品『ピートとドラゴン』(77)のリメイク。森の奥深くに迷い込み、6年もの間、人とかかわらずに暮らしてきた少年ピート(オークス・フェグリー)が保護された。彼には緑のモフモフの毛に覆われた大きな“秘密の友だち”がおり、家族同然に過ごしてきたという。

●『エラゴン 遺志を継ぐ者』(06)

ドラゴンの卵を手にした辺境の地に暮らす少年エラゴン(エドワード・スペリーアス)。卵からは青い雌のドラゴン、サフィラが誕生し、彼女を育て始めたエラゴンは、国を邪悪な王から救う伝説の“ドラゴンライダー”として戦う使命に向き合おうとする。

●『シャン・チー/テン・リングスの伝説(21)

マーベル・シネマティック・ユニバースのヒーロー、シャン・チー(シム・リウ)が、異世界から放たれた魔物を神聖な水龍と共に封じ込めようとした。

●『千と千尋の神隠し』(01)

八百万の神々が住む世界に迷い込んだ千尋(声:柊瑠美)を、白竜に変身する少年ハク(声:入野自由)が助ける。

■2024年最初の“ドラゴン映画”は『アクアマン/失われた王国』!

2024年最初の“ドラゴン映画”と言えるのが『アクアマン/失われた王国』(1月12日公開)。南極の氷河の奥深くに封印された「失われた王国」から邪悪な力が解き放たれた。海と地上の世界が崩壊の危機に陥るなか、海底アトランティスの王アクアマン(ジェイソン・モモア)が仲間と共に立ち上がる。アクアマンが持つユニークな能力の一つが、5億もの海の生物を操ることができること。予告映像でもサメやシャチ、タコなどの生物が次々と登場していたが、そのなかでも特に、アクアマンが大きなシードラゴンにまたがっている姿が印象的だ。海中で繰り広げられる大迫力のアクションに期待!

■実写とアニメでドラゴンが躍動する「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」

また、映画以外にも「ゲーム・オブ・スローンズ」とそこから派生した「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」などドラマシリーズにおけるドラゴンの活躍も印象的。昨年12月からはディズニープラスの「スター」で「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」が独占配信中となっている。本作は空想の世界にふける孤独な少女、ナギ(中島セナ)と、“異世界”ウーパナンタのドラゴン乗りの少年、タイム(奥平大兼)が出会ったことから壮大な冒険が始まる完全オリジナルのファンタジーアドベンチャー大作。ナギが暮らす現実世界を実写、ウーパナンタをアニメで描き、そこで起こる物語を交錯させながら展開していく意欲的な演出がされている。

その見どころの一つとなるのがドラゴンで、タイムの相棒のガフィン(声:武内駿輔)、タイムが憧れる英雄、アクタ(声:新田真剣佑)が乗るイグルといった様々なドラゴンが劇中に登場する。そして、行方不明になったアクタを追ってタイムとガフィンが現実世界にやって来る。アニメだけでなく、3DCGを駆使したリアルなドラゴンが実写映像の中でも躍動し、空を自在に飛び回っているのだ。現在、第5話(※1月4日時点)まで配信中で、後半戦に向けてさらなる盛り上がりを見せている。

危険生物として描かれたり、悪役だったり、登場人物と友情を深めたりと様々な活躍を見せては、観る者を楽しませてくれるドラゴンたち。辰年の2024年は、そんなドラゴンや竜が登場する作品に1本でも多く触れてみてはいかがだろうか?

文/平尾嘉浩

「ハリー・ポッター」などドラゴンが登場する映画&ドラマを紹介!/[c]Everett Collection/AFLO