現代の「海賊」は、創作物で描かれるような目立つ格好はしていません。加えて条約や法律で細かく定義されているといいます。なぜ、そこまで明確に定める必要があるのでしょうか。

イメージとなんだか違う 現代の海賊とは

2023年12月7日海上保安庁が海賊対策のために航空機をシンガポールおよびインドネシアへ派遣したと発表しました。海上自衛隊ソマリア沖に海賊対処で護衛艦を派遣し、近傍のジブチには哨戒機を展開させています。

このように、いまや海賊に対応するため1年を通じて海上保安庁海上自衛隊が遠方に派遣されることは珍しくなくなりましたが、そもそも現代の海賊とは、どのような組織なのでしょうか。

一般的に「海賊」と聞くと、ハリウッド映画やアニメのキャラクターに代表されるような、頭にバンダナを巻き、刀やピストルを手にした男たちが、ドクロマークの旗を掲げた船でほかの船を襲う様子が真っ先に頭に思い浮かぶかと思います。

ところが、現代の海賊は、こうしたファンタジー世界のそれとは異なります。たとえば、アフリカ大陸の東部に位置するソマリア沖やアデン湾など、中東海域で活動する海賊は、アサルトライフルロケットランチャーなどで武装しており、機動力の高い小型ボート移動します。そして、航行中のタンカーや貨物船に乗り込み、乗員を人質にして船会社に金銭などを要求するのです。

このように、一般的にイメージされる海賊と、実際の海賊とは若干のズレがあるわけです。そもそも、船を襲えばそれがすべて「海賊」になる、というわけではありません。じつは、どのような行為が「海賊行為」にあたるのかは、国際法上しっかりと定義されているのです。

国際法上の海賊とは

なにが海賊行為にあたるのかについては、海洋に関するさまざまなルールなどについて定める「国連海洋法条約(UNCLOS)」に明記されています。その内容を要約すると、海賊行為とは、「公海上で、私有船舶や航空機の乗員や乗客が他の船舶や航空機に対して私的目的のために行う、すべての不法な暴力行為、抑留または略奪行為」(UNCLOS 101条)となります。

これについて、もう少し細かく見ていきましょう。まず、海賊行為が行われる場所は「公海」や「排他的経済水域(EEZ)」など、どの国の管轄権(ある国が人や物に関する法律を定め、適用し、執行する権限)にも服さない場所に限定されています(公海要件)。そのため、ある国の領海内で発生した行為については、これを「海上武装強盗」といい、海賊行為とは区別されます。

次に、海賊行為に用いられるのは私有の船舶および航空機に限定されます。ある国の政府が所有する船舶や軍艦による行為については、その所属国が責任を負うことになります。また、海賊行為はある船舶から他の船舶に対して行われる必要があります(二船要件)。つまり、乗客などによるシージャック行為など、1隻の船の中で発生した事件に関しては、海賊行為とはみなされません。

さらに、海賊行為は私的目的のために行われたものに限定されます。たとえ私人が、私有船舶により他の船舶を襲撃したとしても、それがある国の政府による命令で実施していた場合、これは海賊行為には当たりません。

また、内戦状態にある国の反乱団体が、敵対するその国の政府の船舶などを襲撃することも、同様に私的目的とはみなされません。ただ、一方でテロ組織や政治団体による行為がどう取り扱われるかについては、国際法上議論が分かれています。

なぜ海賊の定義は細かいの?

このように、海賊行為の定義について、国際法ではさまざまな要件が課されていることがわかるでしょう。それでは、なぜ海賊行為というものがここまで細かく定義されているのでしょうか。その理由の一つに、海賊が例外的な存在という点が挙げられます。

人間に国籍があるように、船にも国籍といえるもの、すなわち「船籍」があります。ゆえに、その船が掲げる旗の国(旗国)が、その船に対して管轄権を及ぼすことができるようになっています。これを「旗国主義」といいますが、とくに公海上において船舶は旗国の排他的な管轄権に服すること、とされています。つまり、その船に乗っている人や物などに関して、旗国以外の国が自国の法律を執行したり、乗員を逮捕して裁判にかけたりするといったことは、通常できないのです。

こうした旗国主義の例外の一つが、海賊です。海賊は、さまざまな国の船舶を無差別に襲うなどして、海上交通の安全を害する存在です。そのため、「人類共通の敵」とされる海賊に対しては、どの国であっても、海賊船を拿捕して乗員を逮捕し、訴追することが許されているのです。これを、「普遍的管轄権」といいます。

このように、旗国主義の例外として、その他の海上における不法行為とは区別する必要性から、徐々に緩やかになってきたとはいえ、海賊行為の定義は厳格に定められているのです。

昨今の情勢と関連して、中東海域でイエメンの反政府勢力である「フーシ派」がイスラエル関連の船舶を襲撃する事例が発生しています。これが海賊行為に該当するかどうか、今後議論が必要になるでしょう。

ソマリア沖でコンテナ船の護衛に就く海上自衛隊の護衛艦「さみだれ」(画像:海上自衛隊)。