1年を待たずに街行くクルマがガラッと様変わり! 日本車王国だったタイに中韓BEVが溢れている

この記事をまとめると

■タイ市場でも最近は中国ブランドのBEVが売れ始めている

■2023年11月末に開催されたモーターショーでも中国ブランドの出展が目立った

新興国では日本の何倍ものスピードで社会が変化しており、今後の自動車のトレンドにも注目だ

タイの路上に目立つようになってきた中国ブランドのBEV

 2014年、中国・上海汽車系ブランドのMGが、中国ブランドとして初めてタイ市場に進出した。進出当初はICE(内燃機関)車のみということもあり、タイのユーザーからは相手にもされず、「投げ売りしても売れない」といわれるほど販売に苦戦していた。そして2019年、コンパクトクロスオーバーSUVとなるMG ZSのBEV(バッテリー電気自動車)版となる「MG ZS EV」を発売した。「タイでBEVを?」と不思議がる人もいたが、このあたりから少々風向きが変わってきた。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 そして、新型コロナウイルス感染拡大も落ち着き、再び海外に出かけられるようになった2022年春にバンコク・モーターショー会場に向かうと、MGのほかにGWM(長城汽車)もブースを設けていた。バンコク市内でウォッチしていると、MG ZS EVのほか、GWMのプレミアムコンパクトBEV「ORA CAT」が多数走っていた。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 さらに今回、2023年11月末に「バンコク・モーターエキスポ」の会場を訪れると、MG、GWM、BYD(比亜迪汽車)、NETA(哪叱汽車)に加え、CHANGAN(長安汽車)、AION(広州汽車のNEV“新エネルギー車”ブランド)、ウーリン(上海通用五菱汽車)が新たにブースを構え、中国系ブランドの出展数が増えていた。

 日系ブランドが全部で9つとなるので、過去には日本車ばかりが目立っていた会場内も、気がつけばいつの間にか中国系ブランドが日系ブランドと会場を二分するほどの存在感を示していた。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 中国系ブランドの展示の中心はもちろんBEV(バッテリー電気自動車)となる。すでにタイで販売しているモデルのほか、近々タイで販売予定とされるBEVクーペなど、とにかくBEVが中心となっている。ただし、BYDやウーリン、AIONあたりを除けば、HEV(ハイブリッド車)や純粋なICE車なども展示されており、単にBEVだけではない幅広いラインアップも誇示していた。

 一方の日系ブランドは、トヨタホンダ、日産あたりは日本車のお家芸であるHEVをメインに展開していた。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 中国系ブランドブースに比べるとBEVが少ないことについては、来場者がどのような反応を見せるのかは気になるところであった。

数カ月で状況がころっと変わる新興国の自動車トレンド

 ちょうど本稿を執筆する少し前に、タイのセター首相が日本のメディアとの会見において、日本のBEV開発への遅れについて懸念を示したということが話題となった。

 タイ政府はBEVをメインとしたNEV(新エネルギー車)の普及に積極的である。都市部の大気汚染問題改善や原油輸入量の削減といった側面でも国内でNEVの普及をはかりたいのだが、それ以上にタイ政府は、日本をはじめとした外資ブランド車の生産工場の誘致を行っているのである。

 前述したタイに進出している中国系ブランドも、ほとんどが2024年中にタイでの現地生産を開始する予定となっている。そのような中国系の動きのなかで、「日本はどうするのか?」というタイ政府の思惑があっての首相発言だったのかもしれない。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 タイ政府は中国政府との関係を非常に重視している。中国系メーカーの動きは、即中国政府の思惑と見ていいだろう。すでに中国系7ブランドが進出しているなかで、日本メーカーは今後どのようにタイ市場でNEVを展開させていくのだろうか。ちなみに韓国ヒョンデ自動車も今回のバンコク・モーターエキスポにて、BEVのアイオニック5をタイ市場で正式発売させている。タイの首相が抱く懸念は、いまや多くの人が抱くものなのかもしれない。

 筆者はバンコク中心部の大通りで行き交うクルマをウォッチングしている。2022年にバンコクを訪れたときは、中国系BEVというとMG ZS EVを多く見かけたのだが、今回はBYD ATTO3や同ドルフィンを圧倒的に見かけることとなった。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 タイ国内での2023年1月から8月までの累計での車名別新車販売台数ランキングをみると、1位はBYD ATTO3で1万4314台となった。2位のNETA Vが8440台なので、ダブルスコアとまではいかないが大差をつけてのトップとなっている。

 ちなみにMG ZS EVは8位。2位にNETA Vが入っているのも驚きを隠せないトピックとしている。NETA Vは航続距離などのスペックを絞り込み、その分お値打ち価格を実現させた「ローコストBEV」と呼ばれるモデル。タイでは意外なほど複数保有が多いこともあり、通勤用などで“お試しBEV”として購入する人も多いようである。「見た目のスタイルはけっして格好いいものでもありませんし、ここまで売れるとは思っていませんでした」とは事情通。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 BYDがここまで勢いがあるのは、現地で独占的にBYDディーラーを展開している地元のパートナー企業の巧みな戦略も功を奏しているようである。地元の報道では、すでに日系ブランドからBYDへ看板のかけかえを行ったディーラーもあるとのことである。

 MGは、トップ10のなかに同社BEVが4台入っており「幅広く売れている」と表現することも可能な状況となっている(BYDは現状ATTO3とドルフィン、そしてシールのみ)。直近でMGは「マクサス9」という9人乗りの大型ラグジュアリーBEVミニバンを発売しており、こちらもかなりの勢いで街なかにあふれ出している。

 BYDも2023年春に開催した「バンコク・モーターショー」にて大型ラグジュアリーEV(BEVとPHEVがある)ミニバンとなる「デンザD9」を参考出品しており、近々タイでも販売開始するのではないかといわれている。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

 タイの街なかではまだまだアルファードがかなり多く走っているものの、ヒョンデスターリアトヨタ以外のとくに東アジアメーカーのミニバンが、アルファードを包囲しよう(包囲したい?)とする動きも見えている。

 2023年3月に続き、2023年11月末から12月上旬にバンコクを訪れようと思ったのは、バンコクへ行けば3月とは違った風景を見ることができると思ったこともあった。実際に訪れてみると、3月とはまったく異なった風景が広がっていた。とくに新興国では日本の2倍3倍も速いスピードで社会が変化している。次は2024年3月にバンコクを訪れる予定だが、たった3カ月であっても見えてくる光景は異なるものになると考えている。

ほんの数年前まで日本車天国だったタイにも忍び寄る中国BEVの脅威

1年を待たずに街行くクルマがガラッと様変わり! 日本車王国だったタイに中韓BEVが溢れている