コロナ禍におけるNintendo Switchの躍進、現行機の発売以降のPlayStation 5の出遅れ、Xboxの台頭などにより、長年の勢力図が変わりつつあるプラットフォーマーの分野。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)や任天堂Microsoftなど、業界のキーパーソンとなるであろう主要プラットフォーマーをめぐっては、2023年から2024年にかけ、この動きをさらに加速させそうな出来事も起こっている。

参考:【写真】SIEのトップから退いたジム・ライアン氏

 本稿では、主要各社の直近の出来事をまとめ、2024年以降の課題と期待される動き、さらにはその先にあるプラットフォーマー勢力図の覇権について考えていく。

■トップ交代、大手ディベロッパー買収、次世代機ローンチ。三者三様の動向

 直近に起きた、もしくは今後起こるであろう、プラットフォーマー勢力図を変化させそうな出来事。最初に紹介するのは、SIEトップの退任だ。同社は2023年9月、約5年にわたって社長兼CEOを務めてきたジム・ライアン氏が2024年3月31日付で退任・退職することを発表した。その後は、現ソニーグループ社長(COO兼CFO)の十時裕樹氏が暫定でCEOに就任するという。

 ジム・ライアン氏といえば、PlayStation 5の展開失敗、さらにはSIEの求心力の低下に関して、(特に日本国内の)ユーザーからその責任を追及され続けてきた人物だ。真偽のほどは定かではないが、現行機のローンチ以降に繰り広げられたSIEの海外偏重の戦略は、同氏がヨーロッパにルーツを持つことに由来しているとも言われてきた。結果論ではあるが、そのタイミングでXboxの台頭を許してしまったことから、こうした方針の失敗を糾弾する声は大きい。だからこそ「十時氏の就任が復権の糸口となるのではないか」と期待されている現状がある。

 一方、対抗馬として勢力を強めつつあるMicrosoftは2023年10月、ようやくアクティビジョン・ブリザード(以下、ABK)の買収を完了した。同社はその過程のなかで、独占禁止法に抵触しないよう、SIE任天堂Valve(Steamを展開)といったプラットフォーマーに「Call of Duty」シリーズなどを少なくとも5年以上は提供すると約束している。そのため、すぐに競合プラットフォームでそれらが遊べなくなることはないが、長期的にはXboxに集約されていくことになるだろう。ABK発のIPを愛好しているフリークにとっては、プラットフォームの移行を検討させるだけの大きな出来事となった。

 さらに“もうひとりの主要登場人物”である任天堂は、Nintendo Switch後継機の発表とローンチを控えているとされる。ここ1、2年のあいだでさまざまな噂が囁かれてきた、同社の“まだ見ぬ次世代機”。現行機の発売からはすでに7年近くが経過しているため、スペック不足が嘆かれる機会も多く、少なくとも発表に関しては「2024年中に何らかの動きがあるのではないか」と言われるケースも少なくない。

 2023年5月、任天堂の代表取締役社長・古川俊太郎氏は、決算発表にあわせて行われた投資家プレゼンテーションのなかで「早くても2024年4月までは新ハードの発売の予定がない」と明かしている。こうした発言は裏を返せば「それ以降の発売については否定しない」とも取れるだろう。

 任天堂は2023年3月期まで、2期連続で減収・減益となっている。2023年11月に発表された2024年3月期の第2四半期決算では『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』『Pikmin4』など、人気ソフトの販売に牽引され、前年同期の売上高を上回ったが、通期では、3年連続で減収・減益となる見通しだ。その背景には、Nintendo Switchが市場に流通しきってしまっているという事情がある。ふたたび増収・増益へと転じるためには、後継機の発売が不可欠となっている。

■次に覇権を握るのはどのプラットフォーマーか。それぞれに抱える課題とは

 三者三様の近況によってプラットフォーマーの勢力図はどのように変化していくだろうか。主要各社の動向にはそれぞれに、大きな岐路となりうるポイントが隠れているように思う。

 最も分かりやすいのは任天堂についてだろう。ゲーム市場全体、さらにはその外側にある分野からも大きな注目が集まるNintendo Switchの後継機だが、期待どおりの成功を収められるかは、性能や価格、発売時期など、少なくとも今年中に発表されるであろう情報によるところが大きい。

 先にも述べたとおり、Nintendo Switchに関してはスペック不足が嘆かれる機会も多く、ユーザーからの視点のみで語るのであれば、最適な世代交代のタイミングを逃してしまったといえる。その反面で、同社はここ2年、ソフトの販売に支えられ、最小限の減収・減益にとどまってきた。無論、各タイトルに相応の魅力があったからこそ売上が伸びたことは言わずもがなだが、その裏にコロナ禍で大きく販売台数を伸ばしたNintendo Switchの普及度による影響があったのは間違いない。こうした背景があったからこそ、同社は自身にとってベストなタイミングを、現在もなお見計らっているのだろう。また、Nintendo Switchは特にライト層、ファミリー層に支持されて販売台数を伸ばしてきた。彼らのなかには、手が出しやすい、買い替えやすい価格で発売されなければ、再び手に取ることを考えていない人も一定数いるはずだ。

 これらを総合し、後継機に必要なのは「Nintendo Switchが築いた地盤を生かせる後方互換性」「焦らされ続けているユーザーが納得でき、かつソフトにとってマルチプラットフォームの展開先となり得るだけのゲーム機としての性能」「(文字どおり)リーズナブルな価格」の3つの要素ではないだろうか。普及度の高いハードだけに、これらすべてにおいて完璧な形で既存ユーザーの期待に応えることは難しいと言える。ベン図のどの位置で3つのニーズのバランスが取れるか。後継機がNintendo Switchと同様に成功できるかは、この点にこそかかっている。

 一方、SIEに関しては、ソフトの充実が課題だ。現行機であるPlayStation 5は、ローンチ直後こそ出遅れたものの、ようやく少しずつそのマイナスを取り戻しつつある。2023年12月には、全世界における累計実売台数が5,000万台を突破。同年7月からの約5か月で1,000万台を積み増した。この数字は、2022年9月までに累計で1億1,350万台を売り上げ、歴代のゲーム機でも第5位の販売台数を誇る前世代機・PlayStation 4のペースに並ぶもの(なお、Nintendo Switchは2023年9月末時点で、1億3,246万台の3位)。同様の勢いで普及が続けば、任天堂が望む“前世代機超え”を達成することになる。

 しかしながら今後、ハードとしての価値を高めていくためには、ソフトを充実させていかなければならない。少なくとも現時点では、サードパーティ製に魅力的なタイトルはありつつも、SIEが独自に展開するもののなかには、キラータイトルと呼べるソフトが生まれていない。需要に供給が追いついたいまだからこそ、SIEにはさらに魅力的なソフトの提供が望まれていくのではないか。この点は皮肉にも、任天堂がクリアしているハードルである。その先に「本当の意味での覇権」があると感じるのは、私だけではないはずだ。

 そして、Microsoftもまた同様の課題を抱えている。そのなかで同社だけに言えることがあるとすれば「肝いりで買収したABKから他社が垂涎するような新規IPを送り出せるか」「Xbox/PCで展開されているサブスクリプションサービス『Game Pass』をユーザーに定着させ、不動の地位を確立できるか」の2点だろう。

 ABKの買収をめぐっては、最大の競合相手と考えられるSIEに対し「Call of Duty」の10年間の提供を約束している。そのため、同シリーズから生まれるタイトルに関しては、MicrosoftXboxプラットフォームに優位性が生まれないが、新規のIPであれば話が変わってくる。ABKは過去「Call of Duty」以外にも「Warcraft」や「Diablo」「Overwatch」『Hearthstone』などの人気作品を世に送り出してきた。Microsoftという後ろ盾の力がくわわれば、2024年以降のそう遅くはない時期に、さらなるキラータイトルが生まれる可能性も否定はできないだろう。

 また、Game Passなどのサブスクリプションサービスをめぐっては2023年9月、『Fall Guys』などのタイトルで知られるアメリカのパブリッシャー・Devolver Digitalが、一連のサービスに対するコンテンツの提供に慎重な姿勢を見せている。背景にあるのは、収益性の問題だ。識者によると「提供側がメーカーに支払う金額は、かつてほど多くない」のだという。

 つまり、これまでと同様にサービスが存続していくためには「メーカーが露出から得られる売上に期待し、コンテンツの提供を決める」あるいは「サービスの提供元がより多くの予算を投じ、メーカーが納得できるだけのリターンを支払う」のどちらかしかない。Microsoftが目指すべき「Game Passの巨大化」は、その2つを一挙に解決できる方法ということになる。

 どのプラットフォーマーが目下の課題をクリアできるのか。その動向こそが次に覇権を握る存在を決めると言っても過言ではないだろう。2024年はプラットフォーマー戦国時代の幕開けの年となるかもしれない。

(文=結木千尋)

画像=Unsplashより