スケートボード界のレジェンドであるトニー・ホークやX GAMESの看板的な種目として世界的に知られている「スケートボード・バーチカル種目」。日本国内ではスケートパークに行くと大きなクオーターパイプが置いてあることもあり存在は知られているものの、ストリート種目やパーク種目とは違ってオリンピック競技として採用されていないことから世間的にはまだ競技としての注目度が低いこのバーチカル種目。しかし、実際国内には芝田モト貝原あさひなど世界最高峰で結果を残しているスケーターがいる傍らで、キッズ世代にも世界で戦える若手スケーターが多くいることから今後更なる注目が期待される種目なのだ。

そんな中でここ数年、国内どころか世界基準で様々な高難度トリックの最年少記録を量産している天才キッズケーターが日本にいるそれが弱冠9歳の河上恵蒔(かわかみ・えま)だ。まだ大会への出場経験は少ないものの、自身が世界最年少でメイクした記録を持つ「540」、「900」、「ロデオ」 などの高難度トリックのスキルは折り紙付きで、11月末に行われた国内大会のシリーズ戦であるJSFバーチカルシリーズ第1戦の「ブルボン presents WINGRAM CUP VOL.1」では堂々の優勝を果たすなど国内トップの実力を持つ彼。

トニー・ホークやギー・クーリーなど世界の名だたるトップスケーターが今大注目している彼にインタビュー。二人三脚で活動を共にする父:リョウヘイさんのサポートの下、スケートボードを始めたきっかけから世界最年少記録を生み出す彼のその強さについて、そしてスケボーを降りた9歳の小学生の等身大の姿と彼が心に抱いている目標に対する思いに迫った。

河上恵蒔 (以下: エマ)
河上リョウヘイ(以下: エマ父)

スケートボードが大好きでとにかく滑りまくった幼稚園時代

初めてスケートボードを買った時

スケートボードを始めたきっかけを聞かせてください

エマ:スケボーを始めたのは4歳くらいでした。神戸市にあるムラスポ(ムラサキスポーツ)に行った時にスケボーに出会ってやってみたくなって始めました。

エマ父:本当はエマと自分も一緒にやろうと思っていたけど、スケボーを買いに行ってエマがお店の施設で滑らせてもらった時に豪快に転んでいるのを見て仕事に支障があると思ってやめました(笑)

スケートボードを始めてから最初のコンテストに出たのは何歳くらいの時ですか?

エマ父:スケボーを始めてから半年くらい経って、5歳の時にミニランプのコンテストやイベントに出るようになりました。でもコロナ禍はほとんど大会が無くて、コンテストも基本的にオンラインで自分たちのトリックを撮影して送って評価してもらうようなものだけでしたね。

エマ:コロナの時には1回しか大会に出れなかったです。

エマ父:そんな感じだったのでバーチカルの大会でいうと、この前出場したWINGRAM CUPがほぼ初めての大会みたいなものですね。

ちなみに最初にできたトリックはどんなもので、何歳の時でしたか?

エマ:多分一番最初にできるようになったのはインターフェイキーだったと思います。それができるようになってからランプドロップするようになった覚えがあります。

エマ父:そうですね。スケボー始めて最初の半年間くらいは週1回くらいしかパークで乗れていなかったんですが、最初にインターフェイキーという、コーピングに前のウィールをかける動きができるようになったのは始めてから2~3週間くらい経った時でしたね。それが最初にできたトリックで、4歳の頃だったと思います。

4歳でインターフェイキーは習得が早いですね。コンテストで披露できるようなトリックとしては何が最初のトリックだったんでしょうか?

エマ父:キャブロックっていうトリックコンテスト用の一番最初に覚えた技で、エマは覚えていないと思うんですけど、4歳の終わりの頃だったかなと思います。
多分これだけ早く習得できたのは、エマがめちゃくちゃ乗り物が好きで、スケボーにも普段からとにかく乗りまくっていたからだと思います。実は元々BMXをやらせたくて、BMXを買って乗らせていたのですが2歳の時には補助輪無しで乗れるくらいになっていました。今よく通っている「Gスケートパーク」も広かったので、トリックを練習というよりもとにかくプッシュしてずっと滑っているような感じでしたね。

エマ:とにかく乗りまくることが昔から大好きでした!

そんなエマくんのスケートボードの好きなところって何ですか?

エマ:バーチカルのヤバい技をメイクして、その映像をInstagramにあげるのが好きです。

エマ父:少し変わっているのかもしれないのですが、周りにはあまり同世代の子がいなくて年上のスケーターが多いんです。特に昔はエマが小さかったこともあって始めた頃は一人くらいしか一緒に滑ってくれる子もいなかったので、僕が撮影した映像をエマに見せては、また滑っているところを撮っては見せての繰り返しをずっとしてきました。コロナ禍で大会も無かったのであまりみんなでワイワイするような機会もなかったんです。
一方でエマのそういうトリックの映像をInstagramにどんどん上げて、色々なコメントや反響があるのをエマにも見せている中で、エマ自身も自分の映像をあげてみんなに見てもらうのが好きになって行ったんだと思います。

エマ:はい!そういう感じです!

今まではSNSで見てもらうことが多かった中で、この前大会でリアルに見てもらってどう感じましたか?

初めて出場した国内シリーズ戦での滑り

エマ:今まで大会に全然出たことがなかったので、自分が実際にトリックとかルーティンを決めた時にこんなに盛り上がってくれるんだというのが分かって、これからもっと大会に出たいなって思いました。テンションも上がるし嬉しかったです。

強さの秘訣は彼自身が引き寄せたトップスケーターたちから学んだスキル

エマくんが好きなトリックは何ですか?

エマ:エアーとかグラインドとかのトリックも得意ですけど、自分が回るのが好きなので540」「900」「ロデオ」っていう回る系の技が好きです。なんで好きかというと自分が回っている時の感覚が、遊園地の回る乗り物に乗っているみたいな感じで気持ち良いからです。

普段はどこで練習していますか?

いつも練習しているGスケートパークのバーチカル

エマ:いつもは神戸にある「Gスケートパーク」っていうところで滑っています。あとは名古屋にある「HI-5」っていうスケートパークに行くこともあります。

エマ父:HI-5にはここ1年くらい行けていないのですが、幼稚園の時は毎週のように行ってました。ここのスケートパークにはこの前のWINGRAM CUPで2位になった西川有生くんがいるので刺激もらいに行ったりスクールを受けたりするために行くことがあります。

一緒に切磋琢磨している西川有生とのツーショット

エマ:あと僕が初めて「540」ができたのもHI-5で、そこからいつも練習してるGスケートパークでもメイクできるようになりました。

エマ父:他のスケートパークでいうと、この前から国内大会のシリーズが始まったので、来月大会がある埼玉県「秩父スケートパーク」に初めて大会の練習のために行ってきました。

今回初めて行ったスケートパークはどんな感覚でしたか?

エマ:いつもはGスケートパークで乗っているから、アールの面とかコーピングの出方が違っていて合わせるのが難しかったけど、合わせられるようになってからはもうここで試合があっても大丈夫だなって思えるようになりました。

9歳にして違いが分かるのはすごいですね!ちなみに普段はどんな人たちと一緒に練習することが多いんですか?

エマ:僕の一番の親友はダイチくんっていう子で、いつも一緒に滑ってくれて新しいトリックとかも「じゃあ今日はこれやってみようぜ」っていう感じで一緒にやってくれています。

エマ父:ダイチくんは小学6年生のスケーターなんですけど、エマが始めた幼稚園の年中の時から唯一ずっと一緒に滑ってくれている子です。今では彼と全く同じトリックを練習することはなくなってきているのですが、各々コンテストで出したい技を同じところで一緒に練習しています。

ただ時間が空いたりした時にはお互いが全くやったことないトリックを一緒に挑戦したりしていますね。ここ4~5年は同じことの繰り返しですね。またエマが小さい頃はダイチくんが難しいトリックも一緒に練習しながら教えてくれていたので彼のおかげで急激に成長できた部分もあります。そんなこともあってずっと師匠って呼んでいますね(笑)

エマくんがスケボーが大好きっていう気持ちが周りに伝わって気づいたらそういう環境が生まれていたって感じですよね

エマ父:そうだと思いますね。あと今ストリート種目で活躍している藪下桃平くんも普段Gスケートパークで練習してるんですけど、エマが幼稚園の年長さんの時に一緒に湘南へ滑りに行ってくれたり、幼稚園の頃から一緒に滑ってくれていて、またFLAKE CUPで優勝して有名になった山下魁正くんとかもエマが小さい頃から滑ってくれていたんです。

しかもエマの得意な回転技の「540」のきっかけをくれたのも魁正くんでした。エマが年中さんの時に彼が何度もやって見せてくれたので、それを真似するようになったことで今があります。当時は四十住さくらちゃんもいたりと、当時から全国的に名の知れたスケーターの子たちが小さいエマと一緒に遊んで滑ってくれたので恵まれていましたし、本当にありがたいです。

エマくんが本当にスケボーが大好きで滑ってたからこそ自然とそういう今までは世界で活躍するようなトップスケーターが集まってきたんだと思います

 

スケートボードを降りた9歳の等身大の姿

いつも学校の友達からはなんて呼ばれてますか?あだ名とかありますか?

エマ:普段から「エマ」って呼ばれることが多いけど、たまに「エマスケ」って呼ばれることもあります。あとお父さんからは「エマキチ」って呼ばれています(笑)。でも一番好きなあだ名は「エマキチ」です。

学校の友達とは何をして遊んでいますか?

エマ:ドッジボールとか鬼ごっこをして遊んでいます。ドッジボールを投げるのは得意じゃないけどキャッチするのは得意です。あと他に得意なスポーツはサッカーです。でも学校ではサッカーをしちゃいけないので、友達と学校以外のところでチーム戦とかをやってよく勝っています。

好きな漫画とかアニメとか学校で流行ってるものを教えてください

エマ:ちゃんとした名前は分からないんですけどジョジョ(*ジョジョの奇妙な冒険)」っていうアニメとか、「ワンピース」とか、あとはロボットが戦うみたいなやつ(*トランスフォーマー)が流行ってます。

ちなみに自分が出られるとしたらどんなアニメ、もしくはどんなテレビ番組に出てみたいですか?

エマ:テレビだったら「月曜から夜更かし」に出たいですね。なんか「カラスの声ができる人」とかいろんな人が出てて面白くて好きな番組だからです。

エマ父:渋いですよね(笑)。なんかこの番組の映像が最近TikTokでバズったりしてるっていう話は聞くので、そういうのが理由かもしれないですね。

そんなエマくんが今会ってみたい人っていますか?

エマ:スケーターになるんですけど、会ってみたいのはショーン・ホワイトです。なぜかというとバーチカルでヤバいトリックをしていく時に、普通はメロンとかでエアーの高さを稼いだり休んだりするんですけど、ショーンエアーの高さも下がらないし、繋ぎのトリックも入れないでベストトリックだけでルーティンをメイクできるからです。

エマ父:エマにとって一番最強なのはショーンで、いつも彼の昔の大会の動画から最後に出た大会の動画まで見るんですけど、大会ごとに成長しているところもかっこいいみたいで、ショーンが絶対ルーティンで入れていた「ステールロデオ to ロデオ」を今は完コピしようと練習しているところです。

世界のトップ選手に認められた彼が見据える世界の舞台

ギー・クーリとのツーショット

この前のWINGRAM CUPでギー・クーリと会ってみてどうでしたか

エマ:X GAMESとかに出ている世界のトップ選手が自分のホームパークに来ていることがまず凄くて、そんなプロの滑り方を目の前で見れて嬉しかったです。あとギー・クーリはバーチカルに入って1本目から下から漕いで「キックフリップインディ」っていう技を普通に決めていたので、そういうところを見て自分はまだまだだなって思いました。

エマ父:ギー・クーリのお父さんに工具を貸してくれって頼まれたので、貸してから見ていると、ウィールからベアリングからデッキまで全部新品でボードを組み始めたんです。それからその新品ボードで、ギーはまだ滑ったこともない面がツルツルのGスケートパークのバーチカルに入って1本目からトリックをやり始めたので、エマはそれにきっとびっくりしたんだと思います。そういうところがプロらしくてカッコいいなって思いましたね。

ギー・クーリと一緒にライディング

9歳で冷静にプロ選手のどこがすごいって言葉にできるのはすごいですね。ちなみにエマくんが出てみたい海外の大会ってありますか?

エマ:やっぱり「X GAMES」です。世界で一番になった人とかそういうトップ選手と戦ってみたいし、自分が好きなプロ選手たちと一緒に滑って戦えるということにとてもテンションが上がるからです。

次に目指す舞台は「X GAMES」

河上恵蒔が目指す今後の目標と将来の夢

将来どんなスケーターになりたいですか?

エマ:目標にしているスケーターでもある「ギー・クーリ」、ショーン・ホワイト」、「PLG」みたいな選手になりたいです。やっぱり繋いでいる技もかっこいいし、この3人は他のスケーターがやったこともないようなトリックをメイクしてそれをベストトリックとかルーティンに入れてくるところが好きだからです。

そんな今、エマくんが目指している目標を教えてください

エマ:今一番目指している目標はやっぱりX GAMESに出て、そこで勝って「こいつヤバい!」って思われたいです。

エマ父:正直今までいろんなトリックで最年少記録を残してきたので、X GAMESでも最年少出場できたらいいなってエマと一緒に話していました。なんとかX GAMESに出られるようにエマと話し合いながらInstagramの発信とか頑張っているところです!

最後にエマくんの将来の夢を聞かせてください

エマ:X GAMESとかでいっぱい勝って有名になって、四十住さくらちゃんみたいにいっぱいテレビ出たいなって思っています。あと前に海外のゴッドタレントという番組に招待されたんですが、その時はバーチカルのセットが作れなくて実現しなかったので、もっと世界大会とか優勝していって今度はゴッドタレントに出たいです。あとは自分の「エマ」っていう名前が付いたオリジナルトリックも作りたいなって思っています。

最後に

今回、弱冠9歳の河上恵蒔くんにインタビューの中で終始感じさせられたのは、彼が持っている確固たる軸というようなものだった。9歳とは思えないはっきりとした受け答えの中から、現状の自分と世界のプロ選手との違いの分析から自分が今後どういう風に世界で活躍していきたいかまでを、しっかりと先を見据えた目で我々編集部に語ってくれた。そして何よりその話の節々からどれだけスケートボードが大好きなのかが伝わってきていて、これがたくさんのトップスケーターや周りの応援してくれる人を惹きつける彼の魅力なんだと肌で感じさせられた。今後も編集部として将来有望な彼の活動を追っていきながら、是非X GAMESをはじめ大舞台で活躍する姿もまた発信できればと思っている。

河上恵蒔プロフィール

2014年9月8日生まれ。兵庫県神戸市出身のスケーター。4歳からスケートボードを始める。5歳から本格的にコンテストにも出場する中、現在では様々な高難度トリックの世界最年少記録を保持している。また最近スケートボードキャリアで初めての大きなコンテストで優勝。X GAMESメダリストであるブラジルのギー・クーリからも直々に指名を受け海外のテレビに出演(現在は放送前となります)、そしてバーチカル競技の第一人者であるトニー・ホークからも注目されるなどすでに世界中から注目を集めている逸材。スポンサーはtriple8nyc、OperaSkateboards、187killerpads、miharayasuhiro、gromusa、G Skatepark

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