中国が世界に誇るマンモス企業「HUAWEIファーウェイ)」。世界トップシェアを誇る通信機器メーカーとして知られています。米中関係の悪化により、米国の「エンティティリスト(禁輸リスト)」に入るなど苦難を強いられている同社ですが、現在「スマートカー事業」への注力がすさまじいと、現地に住む東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長はいいます。ファーウェイのいまと今後について、奥山氏が解説します。

スマホで知られるファーウェイ、「EV事業」に注力

中国各地にある華為技術ファーウェイ)の店舗。スマートフォンを押しのけるようにして大々的に展示されているのは、同社が手がけるEV(電気自動車)だ。「ブランド連合」をキーワードに、既存自動車メーカーとのタッグで市場を開拓している。

かつては“サプライヤー”に専念していたが…「スマートカー企業」変貌なるか

ファーウェイは2019年5月に「スマートカーソリューション事業部(BU)」を立ち上げた。スマートカー向けの情報通信技術(ICT)部品、独自基本ソフト(OS)「鴻蒙(ハーモニー)」、自動車向けソリューション「HI(ファーウェイインサイド)」の提供が中心だ。

広義のサプライヤーと位置づけられ、当時の徐直軍・輪番会長も「ファーウェイは自動車を造らない」「ICTと自動車の融合促進に専念する」と強調していた。ただ、いまではその役割を徐々に脱し、スマートカー企業へと変貌しているように見える。

大手と次々業務提携…ファーウェイの武器「ブランド連合」

同社が「ブランド連合」と呼ぶエコシステムを見ていこう。まずは北京汽車(01958)。出資先の北汽藍谷新能源科技(600733)が、ファーウェイのソリューションが搭載された「ARCFOX極狐αT」を20年10月に発売した。

また、ファーウェイ賽力斯集団(セレス、601127)は独自OS「ハーモニー」を搭載した「問界(AITO)」を共同開発。ファーストモデルのSUV「M5」が22年3月に納車開始、後継のSUV「M7」は今年9月に販売が開始された。

23年11月の「AITO」ブランドの販売台数は前年同月比127.9%増の1万8,827台に上るなど好調。「新興EV3社」の一角を占めるNIO(09866)の1万5,959台を上回り、小鵬汽車(09868)の2万41台に迫る勢いだ。

自動車メーカー・電池最大手とのコラボも

このほか、重慶長安汽車(000625/200625)寧徳時代新能源科技(CATL、300750)の合弁企業は22年8月、ファーウェイの「HI」をフル搭載した「阿維塔(アバター)」の初モデル「E11」を発売。老舗自動車メーカー・電池最大手とのコラボは俄然注目を集める。

今年11月には奇瑞汽車と共同でEVの新ブランド「智界(Luxeed)」の予約販売を開始。ファーストモデルの「智界S7」はセダンタイプで、テスラの「モデル3」を意識しているとされる。12月には、安徽江淮汽車集団(JAC、600418)ファーウェイ傘下の華為終端と提携。共同で高級スマートカー・ブランドを構築する考えだ。

スマートカー部門独立なるか…ファーウェイはいま「正念場」

アリババ集団(09988)、百度(09888)、小米集団(01810)などテック系企業の参入が目立つ新エネ車産業。そのなかで異彩を放つファーウェイの次の一手はスマートカー部門のスピンオフだ。

同社は先ごろ、関連コア技術と経営資産を新会社に移管すると発表。その新会社には重慶長安汽車が最大40%出資する見込みで、第一汽車集団や東風汽車集団(00489)も最大5%出資する可能性があるらしい。事実上、「ファーウェイ・モーター」の誕生といえようか。

スマートカーはファーウェイにとって唯一の赤字部門とされる。部門立ち上げ以来の開発投資額は累計30億米ドル。一方、22年12月期の事業売上高は20億元あまり(総売上高の約0.3%)にとどまる。

外部資本の受け入れを通じ、投資リターンの拡大とさらなる躍進を遂げられるか。これからが正念場だ。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)