人間の能力を引き上げてくれるパワードスーツ! 【クルマのプロに聞く! あなたにとってのクルマとは? 渡辺陽一郎編】

この記事をまとめると

■「あなたにとってのクルマはどういう存在ですか?」という質問にモータージャーナリストが回答

■クルマは人間の力では不可能な力を与えてくれるパワードスーツ的な要素を持っている

■渡辺陽一郎さんにとってクルマは仕事をするうえで1番集中できる空間と考えている

人と一体化できる稀有な機械

 クルマの魅力はさまざまだが、情緒的な部分は、以下のふたつに集約できる。

 ひとつは人が一体化できる機械であることだ。たとえば狭い道を走っているとき、前方に路上駐車している車両があったとする。このときにドライバーは、「ドアミラーをたためば通り抜けられる」といったことが直感的にわかる。クルマの全幅は5ナンバー車でも約1.7mに達するが、ドアミラーをたたんだときの寸法の違いまで正確に把握できるのだ。

クルマのプロに聞く! あなたにとってのクルマとは? 渡辺陽一郎編

 このときの感覚は、ドライバーの肩幅が車幅と等しくなり、つまり車両と一体化している。狭い通路を歩くような感覚で、クルマを運転しているのだ。車庫入れするときも同様で、慣れていれば、毎回1cmも違わずに同じ場所に駐車できる。

 その一方で、クルマの移動速度は際立って速い。陸上競技の選手が100mを10秒で走っても時速36kmだが、クルマで高速道路に乗り入れると、日常的に時速100kmで移動できる。ドライバーが車両に一体化すれば、物凄い身体能力も身に付けられるのだ。このパワードスーツ的な効用が、クルマの有力な魅力になっている。

クルマのプロに聞く! あなたにとってのクルマとは? 渡辺陽一郎編

 ただし、ドライバーが一体化して速く走るだけなら、モーターサイクルにも当てはまる。モーターサイクルはクルマに比べてボディが小さいため、一体化するパワードスーツ感覚は、さらに強いともいえるだろう。

愛車の車内は貴重な仕事場でもある

 そこで、クルマにとって重要になのが、居住空間の効用だ。クルマは動く個室であり、ひとりで乗車しているときは、たとえ街なかの渋滞にハマっていても自分の周囲には誰もいない。混雑した街なかから高速道路まで、走る環境が変わっても、車内は常に快適で平和だ。車外が吹雪でも車内は暖かく、この快適性と安楽さは、モーターサイクルでは得難いクルマならではの特徴になる。

クルマのプロに聞く! あなたにとってのクルマとは? 渡辺陽一郎編

 つまり、クルマの魅力はこの二面性にあると思う。私の場合であれば、たとえば新型車の報道試乗会には、自分のクルマで出かける。箱根の山中にあるホテルで開催されるときは、ちょっと積極的な気分で朝の峠道を走る。このときは、愛車が期待に応えて一体化するパワードスーツ感覚を味わえる。気分は一層積極的になり、取材にも力が入る。

 そして、新型車の取材を終えた夕方。体は疲れ、季節によっては気温も下がる。もはや峠道を積極的に走る気分ではない。そのときは、愛車が私を優しく癒してくれる。

 高速道路に入ると、夜の静かなパーキングエリアに駐車して(騒々しい大きなサービスエリアではない)、室内灯をつけ、改めて試乗のメモを取る。今日の試乗をもう一度思い出して、見過ごしていたことがないかを確認する。

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 そして、試乗した新型車にどのような長所と短所があり、いかなるユーザーに適するのか、ライバル車と比較して、さらに日本で売られるクルマ全体のなかで、どのような位置付けにあるのかを考える。少なくとも1時間は、今日試乗した、いや出会えた新型車に思いを巡らす。そして、自分なりの結論を出す。この作業を怠ると、後々その車種に対する理解が浅くなってしまうのだ。

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 この作業は、なぜか喫茶店や自宅で行うとノリが悪い。クルマに関する作業だからなのか、愛車のなかが一番集中できる。

 こんな風にクルマを使っているためか、私は愛車に文字どおり深い愛着を持ってしまう。だからいままでの愛車は、すべて最後まで使い、看取っている。必ずしも正しいクルマの使い方とは思わないが、パワードスーツになったり、癒してくれたり、仕事場になったりするのだから簡単には離れられない。

 仕事的にはリセールバリューの原稿も書くけれど、個人的には、愛車と別れるときのことなんか、絶対に考えたくない。

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