ストーリーの展開に欠かせないのがヴィラン(悪役)。昨今の作品では魅力的なヴィランが続々登場し、主役以上に観客の目と心を奪っている。俳優にとっても、一度は演じてみたいのが悪役。既存のイメージを壊し、悪に徹する姿で新たな魅力を見せた“イケメンヴィラン”7人を紹介。

【写真を見る】役作りの為に20kg近くバルクアップしたイ・ジュニョク

■『犯罪都市 NO WAY OUT』イ・ジュニョク

痛快なアクションとコメディの融合で大ヒットシリーズとなった『犯罪都市』(17)の第3弾となる『犯罪都市 NO WAY OUT』(2月23日公開)で、麻薬取引に手を染める汚職刑事のチュ・ソンチョルとして、主演の“怪物刑事”マ・ソクト(マ・ドンソク)と対峙するイ・ジュニョク。役作りの為に20kg近くバルクアップした姿で登場した瞬間、圧倒的なカリスマを見せ、一気に彼に釘付け。ボイストレーニングを受けたといういつもと違うトーンの話し方、自信と余裕を感じさせる眼差し…。

自分では直接手を汚さず、部下を背後で操り、成功の上澄みをすくいながらうまく思い通りの人生を歩んできた人物なのだろうと観客に感じさせる演技に引き込まれる。ルックス面でも、ウェーブのかかった少し長めの髪と鍛え上げた体にまとったスーツ姿が“脂の乗った男”という雰囲気でドキドキ。

■『オオカミ狩り』ソ・イング

スイートなイメージが強いソ・イングクが、「韓国映画史上、最も強烈なバイオレンス・サバイバル・アクション」と言われる『オオカミ狩り』(22)で、念願の悪役に初挑戦。人殺しを何とも思わないどころかむしろ快楽を感じる超凶悪犯・ジョンドゥを見事に演じきり、イメージチェンジに成功。全身タトゥーで、相手の耳を噛みちぎり返り血を浴びまくりながら楽しそうにニヤッと笑う姿にゾッとする反面、「ソ・イングク史上、最高にセクシー」と、観客を沼堕ちさせた。

トレードマークである三白眼が存分に生かされた“イッちゃった目”も、完全にイカレてるジョンドゥの印象を際立たせている。役のために16kg増量して鍛え上げた体を惜しげもなく見せるバックヌードにも注目。

■『非常宣言』イム・シワン

イム・シワンというと、彼の出世作「ミセン-未生-」での不器用で誠実なチャン・グレ役をまず思い浮かべる人が多いと思うが、最近は悪役にも果敢に挑戦。『非常宣言』(21)では、飛行機の中で殺人ウィルスをばら撒くバイオテロ犯を演じている。空港のトイレで体にウィルスを仕込んでいるのを見てしまった少女にしつこく付きまとう時も、機内でウイルスを撒く時も、常に無表情。犯人だとわかった後も悪びれもせずに薄ら笑いで淡々と犯行について語る様子が本当に憎たらしい。

端正な顔立ちで大きく表情が変わらないクールビューティな彼が演じる事で、何を考えてるのかわからない静かに狂っている人物像が際立ち、怖さが増す。おとなしそうなイメージを逆手に取った「一見、無害そうだけど、どこか気持ち悪い」というキャラは、イム・シワンの真骨頂だ。

■『殺人鬼から逃げる夜』ウィ・ハジュン

ホラーサスペンス『殺人鬼から逃げる夜』(21)で、ウィ・ハジュンは殺人の現場を目撃した聴覚障害の女性をしつこくつけ狙う連続殺人鬼を演じる。実生活で学生時代100m走11秒台後半だったという俊足の彼が、風を切る音が聞こえそうなほどの全速力で追いかけてくる様はド迫力で、ただただ恐怖。演技面でも、鋭く氷のように冷たい目でゾッとさせたかと思えば、被害者の兄のふりをして妹を心配する善良な表情を見せ、善と悪の顔を瞬時に切り替える様子が見事で、まさに“ウィ・ハジュン劇場”。

徹底した役作りで知られる彼は、役に合わせて13kg減量し、『シャイニング』(80)のジャックニコルソンの表情なども研究。役柄の心理を理解する為に連続殺人犯プロファイルなどもいくつも読んだんだそう。“善人”の時には頼りたくなってしまうような安心感を醸し出し、本性を現した時は獲物を見下すような冷徹な表情がどこかセクシーで目をそらせなくなる、そんな彼の両極の魅力を堪能できる。

■『犯罪都市 THE ROUNDUP』ソン・ソック

ソン・ソックは、「私の解放日誌」での寡黙で謎めいたク氏役で女性視聴者の心を鷲掴みにした直後に、『犯罪都市』シリーズ第2弾となる『犯罪都市 THE ROUNDUP』でヴィランのカン・ヘサンを演じてブレイクした。カン・ヘサンは本能で人を殺す男。邪魔だから殺す、それだけ。彼にとっては何ら特別な事ではなく、息をするのと同じように次々に目の前の人間を殺していく。だが、無感情に人を殺す殺人マシーンではなく、根底では常に怒りを抱えていて、そのスイッチが簡単に入るのだ。悪人オーラが出ているわけでもなく、粗暴な言葉遣いもしない、一見、寡黙な男という印象。だが、眼光だけは鋭く、目が合えば一瞬で「触れたら危険」と緊張させる。

しかし、怖さのなかにどこかセクシーさを感じて「あの目に射られたい」とうっかり思ってしまう女性も多いはず。また、役作りとして10kg増量したが、筋肉美を強調する為に鍛えてバルクアップしたのではなく、食事量を増やして年相応の中肉の男性として体を大きくした。とは言っても、もともと筋肉がしっかりついているだけに、脱いでもカッコいい。ソン・ソックの危険な魅力をぜひ体感してほしい。

■『バレリーナ』キム・ジフン

バレリーナの友人を殺された女性の復讐劇を描くNetflixオリジナル映画『バレリーナ』で、キム・ジフンは“女性の敵”チョイを演じている。次々に女性をナンパして、こっそりセックスムービーを撮り、それをネタに脅した挙句、監禁、殺害、というド変態のクソ男だ。これがその辺のブサイクだったら、単に「キモチワルい!」で終わってしまうが、イケメンのキム・ジフンが演じる事で、自分だったらついていってしまうかも…と思い、他人事ではない怖さを感じさせる。

キム・ジフンは「私はチャン・ボリ!」や「金持ちの息子」などでは明るくポジティブなイケメンとして女性を胸キュンさせたが、悪役になるとあの二重で魅力的な目にドロッとしたオーラが宿り、一気に気味悪さを醸し出す。今作では「あの人、カッコいいけどなんか気持ち悪くない?」と囁かれるようなヤバい男を見事に体現し、“キモイケメン”という新たな一面を確立した。

■『毒戦 BELIEVER』キム・ジュヒョク

麻薬取締官が正体不明の麻薬王を追って麻薬の巣窟に潜入し、数々の狂人たちと激闘を繰り広げる大ヒット映画『毒戦 BELIEVER』で、闇マーケットの王・ハリムとしてレジェンド級のヴィランを演じたキム・ジュヒョク。超ド級のヤバさで「ホジュン~伝説の心医~」や「武神」での誠実でまっすぐな雰囲気や、バラエティー番組「一泊二日」での優しく愉快な印象を見事にぶっ飛ばした。

ボクサーパンツガウンを羽織り、胸をはだけさせてボサボサ髪で登場した瞬間、画面を突き破るような圧倒的な存在感で文字通り彼に釘付け。他の出演者はいっさい目に入らなくなるほどだ。クスリ漬けで焦点が合ってないが獲物を絡めとるような目つきで縮み上がるような恐ろしさ。退廃的なオーラが充満し、“ヤバい男のセクシー”の究極の正解を見たと思った。同じくヤク中のイカレた妻との獣のような荒々しく生々しいキスも必見。新たな一面を見せ、今後の作品に期待が高まるなか、今作の撮影後に交通事故で帰らぬ人となり、これが遺作となった。彼の最期の最高の怪演を是非目に焼き付けてほしい。

文/鳥居美保

主人公より魅力的な韓国映画の“イケメンヴィラン”たちを紹介!