東京都内の品川駅の北エリアで現在進行中の大規模再開発事業となる、高輪ゲートウェイ駅周辺の開発に関する整理と、2024年1月の状況をお伝えします。

2020開業の山手線49年ぶりの新駅「高輪ゲートウェイ駅」

JRの田町駅品川駅の間には、元々は「品川車両基地」がありましたが、基地設備や車両留置箇所の見直しを進めることで約13haの大規模な用地が創出されることから、2014年6月にJR東日本が「新駅の設置」と「この用地を活用したまちづくり」を始めると表明しました。
まちづくりは、地域と連携しながら、従来の発想に捉われない国際的に魅力のある交流拠点の創出を図っていくとしました。

画像:2014年6月3日JR東日本リリース資料より

その後のいろいろな検討などを経て2018年9月に都市計画手続きを開始、2019年4月に都市計画決定したのが品川駅北周辺地区での再開発プロジェクト「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)」です。

そのまちづくりの初期過程として、2020年3月14日山手線30番目の新駅として誕生したのが「高輪ゲートウェイ駅」になります。山手線では1971年に開業した西日暮里駅以来49年ぶりの新駅開業となりました。京浜東北線では、2000年のさいたま新都心駅以来の新駅です。

「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)」の中でも、高輪ゲートウェイ駅周辺のエリア(後述する 4街区)に関しては、2024年度末(2025年3月)に開業し「まちびらき」が行われる予定となっています。
この2025年3月に時期を合わせ、高輪ゲートウェイ駅の品川寄りには南改札も新たに設置され、オフィスや商業施設などの開業とともに、いよいよ本格的に多人数の利用が始まると予想されています。この街が完成した時点での高輪ゲートウェイ駅の乗降人数は、1日当たり13万人と見込まれています。

高輪ゲートウェイ駅 2025年3月には南改札が追加設置される(画像;JR東日本

高輪ゲートウェイ駅へは、現在は駅の西側からしかアクセスができませんが、2025年3月には線路を挟んだ駅の東側・芝浦港南地区にアクセスができるような、横幅約11mの歩行者専用道(駅東側連絡通路)が整備される予定で、芝浦水再生センターの上階にある芝浦中央公園につながります。

JR東日本が手がける街「TAKANAWA GATEWAY CITY」

図:JR東日本 都市計画(素案)の概要から

2023年5月には、JR東日本が進めている品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)により整備される街の名前が、「TAKANAWA GATEWAY CITY」(高輪ゲートウェイシティ)に決定しました。

江戸への玄関口としての役割を担った歴史的背景および国内初の鉄道が走った地のイノベーションの記憶を継承し、さらに東京国際空港にも好アクセスな地域の特性から、開発コンセプトに「Global Gateway」を掲げ「100年先の心豊かなくらしのための実験場」となる街を目指すとしています。

今回のTAKANAWA GATEWAY CITYの開発では、高輪ゲートウェイ駅の西側に、線路に沿って設置される4つの街区で整備が進みます。
そのうち駅に一番近い4街区に建てられる2つのタワーで構成される複合棟Ⅰに関しては、2024年度末(2025年3月)が開業予定となります。その他の1~3街区の開発に関しては、2025年度内(2025年4月~2026年3月まで)の完成予定となっています。また4街区よりも南側・品川駅寄りの部分に関しては、さらに将来に開発される予定となっています。

芝浦港南方面から見たTAKANAWA GATEWAY CITYの完成イメージ(画像:JR東日本

今回の開発の中では最も品川寄りになる4街区は高輪ゲートウェイ駅に隣接をしており、North・Southという2棟の高層ビルからなる「複合棟Ⅰ」と呼ばれる建物が建築されます。そこから田町側に隣接する3街区には「複合棟Ⅱ」が、その隣の2街区には「文化創造棟」が、駅から田町側に一番離れた1街区には「住宅棟」が建設される予定となっています。

高輪ゲートウェイ駅直結の複合棟Ⅰ

まず今回は、高輪ゲートウェイ駅に隣接するのが4街区の複合棟Ⅰをご紹介します。

複合棟Ⅰと高輪ゲートウェイ駅間は、2階レベルに設置される歩行者デッキで接続されます。地上階である1階レベルには、約3,500 ㎡の駅交通広場として、バスやタクシー、一般車・身障者乗降用スペースなどが整備される予定です。

図:JR東日本 都市計画(素案)の概要から(品川新駅=高輪ゲートウェイ駅です)

4街区の複合棟ⅠSouthとNorthの間の2階レベルには、約6,500㎡の歩行者広場が整備されます。全ての街が開業した後は、この駅前の広場には、1日あたり約27万人が往来すると予測されています。

駅前広場イメージ ( 図:JR東日本 都市計画(素案)の概要から )
駅前広場のイメージ (画像:JR東日本

複合棟Ⅰは2つの高層ビルを低層階で接続されているような建物になっています。
南側・品川駅側から紹介をすると、複合棟ⅠSouth は、地上30階・地下3階・高さ158.68m、ホテルやオフィス、商業施設、コンベンション・カンファレンス施設が入ります。ホテルはマリオットの最上級ブランド「JWマリオット」になります。
複合棟ⅠNorthは地上29階・地下3階・高さが161.43mで、オフィスや商業施設、ビジネス支援施設、ルーフトップレストランなどが入ります。NorthにはKDDI本社が入ることが決まっています。

Soutu と North の2つのツインタワーからなる複合棟Ⅰ(画像:JR東日本

駅前直結のコンベンション・カンファレンス施設でMICE招致

複合棟Ⅰの地下1,2階には、1,700㎡で最大2,000人を収容できるコンベンションホールや7室の会議室、Southの6階には7室の会議室が整備されることで、駅前直結のコンベンション・カンファレンス施設が山手線内に誕生することになります。

図:JR東日本 都市計画(素案)の概要から

コンベンション・カンファレンス施設の運営はコングレが行い、上階に出来る国際ブランドのホテル(JWマリオット東京)と合わせ、国際会議・MICE招致を行っていきます。また、個々のMICE施設だけではなく近隣地域全体として必要な機能を充足しながらMICE招致・開催を行う取り組みである都心型エリアMICEも推進するとしており、近隣地域にある八芳園やプリンスホテルなどとの提携をすることが発表されています。

複合棟ⅠNorthの6~7階に設けられるビジネス支援・インキュベーション施設では、企業の新規事業部門等が中心となり、産官学連携のオープンイノベーションで生活者視点の「心の豊かさ」につながるサービスを創出。街全体を活用した実証サイクルにより、早期の社会実装をサポートします。
複合棟ⅠNorth 6階には、環境生命科学ラボ(仮称)が設置され、スタートアップや大学、街の入居企業やパートナー企業を繋げ、主に環境・食・ヘルスケア分野の社会課題解決に取り組むことになります。

国際的なラグジュアリーホテル「JWマリオット」が首都圏に初進出

複合棟ⅠSouthの高層階23~30階には、マリオット・インターナショナルの数々のホテルブランドの中でも最上級ランクに位置づけられるラグジュアリー・ホテルである「JWマリオット」が、首都圏に初めて進出することが発表されています。

JWマリオット・ホテル東京 客室内装イメージ(画像:マリオット・インターナショナル・ジャパン

このホテルは、贅沢な設えの客室およびスイートルームを擁し、総客室数は約200室の予定です。MICE機能の整備等に合わせ、外国人ビジネスワーカーや観光客等の短期滞在ニーズにも対応できる国際水準の宿泊施設になります。

また、25メートルの屋内プールやフィットネスセンターなどのレクリエーション施設も完備され、計6室のトリートメントルームを備え疲れた心と身体を癒すSpa by JW 、セミオープンキッチンや寿司バーなどを備えたオールデイダイニング、本格的なフレンチなど各国料理を楽しめるスペシャリティレストランも設置されます。

KDDI本社がTAKANAWA GATEWAY CITYに移転

2023年5月には、KDDIがTAKANAWA GATEWAY CITYの共創パートナーとして「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を構築していく事と、本社を複合棟ⅠNorthへ移転することが発表されました。(KDDIの本社移転は、2025年春めど)

内観イメージ (画像:KDDI

JR東日本KDDIは、TAKANAWA GATEWAY CITYにおいて、街の設備や街の人に関するデータ(例えば、オフィスの入退場記録データや鉄道データ、商業データ)を収集・分析するデータ基盤の構築を通して、新たなサービス(例えば、快適なくらしをリコメンドするサービスなど)の創出を可能にするまちづくりを進め、防災シミュレーションを活用した強靭なまちづくりの推進や、ロボットを活用したサービスの開発などを行っていく予定です。
また、2社でのスタートアップ事業共創プログラムも推進していくとしています。

South 9階に「東京大学 GATEWAY Campus」を開設

JR東日本東京大学とは産学協創協定を締結し、「プラネタリーヘルス」の創出を目的とした協創プロジェクトを立ち上げます。
「プラネタリーヘルス」というのは、人の経済活動が、健康や都市環境、地球上の生物・自然に与える影響を分析し、「人・街・地球」の全てがバランスよく良好に保たれるようなくらしづくりを目ざすという考え方です。

複合棟ⅠSouth 9階「東京大学 GATEWAY Campus」のイメージ (画像:JR東日本

この協創プロジェクトを推進するため、複合棟ⅠSouth 9階には、プラネタリーヘルスをテーマにした新しいキャンパス「東京大学 GATEWAY Campus(約300坪)」がオープンします。ラウンジを含むコラボレーションエリアとラボエリアからなり、東大のほかのキャンパスと連携しながら、さまざまな企業やアクセラレーターとの共創を生み出していく実験拠点となります。

(最上階ルーフトップ、高輪築堤の保存・観覧、現在の進捗写真などに続きます・・)

North 最上階には植物があるルーフトップ

複合棟ⅠNorth 28~29階には、地上100m以上の高層建築物では世界で類を見ない、本物の植物を圧巻の規模で展開する約2,000坪のボタニカル・ルーフトップ空間が誕生します。

North 28~29階のボタニカル・ルーフトップ(画像:JR東日本

このルーフトップには、2つの半屋外のパブリックガーデン、一軒家風のレストラン(ルーフトップレストラン)・カフェ等のショップが設置され、イベント開催などが行われる、品川駅周辺の展望が楽しめる複合用途の場所となります。

商業施設開発はルミネが

商業施設の開発に関しては、JR東日本グループで駅ビルとしてのショッピングビル事業などを展開をしているルミネが参加します。
TAKANAWA GATEWAY CITYの「100年先の心豊かなくらしのための実験場」という考え方のもと、あらゆる側面で前例のない挑戦を重ね、過去に類を見ない新しい商業のかたちをつくるという事ですので、どのような形になるか期待しましょう。

広大なオープンスペース多様なParkを配置

TAKANAWA GATEWAY CITYには、都内最大級約4haのオープンスペースが整備され、南北約1km以上にわたって、駅や広場からなる遊び場(Park)が形成されます。

複合棟Ⅰの駅前広場や、North最上部のボタニカル・ルーフトップなど様々な場所で、約2.7haの在来種を基調とした緑に彩られる景観が形成されます。周辺の水系、地形、植生を取り込み、日本の四季の豊かさが感じられるとともに、地域の方々と環境保全に取り組む舞台となります。

図:JR東日本 都市計画(素案)の概要から

また、上図のように、国道15号線との隣接する場所には、高輪地区とつながる広場が整備されます。

複合棟Ⅰの外装デザインはピカード・チルトン

複合棟Ⅰの外装デザイン・エントランス内装デザインには、世界的な建築設計事務所であるピカード・チルトン(Pickard Chilton)を起用しています。街の中心街区として「象徴的なアイデンティティの創出」「ヒューマンスケールな空間表現」「海岸線を想 起させる全体デザインに調和する『フロー』が生み出す良質な空間形成」を指針にデザインを行いました。

高輪ゲートウェイ駅側から見た駅前広場イメージ (画像:JR東日本

また、ホテル内装デザインは、ヤブ・プッシェルバーグが務めています。

明治初期の鉄道構造物「高輪築堤」の保存と活用

品川開発プロジェクトを進めるにあたり、2019年4月にJR東日本の敷地内で品川駅改良工事を行っていたところ、石積みの一部が発見され、その後、山手線および京浜東北線の線路切換工事以降のレール撤去などを行ったところ、2020年7月には「高輪築堤」(たかなわちくてい)の一部とみられる構造物が見つかりました。

「高輪築堤」とは、明治5年(1872年)に日本初の鉄道が開業する際に、海上に線路を敷設するために構築された鉄道構造物で、わが国の歴史上も、世界史上も極めて重要な近代化遺産だとされています。特に、第七橋梁付近の石組みの遺構は、三代歌川広重の錦絵に描かれた築堤を想起させ、美しい石積み、弧を描く形状など、圧倒的な魅力を備えているとされます。(出典:東京都港区

その後、考古学・鉄道史などの有識者で構成された高輪築堤調査・保存等検討委員会において、調査・保存のあり方が議論・検討され、2021年9月17日には、日本の交通の近代化や当時の土木技術等の歴史を知る上で重要な遺跡とされる、第7橋梁部および公園部が、すでに指定されていた「旧新橋停車場跡」に追加という形で「旧新橋停車場跡及び高輪築堤跡」として史跡指定されました。

高輪築堤 2021年時点写真と保存イメージ (画像:JR東日本

JR東日本では、高輪築堤調査・保存等検討委員会の取りまとめや、2021年9月の史跡指定を受けた上で、有識者の指導や技術的見解を踏まえた上で保存・公開方法を検討し、2023年5月に文化財保護法に基づいた保存活用計画に関して文化庁長官の認定を受けました。

2021年時点の写真と保存イメージ (画像:JR東日本

「橋梁部を含む約80メートル(3街区)」と「公園隣接部約40メートル(2街区の公園部)の2箇所を現地保存とし、「信号機土台部を含む約 30 メートル(4街区)」を移築保存する(移築先はまだ未定です)とするという事を決定し、今後は有識者を交えて公開保存するための基本対策やモニタリングなどを進めることになります。

保存される高輪築堤の場所(画像:JR東日本

JR東日本は「まちづくりの中で、150年前に構築された高輪築堤の価値を次世代に継承することで、地域の歴史価値向上、地域社会への貢献とともに新しいまちの価値向上を目指す」としています。高輪築堤跡の現地公開時期は、2027年度を予定しています。

2024年1月現在の状況

ここからは、今回紹介をした4街区・複合棟Ⅰの2024年1月の状況を、写真でお伝えします。

下の写真は、国道15号線沿い、南西方面からみた4街区の様子です。手前(品川駅寄り)がホテルやカンファレンス施設などが入る複合棟Ⅰ South、奥(田町駅寄り)がKDDI本社やルーフトップが出来る North になります。建物の角地には高輪辻広場(仮称)が設けられます。

2024年1月6日撮影

下の写真は、右側が複合棟ⅠSouth、左側がNorthになります。この2つのタワーの間の奥・高輪ゲートウェイ駅側には、2階レベルに駅前広場ができる予定です。その広場から、手前の国道15号線側にかけては、ゆるやかな階段で繋がる予定になっており、その1階レベルにも広場が設けられます。

2024年1月6日撮影

下写真は、国道15号線沿い、4街区と3街区の間くらいからの、複合棟Ⅰ方向の眺めです。大きく見えているのがNouthタワーです。29階建てのほぼ上部まで外観はできてきており、最上部がルーフトップガーデン部分になります。手前にある国道15号線沿いのビルの陰に隠れて少しだけ上部が見えているのが、Southタワーです。

2024年1月6日撮影

下写真は、上と同じ位置から、4街区と3街区の間をみたところです。奥がJRの線路になります。写真左の3街区・複合棟Ⅱはまだ6~7階程度までの進捗となりますが、開業は複合棟Ⅰと比べて最大で約1年程度遅いため、その予定には沿っているのだと思います。

2024年1月6日撮影

下写真は、線路沿いまで進み南を向いた写真です。写真左がJRの線路で奥の2階部分に高輪ゲートウェイ駅があります。写真右が複合棟ⅠNorthです。2階レベルには、駅と複合棟Ⅰをつなぐデッキの設置が始まっているのがわかります。

2024年1月6日撮影

高輪ゲートウェイ駅の改札口がある、2階デッキ部分です。現在は1か所しかない駅の改札口を出て歩道橋上を少し進むと、複合棟Ⅰの工事現場を見ることができる、透明の窓が設置されています。この窓から見える場所が、複合棟ⅠSouth(写真左のビル)とNorth(写真右)の間に設置される、駅前広場となるあたりという事になります。

2024年1月6日撮影

下は、ちょうど駅の道路上から、南を向いた写真です。右側の2階が駅、左の階段・エスカレーターを登ると改札階である2階に上がれます。2階のデッキは、この辺りではまだ設置が終わっていませんが、この辺りの上空にも全て設置されるはずです。ここから更に南側にかけては、デッキの設置が進んできています。

2024年1月6日撮影

下写真は、駅の南側から、北方向を向いたものです。駅の南側には、2025年3月をめどに新しい改札ができ、写真左方向に向かってJRの線路をまたいで芝浦港南口方面に繋がる連絡通路が設けられます。

2024年1月6日撮影

ここまで、高輪ゲートウェイ駅の周となる、4街区・複合棟Ⅰを中心に、現在の状況をお伝えしました。今回紹介をした複合棟Ⅰに関しては、他の街区よりも先行して2025年3月の開業を目指し工事が進んでいく事になります。

次回は、2026年3月までの開業予定となっている、1~3街区の概要などをお伝えしていきます。

文・写真:鎌田啓吾

 

続きの記事: 高輪ゲートウェイ駅前の開発進捗2024年1月版② 品川開発プロジェクト (JR東日本)「TAKANAWA GATEWAY CITY」 | コラム | 鉄道チャンネル (tetsudo-ch.com)