2023年の韓国の映像エンタメは、Netflixディズニープラスで配信され、世界中で人気を集めた「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」「ムービング」といったドラマ作品が制作された一方、映画は不振にあえいだ年だった。『THE FIRST SLAM DUNK』や『すずめの戸締まり』などの日本アニメが動員力を見せつけたが、豪華キャストによる大規模な制作費がかけられた国産映画は多数が興行面で惨敗。さらに配給会社や映画館が観客動員数を水増ししていたことも発覚するなど、暗いニュースが多かった印象だ。それでも年末にかけて『ソウルの春(原題:서울의 봄)』が動員1000万人超を記録し、明るい兆しが見えてきている。日本公開に期待のかかる話題作を中心に、2023年の韓国映画&ドラマ界を振り返ってみよう。

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■不況の映画界で『ソウルの春』、『犯罪都市』第3弾が救世主

2023年の韓国の劇場観客数を見ると、トップ10に韓国映画は4本。ちょっと寂しい状況だが、11月下旬に公開された『ソウルの春』がものすごい勢いで観客数が伸び、あっという間に1000万人を突破した。2024年1月1日時点で1200万人となり、2023年公開作の1位に躍り出た。『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17)や『1987、ある闘いの真実』(17)、『KCIA 南山の部長たち』(19)のような韓国現代史を描いた骨太な一作であり、1979年12月12日クーデターを描いている。主人公チョン・ドゥグァンのモデルは、クーデターで実権を握り、後に大統領になる全斗煥(チョン・ドゥファン)で、ファン・ジョンミンが憎いほど好演し、絶賛を浴びた。クーデターを食い止めようと最後まで戦うヒーロー、首都警備司令官イ・テシンはチョン・ウソンが演じ、役者たちの迫真の演技だけでも見ごたえがあった。秋以降、ハ・ジョンウ、イム・シワン主演、カン・ジェギュ監督作の『1947ボストン(原題:1947 보스톤)』やソン・ガンホ主演、キム・ジウン監督作の『クモの巣(原題:거미집)』がなどが興行的に伸び悩んでいたなか、『ソウルの春』の大ヒットは「韓国映画界の救世主」「劇場の春」と呼ばれ、年末の吉報となった。

一方、シリーズ第3弾『犯罪都市 NO WAY OUT』が1068万人を記録し、2022年に公開された『犯罪都市 THE ROUNDUP』に続く大ヒットに。マ・ドンソクが演じる主人公マ・ソクト刑事の人気によるところが大きい。めちゃくちゃ強いマ刑事がどんな相手も倒してくれる。それも武器など使わず素手でやっつける生身のアクションだ。『犯罪都市 NO WAY OUT』は日本のヤクザが関わった2018年の実際の麻薬事件がモチーフになっており、青木崇高、國村隼も出演。日本では2月23日公開予定だ。マ・ドンソクは主演だけでなくプロデューサーも務め、絶好調のシリーズとなっている。すでに『犯罪都市4』も撮り終えていて、2024年公開予定だという。

■前代未聞!? 海女の水中アクション『密輸』

リュ・スンワン監督の『密輸(原題:밀수)』は、海女たちの水中アクションという斬新さで観客数514万人を記録し、夏を制した。これも実話がモチーフとなっていて、時代背景は1970年代。海中に沈められた密輸品を海女たちが回収し、陸地へ届ける。船上で受け渡すと税関に見つかりやすいからだ。海女のツートップを演じたのが、キム・ヘス、ヨム・ジョンア。2人の豪快さに目が離せなかった。

チョ・インソン演じる密輸王がソウルから港町グンチョンにやって来て、グンチョンで密輸を牛耳っていたチャンドリ(パク・ジョンミン)と、密輸を取り締まる税関、そして海女たちの間で“金”をめぐる激しい争いが繰り広げられる。海の中で追って追われて、切りつけ、じわっと広がる赤い血。動きがスローなのが、かえって生々しい。アクション映画の達人リュ・スンワンがまた新たな境地を切り開き、青龍映画賞の最優秀作品賞に輝いた。主演のキム・ヘスは30年間務めてきた青龍映画賞のMCを今年で退くことに。授賞式ではデビュー30周年のチョン・ウソンがキム・ヘスの功績を称え、「青龍映画賞」と書かれたトロフィーを渡した。

夏公開の大作ではオム・テファ監督の『コンクリートユートピア』(公開中)もイ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンという豪華キャストで注目を集め、384万人を動員した。大地震で廃墟となったソウルで、唯一残ったアパートの住民たちの物語。イ・ビョンホンは、住民代表としてリーダーシップを発揮しつつ、一筋縄ではいかないキャラクター、ヨンタクを演じ、青龍映画賞主演男優賞を受賞。パク・ソジュンとパク・ボヨンは夫婦役で、極限状態での家族愛を見せてくれた。

■ユ・アイン、イ・ソンギュン…麻薬疑惑で映画界激震

2023年は麻薬が映画界を揺るがした年でもあった。なかでもユ・アインの麻薬投薬疑惑には大きな衝撃が走った。12月に最初の裁判があり、大麻吸引など一部の罪を認めた。ユ・アイン主演の映画『スンブ:二人の棋士』(キム・ヒョンジュ監督)はNetflixで配信されることになっていたが、12月現在、暫定保留の状態だ。イ・ビョンホンとユ・アインの初共演作で期待が大きかったぶん、その行方に注目が集まっている。Netflixオリジナルシリーズの『地獄が呼んでいる』(ヨン・サンホ監督)は、シーズン1でユ・アインが演じた役をシーズン2ではキム・ソンチョルが演じることになった。

一方、10月に麻薬投薬疑惑で捜査対象となっていることが明らかになったイ・ソンギュンは、検査や鑑定で「陰性」と判定されたが、年の瀬の12月27日、公園に停車中の車内から遺体で発見されるという悲報が報じられた。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(18)に出演し、今年も『眠り(原題)』(ユ・ジェソン監督)、『脱出:プロジェクトサイレンス(原題)』(キム・テゴン監督)の主演作2本でカンヌ国際映画祭に招待されていただけに、世界的なニュースとなった。『眠り』は9月にすでに公開していたが、『脱出~』は公開が無期限延期と発表されている。

■ベテラン女優主演ドラマ「イルタ・スキャンダル」「医師チャ・ジョンスク」が大ヒット

韓国で#MeToo運動が広まったのは2018年だったが、その少し前、チョン・ドヨンが「出演する作品がない」と嘆いているのを聞いてびっくりした。チョン・ドヨンと言えばイ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』(07)でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞した、韓国を代表する女優だ。だが、確かに#MeToo以前は中年以上の女優が主演の映画やドラマが非常に少なかった。ところが近年、ベテラン女優の活躍が目覚ましい。特に今年はチョン・ドヨン主演の「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」、オム・ジョンファ主演の「医師チャ・ジョンスク」が立て続けにヒットした。2人とも50代だ。

ドヨン演じる「イルタ・スキャンダル」の主人公ヘンソンは、総菜屋を切り盛りしながら高校生の姪を育てているが、姪に数学を教えるスター講師(チョン・ギョンホ)とスキャンダルになる。出演前から「50代でラブコメに挑戦?」と話題になったが、初回4%台だった視聴率はぐんぐん伸びて、最終回は17%を超えた。「医師チャ・ジョンスク」でオム・ジョンファが演じたチャ・ジョンスクは医学部出身だが、若くして妊娠し、専業主婦として家族を支える生活を送ってきた。自身の病気をきっかけに一念発起し、研修医として働き始める。歌手兼俳優のオム・ジョンファは近年は出演が減って「往年のトップスター」という雰囲気だったが、今年は主演ドラマヒットに続き歌手としても活動を再開し、「第二の全盛期」を迎えている。

■「ザ・グローリー」「ムービング」が世界を席巻!

動画配信サービスのドラマが増え、もはや視聴率だけで人気を語れなくなっているが、今年韓国内外で最も話題を集めた韓国ドラマはNetflixオリジナルの「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」とディズニープラスオリジナルの「ムービング」だろう。「ザ・グローリー」は「太陽の末裔 Love Under The Sun」「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」など数々の大ヒット作を生んできたキム・ウンスクが脚本を手掛け、ソン・ヘギョが主演した。主人公ドンウンは高校時代に深刻ないじめを受け、長い時間をかけて周到に準備して復讐を果たしていく。上半期の視聴時間集計では6億2280万時間を記録し、Netflix全作品中3位にランクイン。百想芸術大賞で作品賞と最優秀演技賞(ソン・ヘギョ)、助演賞(イム・ジヨン)を受賞したのをはじめ、評価も高かった。ドラマをきっかけに校内暴力に関心が高まるなど社会的にも大きな影響を与えた。

「ムービング」は人気ウェブトゥーンが原作で、リュ・スンリョン、チョ・インソン、ハン・ヒョジュが主演。超能力を持ち、過去に秘密を抱える親たちと、親と同じ能力を持つ子どもたちが悪と戦うヒューマンアクション。空飛ぶチョ・インソンは現実離れしていても、南北分断など現代史が絡んだストーリーで、絶妙なバランスが保たれた。韓国内では低調だったディズニープラスが、「ムービング」の大ヒットで一気に加入者が増え、アジアコンテンツ&グローバルOTTアワードでは最優秀クリエイティブ賞をはじめ6部門で受賞する快挙を成し遂げた。

文/成川 彩

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