オーストリア国鉄の最新夜行列車「ナイトジェット」は、全ての寝台が個室化された豪華設備が特徴。もしかしたら我が国の「サンライズ出雲・瀬戸」の後継を開発する際にも参考になるかもしれません。

12月10日から運行し始めたばかりの最新列車

オーストリア連邦鉄道の国際夜行列車「ナイトジェット」に2023年、新型車両が投入され、12月10日ダイヤ改正よりウィーンハンブルク、インスブルックハンブルクの2路線で運転が始まりました。

この列車は、前述したように夜間運行するため寝台車として設計されていますが、最大の特徴はすべて個室で構成されていること。日本の「サンライズ出雲・瀬戸」が備える「ノビノビ座席」のように、開放型の指定席部分がないのです。
サンライズ」は登場から25年が経過し、老朽化や車内設備の陳腐化が進みつつありますが、世界最新の夜行列車として運行を開始した新型「ナイトジェット」の設備は、その後継を作る際の参考になるかもしれません。ヨーロッパ最新の寝台列車の性能はいかほどなのか、車内設備とともに見ていきましょう。

「ナイトジェット」は2016年12月、これまで「ユーロナイト」として運転されていた一部列車と、ドイツ鉄道(DB)によって運転されていた「シティナイトライン」を継承して誕生した国際夜行列車です。

2023年現在は、オーストリアを中心にスイスドイツフランスイタリアなどヨーロッパ8か国、25以上の都市を結んで運転されています。一部路線では車両輸送用の貨車も連結され、マイカーと一緒に移動することもできます。

なぜ、オーストリアでこれほど多くの夜行列車が運転されているかは、その立地と環境問題が大きく関係しています。オーストリアはヨーロッパのほぼ中央部に位置し、各国の主要都市までおおむね1000km以内と、夜行列車を走らせるのに適した距離感となっています。

さらに、駅や列車の運転に使用される電力は、その100%が再生可能エネルギーによって発電されており、飛行機や長距離バスと比較してエコでサステナブルな交通手段になっているという点も見逃せません。

あ、これ住めそうだぞ

新世代のナイトジェットに使われる車両は、新たなイタリア鉄道車両に関する防火規格に対応し、最高速度230km/hで運転されます。基本は7両編成で、寝台車と座席車があり、寝台車は全て冒頭に述べたように個室もしくは簡易個室です。

しかも、個室の入口、および座席車の手荷物ロッカーは非接触ICカード(NFC規格)によるロックがついており、セキュリティ面でも抜かりありません。また、全車両でWi-Fiサービスも提供されています。

個室寝台はバリアフリーのものを含めて3種類あり、いずれもトイレとシャワー完備。照明やエアコンも個別に調整でき、壁にはスマホ用のワイヤレス充電器とその他モバイル機器充電用のUSB-Aポート、そして家庭用電源コンセントが備え付けられています。

クシェットと呼ばれる簡易個室は、これまでの3段寝台が廃され、最大4名が利用できる2段寝台のものに加え、個人旅行者向けの「ミニキャビン」が新たに設けられました。

この「ミニキャビン」、見かけは日本でお馴染みのカプセルホテルそのもの。小さなカプセル状の個室が上下2段に並んでおり、上段に上がるステップ部分には靴と手荷物をしまうための施錠式ロッカーが用意されています。

内部はカプセルホテル同様狭いものの、入口が施錠できるためプライバシーやセキュリティは確保されています。外を見られる個別窓のほか、折りたたみ式のテーブル(裏面には鏡)やUSB-A充電ポートと家庭用電源コンセント、照明をきめ細かく調整できるコントロールパネルもあり、それなりに居心地は良さそうです。

日本でも、夜行フェリーは個室化が進んでいるほか、夜行バスでもセキュリティやプライバシー確保を重視した設備が増えてきています。登場から四半世紀を経て日本唯一の定期夜行列車となっている「サンライズ」も、もし後継が造られるとすれば、“個室化”の流れは無視できないのではないでしょうか。

運用開始から25年以上が経過した「サンライズ出雲・瀬戸」(画像:写真AC)。