歌が上手くなりたいヤクザが、縁もゆかりもない中学生の合唱部部長にレッスンを頼む、という突拍子もない青春コメディ映画『カラオケ行こ!』が、1月12日(金) から公開される。ヤクザの幹部役が綾野剛、中学生はオーディションで選ばれた齋藤潤。イケメンで怖そうなヤクザのオニイさんは、なぜそうまでして歌が上手くなりたいのか? そこには恐怖のストーリーがありまして……。

『カラオケ行こ!』

原作は、同人誌出身の人気マンガ家、和山やまのコミック。1冊完結の単行本が55万部の発行部数を超えたヒット作だ。それを、『リンダ リン ダ リンダ』『1秒先の彼』の山下敦弘監督、『逃げるは恥だが役に立つ』などの脚本を手掛けた野木亜紀子、というヒューマンドラマの名手たちが映画化した。

綾野が扮するのは祭林組の若頭補佐、成田狂児。名前も怖そう、凶暴さを内に秘め、表面はていねいでやさしそうな、ブラックスーツのインテリ風やくざ。目下の彼の悩みは、組長の誕生日に開かれる組員総出のカラオケ大会が近づいていることだ。

組長が大のカラオケ好きで、大会の審査員長を務める。最下位になった組員には、組長の第二の趣味“入れ墨彫り”のモルモットになるという”罰”が待っている。彫り方が下手なので、死ぬほど痛い。しかも絵心がない。それだけではない。問題は、絵柄。イカツイお兄さんの手の甲に、カワイイキャラを彫られてしまうのだ。これは死ぬよりつらい。だから何とか、歌唱力を上げ、回避したい!

そこで、目をつけたのが、たまたま市民会館でやっていた合唱コンクール予選で、これは、と思った中学合唱部。リーダーとおぼしき少年に先生になってもらおうと、つい声をかけたのが「カラオケ行こ!」。

舞台は、大阪近郊とおぼしき、のどかな町。

原作コミックではあまり細かく描かれていないが、カラオケに熱中するような、ややゆるめのヤクザが闊歩する「みなみ銀座」という古い歓楽エリアがでてくる。

「町がなくなっていき、古いヤクザもいなくなっていく切なさや寂しさ、(脚本の)裏テーマの盛り込み方が上手いな、と思います。大阪のどこかにあるであろう、いわゆる“入っちゃいけない”と言われるような場所を探し求めましたね。本当に入っちゃいけないエリアでは撮影が難しいので(笑)、甲府の一角をそういった風に仕立てていきました。」と山下監督。

ヤクザ映画は、抗争や暴力事件を描くと硬派のアクション、市民社会と関わりを持つとコメディになる。古くは横山やすし主演で映画化された小林信彦原作の『唐獅子株式会社』シリーズや、最近では今野敏の人気小説任侠シリーズが西島秀俊主演で『任侠学園』になった。こちらは社会奉仕をモットーとするヤクザで、経営不振の高校の再建がテーマだった。草彅剛テレビドラマ『任侠ヘルパー』なんてのもあった。この映画もその系譜。

ヤクザも含め、ちょっと時代から取り残された感のある存在をうまく盛り込んで、ドラマが巧みに重層化されている。

実は、映画のメインはヤクザに歌唱指導を行う羽目になる中学生・岡聡実の青春物語だ。演じている齋藤潤は、映画『正欲』で磯村勇斗演じる男の中学時代を演じた16歳

聡実クンは中学3年、歴史のある合唱部の部長で、秋には引退を控えている。変声期でそろそろ声がでない。次のコンクールで歌えるかどうか、心配だけど、それを誰にも言えないでいる。やさしい性格の男の子だ。

それが、こともあろうに、変なヤクザに声をかけられ、カラオケを教える羽目になり、LINE友だちになってしまう。下校時には、黒塗りのセンチュリーが学校の校門近くに横付けされ……。

聡実の指導に感服した狂児が、他の組員たちを連れてきて歌わせ、「聴いてひとこと感想をいってやってくれ」という、聡実クンにとって恐怖極まりないシーンがケッサク。

オニイさんたちがカラオケで歌う曲のセレクションがいま風だ。映画の公式サイトには、そのソングリストが載っている。氣志團の「One Night Carnival」、米津玄師Lemon」、King Gnu「白日」、高橋洋子残酷な天使のテーゼ」……。

聡実クンが、びくびくしながらも割とずけずけいうカラオケのアドバイスが見もので。「声がつづいてないので体力つけてください」とか。なるほどね、と思えるものばかりで、ためになります。ただ、歌っているのはあまりうまくない人たちばかりなんで、歌唱の参考にはなりませんけど。

キャストは、組長役の北村一輝以下、組員役は橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城、RED RICEといった強面の面々。聡実の家族は、母が坂井真紀、父に宮崎吐夢。狂児の回想シーンで、ヒコロヒー、加藤雅也。合唱部の顧問代理役で芳根京子。個性的な顔ぶれが並ぶ。

肝心の狂児が歌うのはX JAPANの『紅』。情感たっぷりに歌うが、聡実クンにはあっさりと「終始裏声がキモチ悪い」といわれてしまうのだが、この歌、ちゃんと泣かせどころでいい感じで使われている。さらに、映画のテーマソングとして Little Glee Monsterがカバーしている。

綾野剛はこの前の出演作『花腐し』でもマイクを握って、山口百恵の名曲『さよならの向こう側』を歌ってくれた。これもよかった。カラオケづいてるね。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2024『カラオケ行こ!』製作委員会

【ぴあ水先案内から】

伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……好きなのに上手くいかない苦難を乗り越えようとする少年とやけに優しく語りかけるヤクザの関係をもっと見ていたくなる魔法の映画だった。」

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『カラオケ行こ!』