◆『Meta Quest 2』が7700円の値下げ 『CES 2024』では新たなVRデバイスが顔を出す

 この年末年始のバーチャル業界は比較的おだやかだった。しかし、重要な出来事がたしかに起きていたように思う。

【画像】CES 2024でShiftallより発表された新型VRヘッドセット『MeganeX superlight』

 まず、『Meta Quest 2』の価格改定が発表された。128GBモデルが39,600円に、256GBモデルが46,200円に、それぞれ7,700円の値下げになる。昨年発表された新型機『Meta Quest 3』と比べるとほぼ半額だ。ハイエンドでMR(複合現実)もカバーする『Meta Quest 3』と、平均的なスペックで手軽にVRができる『Meta Quest 2』、という棲み分けになるだろう。今後も幅広い顧客を確保し続けたい、というMetaの思惑が感じられる。

 そして、ラスベガスにてスタートした『CES 2024』では、ShiftallよりVRヘッドセット『MeganeX superlight』と、モーショントラッキングデバイス『HaritoraX ワイヤレス R』、ワイヤレス防音マイクmutalk 2』が発表された。

 『MeganeX superlight』は、同社のVRヘッドセット『MeganeX』に連なる新製品だ。より軽量になり、その上高画質を維持しつつ、外部トラッキング用のカメラやスピーカーなどを廃し、別途設置のセンサー(SteamVRベースステーション)によるトラッキングにのみ対応した、”割り切った”デバイスと言える。おそらく自宅などで長時間VRを楽しむユーザーを想定したものだろう。様々な需要を盛り込もうとした『MeganeX』とは対照的だ。

 『HaritoraX ワイヤレス R』は、愛用ユーザーの多いトラッキングデバイス「HaritoraX」シリーズに連なる最新機種だ。従来の9軸IMU方式(加速度・角速度・地磁気センサー)と、外部設置の専用カメラによる光学方式のハイブリッドとなり、軽量・長時間駆動・遮蔽物影響の少なさ、というIMU方式の強みと、光学方式による高精度の両立を目指しているようだ。

 そして、『mutalk 2』はワイヤレス防音マイクmutalk』の新モデルだ。基礎性能を向上させつつ、新たに有線接続にも対応。これまで別売オプションだったノーズカバーマウスパッドも付属し、鼻声にしたくない需要にも応えている。コンセプトはよいものの、使い勝手の面ではそこそこの評判だった『mutalk』。新モデルではこの面がどこまで改善されているか期待したい。

◆今年も「刀ピークリスマス」が駆け抜ける Brave groupは海外展開へさらなる一手

 バーチャルタレント業界はさらにおだやかな印象だ。大きなトピックで言えば、『にじさんじ』の星川サラが、同グループ5人目の100万登録達成者となった。次にこのラインを見据えているのは、約96万登録の剣持刀也、約90万登録の不破湊あたりだ。一方、『にじさんじEN』1期生のPomu Rainpuff1月20日付で活動終了を告知し、ファンの間には大きな動揺が見られる。

 12月25日には、毎年恒例行事「刀ピークリスマス」が実施され、「刀ピークリスマスのテーマソング2023」がピーナッツくんの手により世に放たれた。「ROF-MAO」の始動により飛躍する剣持刀也への情念を、ねっとりとドープに伝えた2022年と異なり、今年はより鋭く、直接的に愛を伝えてきた印象だ。TikTokでのバズにより、シーンの外へと異様な広まりを見せた「刀ピークリスマス」だが、「興味ないよバズ 欲しいラブ 刀也専用でござる」というリリックから、この曲が「たった一人へ捧ぐ歌」という思いがあらためて伝わる。あくまでもエンタメとしての茶番といえばそれまでだが。

 業界動向としては、急拡大を続けるBrave groupが、アメリカのVTuberグループ「idol」運営のIDOL VIRTUAL TALENTSとの業務提携契約を締結した。海外発事務所のなかでは急成長を見せている企業であり、2023年から国外展開にも踏み出したBrave groupが提携を持ちかけたのも不思議でない選出だ。国内外ともに前代未聞の拡大を続けるBrave groupがどこを目指しているのかは、手前味噌だが先日公開されたインタビューをぜひご参照いただきたい。

◆バーチャルファッション、有料イベント開催――ソーシャルVRの世界で新たな一歩

 ソーシャルVRメタバース方面では、「新たな一歩」と言える動きがチラホラ見受けられた。

 まず、無料で使える3Dキャラクター制作ソフト『VRoid Studio』に、「フルスクラッチの3Dアバターへ3D衣装を着用できる機能」が実装されることが告知された。『VRChat』などでの使用が想定される3Dアバターに、同じくアバター向けに作られた衣服の3Dモデルを、簡単に着付けることができる機能だ。

 これまで、こうしたアバターへの衣装着用は『Unity』や『blender』といった、ハードルの高いツールの運用が求められた。特に、3D衣装は特定のアバター向けに構造を最適化されていることがほとんどであり、対象外のアバターへ着せる場合は、かなり複雑な作業が要求される。

 これが、『VRoid Studio』上で簡潔な操作でできるようにするかもしれない。現在提供中のベータ版を筆者も触ってみたが、まだ完璧ではないものの、自動フィッティングなどの機能はとても便利だと感じた。機能向上が進めば、アバターの着せ替えがより簡単な営みになり、めぐりめぐって新たな参入者の増加も見込まれるだろう。

 そして、アバターの着せ替えにより実現する「バーチャルファッション」の世界は、さらなる熱気を帯びている。12月23日に開催されたファッションショー『Virtual Fashion Collection “Voyage” 2023 Winter.』は、まさにその最前線だ。

 ソーシャルVRの世界で芽生えた気鋭のクリエイターだけでなく、現実のセレクトショップ・BEAMSまで、それぞれが渾身の新作バーチャルアイテムを出展し、アクターによってランウェイの上を歩いた。いまや、BEAMSの担当者も「ファッションのフロンティア」と賞賛するバーチャルファッションの世界を、華やかに伝えるイベントの様子は、現在もアーカイブが公開されているのでぜひチェックしてほしい。

 神奈川県横須賀市メタバースプロジェクト「メタバースヨコスカ」は、年の瀬に第2弾ワールド「SARUSHIMA WORLD」を公開した。第1弾ではドブ板通り商店街と三笠公園をモチーフにしたワールドを制作したが、今回は自然島・猿島が舞台だ。

 『仮面ライダー』の舞台にもなった、豊かな自然と旧日本軍の遺構が混ざり合うロケーションで楽しめるのは、この地に伝わる猿伝説にちなんだシューターゲームだ。光弾を放つ猿を銃代わりに持ち、最大5vs5の戦いを楽しめる。遊び心あふれた空間だ。

 また、今回は大丸松坂屋百貨店ともコラボし、同社が発売中の5体のアバター向けに、「メタバースヨコスカ」発の3Dスカジャンが新たに着用可能となった。聞けば、もともと大丸松坂屋百貨店アバターチームと「メタバースヨコスカ」チームは過去の案件でつながりがあり、アバター発売時に「メタバースヨコスカ」側へ連絡があったことをきっかけに、相当な速さでこの企画が立ち上がったとのことだ。担当者間同士のつながりに端を発する迅速な展開は、この業界ではよくある話だ。

 そして、国内の『VRChat』事業の先駆者のひとつ・Gugenkaでは、一般ユーザーへ向けて有料イベントの門戸を開いた。「Project Babel」と題されたプロジェクトにて、Gugenkaは国内の『VRChat』パートナーとして、一般ユーザー向けに有料イベントの会場とチケットシステムの提供をスタートさせたのだ。

 もともと、『VRChat』の商用利用は公式パートナー契約が必要だが、一個人ではなかなか厳しいものがある。Gugenkaはまさに代理店のような立場で、商用利用のハードルを大きく下げてきた形だ。隣接する『cluster』のように、「イベントを通して収益を上げる」という道が、『VRChat』でも生まれるかもしれない。有償サブスクリプション機能と合わせて、世界最大規模のソーシャルVRに、着実に経済圏が開拓されている。

(文=浅田カズラ)

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