最近、40代会社員の転職者が増えています。かつては「転職=収入減」といった根強いイメージがありましたが、近年の実情はかなり異なってきている模様です。ここでは、転職が増えている背景と転職を成功させる「リスキリング」について取り上げます。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

転職で年収が上がる人、多数…日本の転職市場が変化している

生徒:総務省によると、2022年に転職を希望した人はおよそ1000万人、そして実際に転職した人は300万人もいたそうです。なぜ転職する人が増えているのでしょうか?

先生:どこの企業も人手不足が慢性化し、中途採用を増やしているからです。2023年に75歳になる団塊世代の大量退職と少子化の加速により、既存の仕事を回そうにも中年層の人材が足りないのです。また、働き方改革が浸透してきたことで、人手不足を長時間残業で対処することができなくなりました。この点、デジタルトランスフォーメーションを進めるための人材を中途採用しようとする動きも活発ですね。

生徒:これまでの日本企業では「転職すると給与が下がる」とか「転職できるのは35歳が限界」といった根強いイメージがありました。中年層も転職できるのでしょうか?

先生:日本人の意識に染みついた転職への観念が変化しているようですね。これまでは新しい仕事に挑戦したいと思っても、年収が下がるのを心配して、いまの会社にとどまる選択をする人がほとんどでした。しかし近年は、転職後に年収が下がる人より、上がる人の割合が大きいのです。40代男性でも転職時には5%から10%の年収アップだといわれています。

生徒:年収が上がるなら、不都合はないですね。

先生:それに転職率も上昇しています。40代男性の正社員の転職率も上昇しており、40代から50代でも転職で年収が上がるようです。いわゆる「ミドルクラス」と呼ばれる中間管理職の男性の転職が定着しつつあるといえますね。

生徒:仕事と家庭の両立で大変な40代の男性も転職するのですね。年功序列終身雇用の日本企業では、40代で退職する男性がいるなんて驚きです。

先生:雇用が流動すると生産性が高まり、給与水準も高まるといわれています。労働者終身雇用を前提とせず、どこにでも転職して働けるよう「スキルアップ」することによって、日本全体の生産性向上や経済成長に寄与することになるでしょう。

生徒:「スキルアップ=勉強」という意味ですか?

先生:そうです。成長産業への労働移動を促すため、岸田政権は個人の学び直しを支援する目的で5年間に1兆円の財政支出を行う予定です。これが「リスキリング」なのです。

転職の動機は、キャリアや収入への「プラスの可能性」

生徒:就労者が転職を希望する動機と、転職先の選定の基準はどのようなものでしょうか?

先生:これまでの日本人は、現状の職場に不満や嫌なことがあることを理由に、収入減のリスクを取って転職を希望していましたが、最近は、現状の仕事に大きな不満はないが、自分にとって転職が学びや収入面でプラスになる可能性があることを理由に転職する人が増えてきています。

生徒:前向き&積極的な転職ですね!

先生:そして、転職先を選ぶときの条件ですが、テレワークや副業など希望の働き方ができること、年収アップできることだといわれています。共働き世帯や女性などからは、在宅でも仕事ができることが条件となっているようです。

生徒:なるほど…。しかし、転職を実現するにはスキルアップが必要になりますよね?

先生:40代の男性は、この点が問題なのです。転職を前提として働いている外国のケースと比べると、個人で学び直そうとする意欲が低い傾向にあります。テクノロジーの変化が激しくなっているにもかかわらず、新しいスキルを学んでいる40代男性はほとんどいないというのが実態です。学び直しをしないと転職したあとに苦労するでしょうね。

生徒:リスキリングは重要ですね。

先生:これまでは終身雇用年功序列が前提でしたので、企業は定年まで辞めないことが常識になっていました。しかし、その常識が変わりつつあるのです。その一方で、私たち働き手には、当然のように学び直しを行って主体的にキャリア形成することが求められています。賃金上昇を伴って、働きがいも高まるような転職を実現するには、個人の意識と行動の変革が必要でしょうね。

生徒:確かにそうですね。私もまずは、ファイナンシャル・プランナーの資格試験を受験するところから始めてみようかと思います。

岸田 康雄 公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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