アーティスト、俳優としての「挑戦」が続く鞘師里保。自身にとって、2024年最初の出演作となるドラマ『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』(テレビ東京ほか/毎週水曜25時)では、地上波連ドラ初主演を果たす。作品がクランクインした2023年は2度のドラマ主演を務め、アーティストとして得意のダンスを封印した生バンド編成によるライブも初めて経験。「チャンスをものに」と意気込んだ2023年を経て、2024年に鞘師が目指すものとは。

【写真】25歳になり大人っぽさもグッと増した鞘師里保

■フレッシュな社会人・由寿を演じる中で取り戻した「初心」

 ドラマ『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』は、『校閲ガール』などを手掛けた宮木あや子の小説『令和ブルガリアヨーグルト』が原作。鞘師演じる岩手の田舎出身でオタク気質な主人公・朋太子由寿が、橋本さとし演じる“吾輩”こと乳酸菌ブルガリア菌20388株)に見守られながら、ヨーグルトを題材にした創作小説に出てくるブルガリア菌への推し活にいそしみつつ、新人広報ガールとして奮闘していくお仕事+推し事ドラマだ。

――地上波連ドラ初主演作では、岩手県出身のフレッシュな社会人を演じます。

鞘師:「地上波連ドラ初主演」のギラギラした文字面に、最初は戸惑いました(笑)。演じる由寿も、上京してすぐ大阪、東京へ転勤する状況に戸惑っていると思います。でも、まっすぐに頑張る姿には「素敵だな」と思うことが多くて。鞘師里保として「ちゃんと体現しなきゃ」と思わせてくれる、守りたい存在です。

――まっすぐに頑張る姿は、鞘師さんとも重なります。

鞘師:由寿を演じていると、初心を思い出せるんです。私はダンスがやりたくて12歳で芸能界に入り「憧れの先輩たちと仕事ができる。頑張ろう!」と思っていましたが、楽しいだけではなく苦労もあったなって。初めての出来事に向き合う由寿の姿は、昔の自分と重なりますし、初心を「忘れたくない」と思わせてくれます。似ている部分もあり、打ち合わせではスタッフさんから「あなたのスットコドッコイな部分をそのままで」と言われました。普段の生活や(アーティストとしての)ステージ上ではつまずきやすくて、階段を昇りきったら拍手されるほどなので…(苦笑)。ナチュラルに演じていこうと思いました。

――演じる由寿は「ブルガリア菌」推しですが、鞘師さんも“推し活”を?

鞘師:ガチャガチャの景品にある食玩推しです。市販のチョコレートやグミのミニチュアが付いているキーホルダーを集めていて、楽屋弁当のミニチュアも集めています。有名なオーベルジーヌ(宅配カレーの人気店)とか、まい泉とか。ガチャガチャは「何が出るのか」という楽しみもありますけど、コンプリートしたくて、通販で全種類パックを見つけたときは即買いしました(笑)。

■俳優業の姿勢に変化「役の人柄や性格を『自分の中に落とし込もう』」


――2023年は、連ドラ初主演作『めんつゆひとり飯』(BS松竹東急)と地上波連ドラ初主演作『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』で2度、主演としての撮影現場を経験しました。

鞘師:本格的に映像での演技をやることになって3年ほどで、主演のお話を頂けたのは純粋にありがたかったです。「もっと頑張りたい」と目標にできるチャンスになったし、着実に「自分のものにできるように」と一生懸命になれた1年でした。

――初主演作での経験は、2度目の本作でも生きていますか?

鞘師:初主演作では「座長」であり「リーダー」のイメージもあるので、プレッシャーも感じていたんです。「どんなリーダーになればいいのか」と思っていたんですけど、場を仕切るのではなく「自分らしい空気づくりができるかも」と気がついたのは、成長でした。クランクアップの頃には「家族のようになれれば」と思って、本作でも共演者の方々やスタッフさんとそれぞれコミュニケーションを取り、毎日、誰かを「笑顔にできれば」と思って撮影しています。

――共演者やスタッフとの距離を縮めるため、何か具体的な工夫も?

鞘師:冬の撮影で外でのロケも多いので、自作イラストをあしらったネックウォーマーを撮影現場で配りました。原作小説の表紙にある「ブルガリア菌」と「サーモフィルス菌」のイラストをモチーフに、劇中で“乳酸菌ブルガリア菌20388株)”を演じていらっしゃる橋本(さとし)さんの髪型や衣装を加筆して。撮影現場で使っていない方がいらっしゃったら寂しいので「なぜ、使ってないんですか?」と一声かけたいです(笑)。

――(笑)。2度のドラマ主演も経て、俳優としての成長もありそうです。

鞘師:演技への取り組み方が変わってきました。基本的に音楽でやってきたので、以前は「新しい世界にお邪魔します」という思いで、頑張っていたんです。でも最近は、演技に関して、少しずつではありますが、感覚的につかめてきましたし、自分でも成長を感じます。

――自覚する変化とは?

鞘師:以前は、脚本を読みながら演じる人が「こうしゃべるんじゃないか」と想像して、そこをゴールにして本番に備えて準備していたんです。でも今は、物語の肝を捉えて、演じる人の人柄や性格を「自分の中に落とし込もう」と意識が変わりました。外から分かるセリフだけではなく、内面から演じるというか。与えられた役柄の根源のようなものを詰めていくのはまったく違う感覚で、誰かを演じるのがより楽しくなりました。

■常にある挑戦は「新たな表現の仕方、自分の見せ方を考えるきっかけに」


――俳優として、2度の主演作に挑戦した2023年。一方のアーティスト業では、6月の「RIHO SAYASHI Billboard Live 2023」で、得意のダンスを封印した生バンド編成で歌い上げるステージに初挑戦しました。

鞘師:根本では「ダンスがないとお客さんに満足してもらえないんじゃないか」と思っていたので、最初に「やりませんか?」と聞いたときは、胸がギュンッと締め付けられる感覚でした。でも、楽しかったです。いつもの打ち込みでの音源とは異なる生バンド演奏のライブならではの化学反応を楽しみながら、自分の曲が「生バンドだとこう変化するんだ」と気づくのも面白かったですし、ファンのみなさんにも喜んでいただけたのを実感しました。パフォーマンスへの価値観も変わり、9〜11月の「RIHO SAYASHI 3rd LIVE TOUR 2023」ではダンスを減らし、演出を工夫して、演技と共に大きな変化を感じました。

――様々な経験を糧にする鞘師さんは「挑戦」を前にしてワクワクするタイプですか?

鞘師:最初、反射的には不安が来ます。25歳のひよっこですけど、芸歴だけ数えると十数年目で、どこか自分のやり方に落ち着き始めている気持ちもあったんです。でも、「初めてですけど、やりませんか?」と頂けるお話は、新たな表現の仕方、自分の見せ方を考えるきっかけになりますし、成長のきっかけにもなって。2023年は「落ち着いてはいけないんだ、まだ」とハッとする機会も多く、「チャンスをものにしなきゃ」と考える1年でした。

――新たな価値観に触れて、2024年も俳優業とアーティスト業でさらなる飛躍が期待されます。

鞘師:たくさんのきっかけを頂けて、運のよさも感じているんです。演技では「あの作品面白かったよ」とおっしゃっていただける方を1人でも増やしたいですし、今回のドラマが年明け1作目の出演作になるので、いいスタートを切れればと思います。アーティスト業では、アスリートのように歌もダンスも全力でパフォーマンスして、魂を届ける感じのライブをずっと続けてきましたけど、コンセプチュアルなステージも披露できれば面白いかなと思っています。毎年のツアーはもちろん、「Billboard Live」のような生バンド形式のライブも違った楽しみ方が生まれるので、チャレンジしたいです。

――最後に、地上波連ドラ初主演作では地方から上京する女の子を演じますが、彼女と同じく広島県から上京した鞘師さんは、毎年のツアーで必ず故郷へ凱旋します。そこに対する、自身の思いも伺えれば。

鞘師:音楽のパフォーマンスで「やっていくぞ!」と幼稚園時代から思い続けて、その信念のもと、広島(アクターズスクール広島)でレッスンしていた場所なので、思い入れはあります。今もライブを見に来てくれるスクール時代の友達や先生に、成長を見せたくて。ファンのみなさんも凱旋するたび、各々の出身地に関係なく喜んでくれるので「大事にしてくださっている」と感じています。広島では「みんなで里帰りした」と思えますし、心をリセットさせてくれる意義ある場所だと思っています。

(取材・文/カネコシュウヘイ 写真/高野広美)

 ドラマ『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』は、テレビ東京ほかにて1月10日より毎週水曜25時放送。

鞘師里保  クランクイン! 写真:高野広美