文=酒井政人

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トップ中継した駒大の主将は涙した

 第100回箱根駅伝、鶴見中継所を最初に飛び出した駒大・鈴木芽吹(4年)は快調に突き進む。かねてから熱望していた花の2区。4年目にして初の挑戦にいつも以上の高揚感があっただろう。2年連続の「駅伝3冠」を目指すチームの主将として〝絶対に負けられない戦い〟でもあった。

 10㎞を28分09秒で通過して、権太坂(15.2㎞地点)の個人タイムは堂々のトップ。後続との差を広げていたが、終盤は猛追される。そして戸塚の壁に苦しめられた。

 それでも追いかけ続けた先輩・田澤廉(現・トヨタ自動車)が前年マークしたタイムを14秒上回る1時間06分20秒で走破。藤色のタスキを真っ先につなげた。しかし、区間賞に13秒届かず、レース後は涙があふれた。

「本当に憧れの2区で、みんなが自分の名前を呼んで応援してくれました。走っている最中は幸せでしたね。調子も良くて、ペース的にも悪くなかったんですけど、事実として負けている。タイムは勝負の二の次だと思っているので、本当に悔しいです」

 

戸塚の坂に朝日が昇った

 今回、花の2区を制したのが青学大・黒田朝日(2年)だった。

 トップ駒大と35秒差の9位でタスキを受け取ると、腕時計をしない黒田は自分のリズムで刻んでいく。レース前半は大集団となったが、他の選手や通過タイムは気にしなかったという。個人タイムは横浜駅前(8.2㎞地点)が13位、権太坂(15.2㎞地点)が7位。そして戸塚の坂で圧倒的な強さ発揮した。

「自分自身、上りが結構得意なので権太坂から徐々にペースを上げていくイメージを持って走りました。ラスト3㎞を切ってから駒大が見えてきたんです。1秒でも差を縮めたいという気持ちだけで走りました。最後の方まで脚がすごく動いてくれたので、理想の走りができたかなと思います」

 権太坂で1分05秒差あった駒大・鈴木に急接近。最後は13秒まで詰め寄り、区間歴代4位の1時間06分07秒で区間賞に輝いた。

「区間賞は全然意識していなくて、もう無我夢中で走りました。1時間6分台を出せればいいんじゃないかなと思っていたので、タイムは予想以上でしたね。監督に声をかけられているのかよく分かっていなかったんですけど、自分一人になってから聞こえてきた『戸塚の坂に朝日が昇る』という言葉が印象的でしたね」

「世界の扉」に手をかけた早大・山口

 青学大から16秒遅れでスタートしながら、黒田に追いつき、15㎞付近まで食らいついたのが早大・山口智規(2年)だ。当初は持ち味のスピードを生かせる「1区もしくは3区」を希望していたが、チーム事情からエース区間に抜擢されたという。

「2区を言い渡されたのは3週間前くらいですね。そこからは覚悟を決めて、(高校時代の先輩である)相澤晃さんの動画を何回も観たんです。昨日も観てから寝たら、ちょっと興奮しちゃって、あまり寝られなかったですけど(笑)」

 山口は10㎞を設定していた「28分25秒」より速く通過すると、終盤も粘り強かった。「1時間06分55秒~1時間07分30秒」の設定タイムを大幅に上回る1時間06分31秒(区間4位)で走破。レジェンド・渡辺康幸が保持していた早大記録を塗り替えると、12位から4位まで順位を押し上げた。

「終盤の上りも自分が思った以上に走れたので、期待以上のレースができたかなと思います。タイムの面でもいい意味で期待を裏切れた。ラスト1㎞の声かけで、『世界の扉を開くぞ』と花田(勝彦)さんに言われて、無我夢中で走りました。世界を視野に向けてやっていきたいので、今回の箱根が良いきっかけになるのかなと思います」

 

東農大・並木は地元を快走

 10年ぶりの出場となった東農大のエース・並木寧音(4年)も堂々としたレースを披露した。盟友・高槻芳照(4年)から9位でタスキを受け取ると、青学大・黒田、早大・山口らと互角に渡り合う。1時間07分03秒の好タイムで駆け抜けて、チームを6位まで引き上げた。

「目標は1時間7分台だったので、その目標は十分に達成できました。2年前の経験を生かした走りができたかなと思います」

 並木は第98回大会に関東学生連合の選手として2区に出場。1時間08分16秒(区間13位相当)で走っているが、今回は母校のタスキが胸に輝いていた。スーパールーキーと騒がれた前田和摩が2区の候補に挙がるなか、並木は地元を走るエース区間を熱望してきた。

「2区は前田が厳しくなって自分に回ってきましたが、ずっと準備をしてきたのでプレッシャーもなく、むしろ出番がきて有難いと思いました。4年生として『前田だけじゃない』というところを見せられたのかなと思います」

國學院大・平林は8人抜きの快走

 順位変動の激しいエース区間で、下位から大胆なゴボウ抜きを演じたのが國學院大・平林清澄(3年)だ。17位スタートも、「エースとしての走りが求められていた部分があったので、ガツンと行きました」と次々と前方のランナーをとらえていく。

 1時間06分26秒(区間3位)で激走して、8人を抜き去った。

「追い風のコンディションでしたが、去年の自分の記録より1分くらい速いんですかね。目標(1時間6分台)以上のタイムを出せて良かったと思います。でも、区間賞を獲りたかったですね」

 前日に能登半島地震が起こり、福井出身の平林の心は揺れていた。

「実家は無事でした。同じ北陸地方として、自分の走りで区間賞を獲得して、エールを送りたい気持ちがありました。負けちゃったんですけど、自分の走りがテレビに映って、北陸の方たちに少しは元気を届けられたかなと思います」

 

中大・吉居はレース直後うずくまった

 前回2区で1時間06分22秒の区間賞を獲得した中大・吉居大和(4年)。最後の箱根駅伝は想定外ともいえる厳しい戦いになった。19位からの出発になったとはいえ、吉居らしい爆発力が見られない。後半はさらにペースが上がらず、1時間08分04秒の区間15位に終わった。

 レース後は耳と頭を抑えてうずくまった。その後の取材では、「先頭に近い位置で来ると思っていたので、競り合いながらラスト勝負で一番にゴールしたいと思っていました。今回は23㎞で自分の持っているすべての力を出し切ることができませんでした……」と話していた。

 吉居は語らなかったが、年末にチームは体調不良者が続出。絶対エースも万全な状態ではなかった。そのなかでの苦しいレースだった。

 エースたちが本気でぶつかった花の2区。それぞれにドラマがあった。

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