1月2日、新興のインディディベロッパーであるNightmare Forge Gamesは、初代ミッキーマウスのような敵の排除を目指すCo-opサバイバルホラー『Infestation: Origins』を発表した。

参考:【画像】ミッキーマウスが敵として登場する『Infestation: Origins』

 2023年にも映画やゲームの界隈で話題を集めた人気キャラクターのパブリックドメイン化。今回発表となった『Infestation: Origins』も、初代ミッキーマウス著作権切れを受け、同キャラクターを主要登場人物に抜擢した形だ。

 なぜ誰もが知る人気キャラクターたちは敵役となって二次利用されるのか。類似する作品との共通項から、その理由と今後を考えていく。

■初代ミッキーマウスのような敵と戦うCo-opサバイバルホラー『Infestation: Origins』

 いまや誰もが知る人気アイコンであるミッキーマウスは、1928年にアメリカで誕生した。当初は「ミッキーマウス」という名がつけられたIPではなく、ウォルト・ディズニーの制作した短編映画『蒸気船ウィリー』のいち登場人物だった。

 1998年に改定されたアメリカの著作権法では、その保護期間が95年に設定されている。そのため、2023年末で同キャラクター(上記作品に登場するミッキーマウス)の著作権の有効期間が切れ、パブリックドメインとしてさまざまな形での二次利用が認められた形だ。

 そうした状況を背景に生まれたのが、今回話題となっている『Infestation: Origins』である。同タイトルには、初代ミッキーマウスを彷彿とさせるキャラクターが敵役として登場する。気になるゲーム性は、さまざまな装備を駆使し、各ステージに現れる初代ミッキーマウスのような造形を持った謎の侵入者を排除するというもの。ソロプレイはもちろん、最大4人によるオンライン協力プレイにも対応するサバイバルホラーゲームとなっている。

 『Infestation: Origins』が発表されたのは、2024年1月2日のこと。まだ10日ほど前の出来事だが、その目新しさからさっそくメディアなどに取り上げられ、広く知られることとなった。当初は『Infestation 88』というタイトルだったが、「88」という表現がナチスを想起させるとの意見が寄せられ、現在の名前へと変更されている。

 開発を担当するのは、Nightmare Forge Games。公式サイトによると、2010年以降ホラーゲームの制作に特化してきたベテランチームだという。インディースタジオとして発足し、現在の社名となってからはまだ日が浅いようで、主だった制作歴は明かされていない。『Infestation: Origins』が彼らにとって最初のポートフォリオとなっていくのだろう。

 『Infestation: Origins』は、2024年内に早期アクセスで配信される予定。対応プラットフォームは、PC(Steam)のみとなっている。

■人気キャラクターのパブリックドメイン化を背景に生まれた作品たち

 有名作品の著作権期間の満了をめぐっては2022年、児童小説「クマのプーさん」もパブリックドメイン化を果たしている。同作中に登場するおなじみのキャラクター・プーさんもまた、その後はホラー映画『プー あくまのくまさん』(2023年公開)に登場し、話題を呼んだ。彼をモチーフにしたローグライクホラーゲーム『Winnie’s Hole』も、2024年1月現在、開発が進行している。

 また、ゲームの分野においては、2023年9月リリースのソウルライク・アクションRPG『Lies of P』も有名だ。同タイトルには、1880年代初頭に発表され、現在ではパブリックドメインとなったカルロ・コッローディ作の児童小説「ピノッキオの冒険」から拝借した設定や世界観がふんだんに盛り込まれている。

 主人公・Pは、狂気と殺人人形に支配された機械仕掛けの街「クラット」を舞台に、混沌を解決するためのカギを握るゼペット爺さんを探す冒険へと旅立つ。作中では、Pが“唯一嘘をつける存在”として描かれており、そのことが物語を進展させていくうえで重要な役割を担っている。

 トレンド化するソウルライクというサブジャンルだが、近年では類似した性質を持つタイトルが数多くリリースされ、市場はレッドオーシャン化の様相を見せている。しかしながら、後発組に分類される『Lies of P』は、同分野を愛好するフリークたちのお眼鏡に叶い、高い評価を獲得した。全世界累計での販売本数は100万本を突破。2023年11月に開催された「2023大韓民国ゲーム大賞」授賞式では、大賞(大統領賞)を含めた6部門を獲得し、「2023年最高の韓国ゲーム」となった。

■誰もが知る人気キャラクターが敵役としてキャスティングされる理由

 紹介した初代ミッキーマウス、プーさんの二次利用には、ほかの共通項も存在する。両作とも誰もが知る人気キャラクターを敵役として作中に登場させている点だ。この点は、主人公に対し脅威を与える側として物語に登場する映画『プー あくまのくまさん』のプーにも共通する。なぜパブリックドメインとなった人気キャラクターは敵役としてキャスティングされやすいのだろうか。その理由は、これまで当該キャラクターが活躍してきたフィールドとのギャップにあると考える。

 初代ミッキーマウスやプーさんはその愛くるしい姿などから、子ども向けのアニメキャラクターとして広く認知されてきた。どちらかと言えば、その佇まいは平和の象徴であり、だからこそ「子どもにも安心して見せられる存在」として大衆化した実態がある。

 そうしたキャラクターが浸透したイメージに縛られず利用できるようになったいま、より彼らが存在し得ない世界、しそうにない行動といった点が作品制作のコンセプトとなっているのではないか。そこに大きなギャップがあるからこそ、受け手にとっては新鮮かつセンセーショナルで、そのことが売上や話題性につながっている側面がある。上述した『Lies of P』の例もまた、(少なくとも有名なディズニー映画のなかでは、平和的なキャラクターとして描かれている)ピノッキオが存在しないであろうダークで暴力的な世界を舞台としている点で同じコンセプトを持っていると言える。

 今後も定期的に、初代ミッキーマウスやプーさん、ピノッキオは他のカルチャーで二次利用されていくだろう。10年、20年という長いスパンではひとつのカルチャートレンドとして、往年の名作をモチーフとした作品群が語られていく可能性もある。きっとそれらの作品が分類されるジャンルは、ホラーなど、彼らが持つイメージとは真逆のものとなるはずだ。

 しかしながら、“色物”であることを最大の特長としているうちは、名作は生まれないような気がしている。『Infestation: Origins』がひとつのゲーム作品として認められていくためには、『Lies of P』のようにそれ以外の部分で目の肥えたユーザーに訴求できるタイトルとなる必要があるのではないか。『Infestation: Origins』が話題性に勝る成功を収められるかに注目したい。

(文=結木千尋)

なぜ人気キャラは“敵役”にされがち?