■最もCESらしい場所かもしれない

CES2024でもSphereに映し出されたTCLの広告が目に入った。今最もCESらしいと感じてしまう

Sphereをご存知だろうか?ラスベガスの街中にできた新たな球体のエンターテインメントアリーナだ。ラスベガスの街に現れた球体の劇場であるが、外装もLEDスクリーンが覆われ、早くもランドマークとして注目されている。

U2がレジデンシーアーティストとして2023年9月に柿落とし公演を行い、初開催のラスベガスFormula 1(Las Vegas Grand Prix)ストリートサーキットにおいてもナイトレースを象徴する存在として注目された。

建築中のSphere。コロナ禍も含め完成には長い時間を費やしたが完成後の存在感は言うまでもない

世界各地のアリーナやスタジアムを手がける設計デザイン事務所Populousによって設計されたこの球体プロジェクトは、高さは366フィート(112m)、幅は516フィート(157m)で飛行機からも眺めることができ新たなラスベガスのランドマークとなっている。

車窓から見ると新たな地球が現れたのかと感じてしまうほどだ。

■視覚・聴覚・触覚を刺激するLED球体シアター

最新テクノロジーを活用していることもSphereの特徴だ。目立つ外部と合わせ、内部には、世界最大かつ最高解像度の16K解像度のラップアラウンドLEDスクリーンが16万平方フィート(15,000平方メートル*)の規模で設置されている。外部LEDディスプレイは、58万平方フィート(54,000平方メートル*)、ラスベガスの新たなランドマークはアドサイネージとしても今後活用が進むことが期待される。

内部と外部のスクリーンは両方とも、テイラー・スウィフトエルトン・ジョンポール・マッカートニー、U2などのアーティストライブ演出でも有名なカナダSACO Technologies社が手掛けている。

*ちなみに15,000平方メートルは東京ドームの1/3、54,000平方メートルは幕張メッセ 国際展示場1-8ホールを合わせた大きさである。かなりの大きさであることが伝わるだろうか?

ビジュアル体験だけではなく、Sphereは空間オーディオシステムも特徴的だ。ホロプロットのX1スピーカーモジュールに基づく空間オーディオ・システムを特徴としており、指向性を高めるビームフォーミング(beamforming)と高臨場を演出する波面合成技術(WFS: Wave Field Synthesis)、それぞれ96個のドライバを搭載している。サウンド・システムは、LEDパネルの背後に設置される1,600個のX1スピーカーと300個のモバイル・モジュールで構成されており、合計167,000個のスピーカードライバを搭載している。

また、内部シアターの18,600人分の座席全席は高速インターネット接続されておりハプティック技術が会場の座席のうち10,000席に組み込まれている。つまり、今まで人間が体験したことのない高解像度かつ最大規模視覚体験に聴覚と触覚も組み合わさるのだ。さて、それがどのような体験になったのか?実際の体験記をここから紹介する。

■Sphereシアターいざ体感!

筆者が体験したのは『ブラックスワン』『π』を手掛けたダーレン・アロノフスキー監督がSphere向けに制作した『Postcard from Earth(2023, 55分)』である。ストーリーとしては宇宙移住時代、地球の魅力、人間の文化・生活、人間が犯した環境汚染などを映像としてアーカイブし残していくものだ。

アメリカの大地(セドナ?)、南アフリカグレープフルーツ農園、カンボジアアンコールワットの空撮映像には、自分が空からに乗って旅をしているような没入感を伴い観客席からも映像が切り替わるたびに「おおぉ!」という感動の声が上がる。

筆者も実際に空に飛んでいるような、洞窟を探検しているような気持ちになり、映像を見ながらアンコールワットの湿気や匂い、セドナの大地の温もりを思い出した。この臨場感ある映像は当Sphereシアター専用のスタジオであるSphere StudioのBig Skyカメラで収録されているそうだ。このSphere専用のカメラは元REDのCTO Deanan DaSilva氏が指揮をとり開発された。当初は、Red Monstro 8Kを複数台でテストを開始したそうだが、結果専用カメラBig Skyが開発された。

Big Skyカメラ via Sphere Entertainment Group

Big Skyカメラは、77.5mm x 75.6mmの18Kセンサーを備えている。このシステムは、120fpsでキャプチャし、毎秒60GBバイトでリング データ転送を行う。Big Skyの32TBメディアで最大60fps非圧縮映像を17分間記録可能だ。これは、システムの30GB/秒の転送速度によって実現されている。2つのメディアが実装されており、120 fps同時記録や連続して記録も可能だ

Big Skyカメラのセンサーサイズの大きさ比較

■五感で感じるSphereシアター

ステージ下にある装置はスピーカーではなく風の送出装置

臨場感は視覚情報だけではなく、座席に仕込まれたハプティクスデバイスからも伝えられる。ニューヨークインドストリートを走る車の車内からの映像の際には、道路の凸凹に合わせて椅子が振動するし、熱気球で空を旅する際には気持ちの良い風が頬にあたる。嵐のシーンでは風が強くなり一気に不安にもなった。

Sphere体験をした際に筆者が思い出したのはSXSWで試したVR体験だ。ゴーグルを被り、宇宙やアフリカなどの映像を見て没入感動した感動が蘇ってきた。NASA提供の映像でオフィシャルな良い体験だったと当時は思ったのだが、VRゴーグルの体験は視点がずれたり、映像のスティッチズレがあり、脳内補正で感動を補っていた記憶がある。

■20,000人と没入体験を共有

ただし、今回の体験は自分の脳内補正をせずに圧倒的な地球・宇宙旅行を楽しめた。そして何よりも約20,000人収容できる会場の全員と没入体験が共有できるのが大きい。

筆者のスマートフォンのカメラロールは55分の思い出でいっぱいだ

Sphere内の撮影可能で55分間の映像体験が終わった後の私のカメラロールには世界各地のシーンが収まっていた。まるで本当に旅行に出かけたかのように「このシーンを逃したくない!」とスマホのシャッターを切り続けた自分がいたことも振り返ってみると面白い。私は映像の旅ではなく、本当に旅に出たのだった。

『Postcard from Earth』のエンドクレジット!まさにカオス。この発明が一番の驚きかも

『Postcard from Earth』のダーレン・アロノフスキー監督は「ラスベガス・ストリップのきらびやかさと喧噪から人々を引き離し、自然界の驚異、畏怖、美しさに可能な限り完全に浸らせる」ことが目的だと語っていたのだが、まさに彼の意図通り心動かされ、自然と涙が溢れてくる体験をしたのだった。ストーリーで泣かされたというよりも、体験に泣かされたのだ。

この圧倒的な感動は今のところラスベガスSphereでしか味わえない。興味ある方はぜひ『Postcard from Earth』上演中に一度体感してみてほしい。次回はU2などのアーティストライブにも参加してみたいと考えている。

ラスベガスの球体シアター 「Sphere」潜入レポート[CES2024]_Vol.05