金正恩体制の治安対策は、極刑に過度に依存している。数百、数千人の市民を集めた上で公開処刑を行い、恐怖で犯罪を抑止しようしているのだ。「磔(はりつけ)」や「さらし首」と通じる、前近代的な手法である。

しかし、21世紀を生きる北朝鮮国民はこのようなやり方を批判的に見ていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

両江道(リャンガンド)の情報筋はRFAに対し、昨年12月19日の午後、恵山(ヘサン)飛行場の原っぱで「公開暴露の集い(人民裁判)」が開かれたと伝えた。両江道安全局(県警本部)は当日の午前、市内の各人民班(町内会)を通じて、恵山飛行場に午後2時までに集まるように指示した。市民は、氷点下15度の寒空の中、雪の積もった原っぱで立たされたまま、2時間も待たされた。

その場に引き立てられてきたのは13人。殺人と強盗、詐欺、脱北、薬物密売などの容疑者たちだ。

当局は、群衆の前に犯人たちを立たせ、罪状を読み上げた。それによると、23歳の若者は先月末、市内の淵豊洞(ヨンプンドン)で、豆10キロを運んでいた女性に対して強盗殺人を働いた。なお、豆10キロは現金なら5万北朝鮮ウォン(約850円)、コメなら8キロに相当し、4人家族が8日から15日程度持ちこたえられる量だ。

この時、容疑者は逮捕に至らなかったが、別の事件で逮捕されたこの若者が、犯行を自供した。当局は若者に死刑を言い渡した。そして、その場ですぐに銃殺刑が執行された。

一方、残りの12人に対しては、10年以上の教化刑(懲役刑)が言い渡され、どこかへと連れ去られた。

その様子を見守った市民からは、批判の声が上がった。

「殺人は処罰されて当然だが、ほとんどの犯罪が飢えが原因で起きているという点で、当局の責任も大きい」(恵山市民)

この場所では昨年8月、国家財産である牛を屠畜して密売した容疑で男女9人が、9月末には医薬品管理者が公開銃殺にされ、市民から批判の声が上がっていた。

別の情報筋は、今回銃殺されたのが23歳の若者だったということで、同情を示す人もいたと伝えた。空腹がゆえの犯行だったからだ。

「最近発生する犯罪はほとんど生きるためのもので、そもそも生活が成り立っているならば起こっていなかったものだ。当局は生活向上のための努力はせず、銃殺という極刑だけで対応している。民を生かさず、殺すことしかできないのか」と情報筋は批判した。

一時は餓死者が出るほどの深刻な状況だった北朝鮮の食糧事情は、多少は改善したものの、依然としてギリギリの暮らしを送っている人々が少なくない。

金正恩氏が和盛地区1万世帯住宅建設着工式に参加した(2022年2月13日付朝鮮中央通信)