モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、2024年以降の日本社会の新たな潮流と、そこで生まれる「勝ち組」「負け組」について予想する。

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今年こそは日本でも、本質的に男女格差が解消された"濁りのないマーケット"へと向かう元年になる――強い願望も込めて、2024年をそう占いたいと思います。

IMF(国際通貨基金)の各国経済分析報告「IMF Country Focus」でも、日本の生産性を上げ経済を活性化させる最良の方法は「STEM(科学、技術、工学、数学)分野で活躍する女性を増やす」ことだと指摘されています。以下に内容の一部を要約します。

〈2012年から2019年の間、日本のひとり当たりGDPの成長率はG7内ではアメリカに次ぐ高さで、その原動力は多くの専業主婦が労働市場に参入したことだった。しかし、さらなる成長を促すには、女性を安価な労働力に押しとどめるのではなく、STEM分野でのキャリアを追求できる構造にすべきだ〉

記事では2023年のノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴルディン氏の研究なども参照しながら、日本が女性活躍の「質」を変えていく必要があると結論づけています。

私なりに言い換えるなら、2010年代は社会の既得権者=「昭和オヤジ」の価値観を手放せない人や、それを自身に憑依させた若者の上から目線による「女性にもチャンスをあげよう」という程度の見せかけの動きが中心でした。

そうではなく、女性が真の決定権を持つフェアな市場が生まれたときに、社会は本当の意味で大きく変わるということです。実際、すでに一部ではそれが実現し始めていると思います。

私の実体験でも、都心部のいくつかのIT企業では、女性が本当に生き生きと働いていました。一方で、現代の先進国とは思えないほど男性優位が続いている(そして、それゆえに空気がよどんでいる)企業も、少なからず見てきました。

女性を抑えつける、もしくは女性に脇役として支えてもらうことを前提とした搾取的な社会構造を是正するだけで、国全体の生産性は上がり、恩恵は全労働者に行き渡るともIMFの報告は指摘しています。

もちろん個々の局面についていえば、誰かが進出することで誰かが追いやられるという"ゼロサム"の構図は出てくるでしょう。しかし本質的には、女性が活躍する社会はみんなにとって新しいチャンスが訪れ、全体に活性化します。風通しがよくなる時代が来ることで損をするのは、風通しの悪さが利益につながる人だけではないでしょうか?

国際基準で女性の採用、報酬、プロモーション(つまり待遇)を男性に限りなく近づけていく企業(現時点では外国資本が大半だと思います)は、日本においてもおそらく旧態依然とした企業に比べて生産性が高いでしょう。

逆に、「中高年男性の正社員全員の給与を維持し続ける」という内向きの理由で改革を遅らせる企業はそれだけでハンデを負う。そして、その男尊女卑により生じる損失は地位の低い女性社員、若手社員にツケ回しされ、働く環境はますますブラックになることが予想されます。

こうして徐々に、「男女間がフェアで業績がよく、男女ともにやる気が出る会社」と「アンチフェミニズムで縦社会が厳しく、なおかつ業務がきつい会社」のコントラストがはっきりしてくる。また、よりマクロな視点で見れば、前者のような企業が集まる都市・地域に人材と富が集中し、そうでない都市・地域には男尊女卑と貧困が集中していく、というシナリオ予測もあながち大げさではないと思います。

当然、女性たちは可能な限り先進的な場所へと"脱出"していくでしょう。このように考えると、従来の権力勾配が変わることそのものをよしとしない人は、そのまま時代の負け組へと転落していく運命にあるといえます。

すると当然、そういった人々の怒りやねたみを煽動する動きも出てくるでしょう。多様性は社会を壊す、欧米の価値観を持ち込んで日本を居心地の悪い国に変えるな......。しかし、これは「負け組だからなお一層女性の地位向上を憎む」という不健全なループです。

何をどう考えても、「それ」は数年以内にやってくる。ならば、その波にいかに乗れるか、その波がいかに素晴らしいかを考えたほうが、絶対に幸せに近づけるはずです。

「男だから養わなければならない」わけでもないし、「女だから子育ての主力でなければいけない」わけでもない。適材適所でカバーし合って、社会のあちこちで互いに手を取って頑張ればいい。

2024年は、日本がポジティブな共同体になるきっかけの年になってほしいものです。

週刊プレイボーイでコラム「挑発的ニッポン革命計画」を連載中のモーリー・ロバートソン氏