文=酒井政人

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優勝争いに絡めなかった2校

 第100回箱根駅伝は青学大が圧巻のレース運びを披露して、2年ぶり7回目の総合優勝に輝いた。2年連続の駅伝3冠を狙った駒大は敗れたものの、3区の途中までトップを駆け抜けた。両校とも持ち味を見せたといえるだろう。

 その一方で、総合優勝を目指していた中大と國學院大は本領を発揮できなかった。両校は前回大会と昨年の全日本大学駅伝で4位以内に入っているが、今回は一度も「4位以内」に入ることなくレースを終えたのだ。

 

中大は16人中14人が体調不良に

 前回2位の中大は富津合宿(12月21~23日)まで順調にトレーニングを積んできたが、12月24日から続々と選手が発熱。湯浅仁(4年)と吉居駿恭(2年)以外の登録メンバー14人が体調不良に陥り、藤原正和駅伝監督が「棄権」を考えたほどの状況だった。

「1~3区で遅れても4~8区で挽回して、シード圏内でゴールするというイメージで区間配置を組みました」

 藤原監督の不安は的中する。前回1区4位の溜池一太(2年)が19位と出遅れると、同区間賞の2区吉居大和(4年)と3区中野翔太(4年)もペースが上がらない。前回と同じメンバーを配置しながら3区終了時で18位と低迷した。

 それでも4区に入った主将・湯浅が奮起する。「良くない想定もしていたので、自分が流れを変えるしかないと思っていました。4年生としてキャプテンとして、その自覚と責任感で走りました」と区間3位の激走。5人を抜き去り、シード圏内に41秒差まで接近した。

 復路は6区浦田優斗(3年)が区間5位、7区吉居駿恭が区間賞の走りで猛追。7区終了時では、総合10位につけていた。しかし、元旦に発熱した8区阿部陽樹(3年)が区間22位に沈むと、その後はシード圏内に押し戻すことができず、総合13位に終わった。

 藤原監督は、「8区阿部には『無理をしないでいいから自分のペースでいきなさい』と伝えていました。本当に10人ギリギリだったので、かわいそうな思いさせたなと思います。特に4年生はチームを立て直して、期待に応えてくれた世代なので、こういうかたちで終わらせてしまったのは申し訳ないですね」と唇をかんだ。 

 藤原監督とともに第100回大会での総合優勝を本気で目指してきた主将・湯浅も今回の結果を悔やんでいた。

「チームとしては目標とほど遠い結果になってしまったんですけど、個人としては後輩たちに背中を見せられたかなと思います。優勝を目指していたので、悔しさというか、やり残したものがあるというのが、正直な感想です。それでもこの1年で練習強度は上がりましたし、やってきたことは間違いない。後輩たちには自信を持ってやっていってほしいです」

 名門・中大を引っ張ってきた主将の熱い〝思い〟は後輩たちに引き継がれたことだろう。

國學院大は主将の〝気持ち〟がチームに火をつけた

 全日本3位の國學院大も体調不良者が続出した。12月10日インフルエンザに集団感染。さらに1区を予定していた山本歩夢(3年)が12月中旬に故障を再発し、起用が難しくなったのだ。前田康弘監督は「シード落ちを覚悟した」というが、伊地知賢造(4年)と平林清澄(3年)がチームを盛り立ててきた。

 前田監督は悩んだ末に4区を予定していた主将・伊地知を1区に起用する「鼓舞作戦」を敢行した。

 万全ではなかった伊地知は「気持ちだけは絶対に負けたくなかった」とトップ集団に食らいつく。17位での中継になったが、「伊地知さんの勇気ある飛び出しに元気をもらいました」という2区平林が快走。インフル明けながら8人抜きを演じて、9位に急上昇した。3区青木瑠郁(2年)と4区辻原輝(1年)もともに区間4位と好走。しかし、沖縄出身の5区上原琉翔(2年)は冷雨になったこともあり、能力を発揮できず、往路を6位で折り返した。

 復路は1年生3人(6区後村光星、7区田中愛睦、9区吉田蔵之介)を含む下級生5人が出走。順位を1つあげて、総合5位でフィニッシュした。危機的な状況のなかでもチームは意地を見せた。

「伊地知はいける状況じゃないのに、迷わずいきました。想定より遅れましたが、チームに漂っていた閉塞感を切り裂いてくれたんです。その気持ちは後輩たちにつながったと思いますよ」と前田監督は伊地知の〝攻めの走り〟を評価した。

 主将・伊地知はタスキをつなげると、その場に倒れ込んだ。苦しいながらも〝完全燃焼〟の走りだった。

「正直、ラスト3㎞ぐらいは覚えていないんです。意識がちょっと飛びかけていたのかもしれません。自分の走りはめちゃくちゃ悔しいです。粘り切れると思って、突っ込んだ部分もあったので、自分の力不足を感じましたね。ただ、気持ちを前面に出すことができたのは良かったと思います。『てっぺん』を目指していた以上、優勝したかったという気持ちがありました。届かなかった夢を後輩たちに託したいなと思います」

 伊地知は卒業するが、今回のメンバー9人が残り、ハーフマラソンで日本人学生歴代4位の記録を持つ山本歩夢もいる。國學院大は主将の意思を受け継ぎ、来季は本気で「てっぺん」を目指していく。

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