会社役員とは、経営方針の決定、業務や会計の監査などを担う立場の人を指します。会社法で定義されている会社役員は、取締役・会計参与・監査役の3役です。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、事例をもとに会社役員に関するエビデンスについて解説します。

役員給与の適正額を証明するには?

Q

役員給与や役員退職金の適正額を証明するためのエビデンスについて教えてください。

A

役員給与、役員退職給与とも形式基準、実質基準で税務上適正額か否かの調査が行われます。「不相当に高額」という概念は典型的な不確定概念のため、「不相当に高額」という認定を避けるためのエビデンスとしての最適解や唯一解といったものは一切存在しません。しかし、最低限用意しておくべき事項はあります。

役員給与における「形式基準」について

議事録は会社法を踏まえたうえで作成

役員給与等の決定方法については、会社法361条1項を確認します。

税務調査では役員給与については形式基準よりも実質基準を重視する傾向があります。形式基準については、いつの時点から改定か、総額内に収まっているか、といった極めて単純な記載事項について確認します。

納税者がそれを作成している場合、税理士は全てにおいてトレースが必要になります。議事録が重要なのは定期同額給与、事前確定届出給与に関して会社法を前提とした法文になっているからです。

会社法361条】 (取締役の報酬等) 第361条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。 一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額 二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法 (後略)

「使用人の給与分を除く。」の一文を忘れずに記載

それを踏まえて、

【定時株主総会 第〇号 議案取締役の報酬額改定の件  当社の取締役の報酬額は、令和4年6月25日開催の第10期定時株主総会において、取締役の報酬額を月額2,000万円以内と承認されている。  このような経緯を経て現在に至っているが、業績の悪化、経済情勢の変化及び諸般の事情を考慮して、賞与を含めた報酬として、取締役の報酬等の総額を各事業年度を対象とする年額5,000万円以内と改めさせていただくこととする。  取締役の報酬額には、従来どおり使用人兼務取締役の使用人分の給与は含まないものとする。

最後の下線については、仮に使用人分給与を含めない旨を明示した場合、株主総会での枠については、税務では「使用人給与+役員給与」の合算額で決定されてしまうからです。これにより損金不算入部分が生じることを防ぐため、通常はこの文言を明記します。

【取締役会議事録】(代表取締役に一任) 第〇号議案 取締役の報酬額決定の件  議長は議案の件について、第〇期定時株主総会の決議により承認を受けた取締役の報酬等の総額の範囲内で、各取締役の具体的な報酬金額(使用人兼務取締役の使用人分給与を除く。)の決定については、代表取締役社長に一任することとしたい旨を述べ、一同に諮ったところ、全員異議なく承認可決した。

極めて規模の小さい法人の場合、代表取締役からの「取締役報酬決定通知書」のような通知書だけでもエビデンスとして足ります。

支給時期・押印を明確に記載

また、取締役会で決定する場合、「令和〇年〇月〇日(令和〇年〇月〇日支給分から)」の明記が絶対に必要になります。

書証として疎明力をより高めるため、会社法上の規制はありませんが、法務局に届けられている印を押していることが望ましいあり方です。

一方、取締役会に委任した場合の取締役会議事録においては会社法上「出席した取締役及び監査役」の署名又は記名押印が求められていることから、それに従います(会社法369条3項)。

また、定期同額給与との関係から例えば「6月25日から開始する新しい職務執行期間に係る最初の支給時期は7月末から一定」ということでも問題はありません。

この要件を満たしていることを明白にするため、議事録では定時株主総会開催日から開始する新しい職務執行期間に係る最初の支給時期がいつかも明記しておくべきです。

形式基準よりも実質基準が重視されたケース

重要情報1

〇報酬の限度額を間違えて記載してしまい形式基準で否認された事例 山形地裁昭和38年(行)第2号審査決定取消等請求事件(棄却)(確定) (TAINSコードZ0441458)

議事録よりも客観的事実が重視され、支給限度額の超過が認められた

(判決要旨一部抜粋)

(2)原告は創立総会において「取締役及び監査役の報酬支出の件」が審議され、原告の将来の発展を期してこれら役員に対する報酬は各自年額50万円以内とし、その支出方法は取締役会に一任することに定められたもので、その議事録には単に、「年額50万円内」との記載があるが、これは同議事録作成の際「各自年額50万円以内」と記載すべきところ「各自」の2字を脱落して記載されたに過ぎず、従って支給限度超過額はないと主張するが、

イ)右報酬の支出方法については取締役会の議決がなく、税務調査当時にはいまだ限度額の変更がなかったこと、

ロ)非常勤役員3名に対し設立以来3年間は全く報酬支給がなく、他の2名の常勤役員に対し設立後3年間に支給された報酬総額はいずれも年50万円に満たなかったこと、

ハ)創立総会の本議案の承認状況、

ニ)関与税理士が原告会社の事業規模等から年額50万円以内との限度額の定めは役員全員に関するものとして相当であると考えていた事実、

ホ)調査担当者に対する原告代表者等の答弁等の事実

を総合して考えれば、原告方の限度額に関する定めは役員全員につき定められたものであると認めるのを相当とする。

したがって、被告税務署長が3事業年度における原告の役員報酬支給総額のうち限度額50万円を超える部分をいずれも損金に算入せず所得金額として扱ってなした本件各更正決定には何等の違法は存しない。

支給限度額の判定について

「取締役会で定められた支給限度額」より報酬の低い場合、報酬=支給限度額と見なされる

重要情報2

〇報酬の限度額を間違えて記載してしまい形式基準で否認された事例 (過大役員報酬/形式基準限度額)取締役会において役員ごとに定められた役員報酬の支給限度額の総額が、株主総会の決議で定められた役員報酬の総額を上回っている場合は、支給限度額が総額で定められている場合として判定することとなり、取締役会決議額を形式基準限度額とすることはできないとされた事例(平20-03-04裁決) (TAINSコードF0-2-327

議事録の重要性、すなわち株主総会等の開催が重要になります。無数の論点が存在するため、株主総会等の決議の取消しが争点となった事例は確認すべき事項となります。

次ページではそもそも株主総会等の決議の取消しが争点となった事例として代表的なものを列挙します。

本人が欠席した取締役会会議は有効か

重要情報3

〇取締役会決議の有効性/深夜の電子メールによる招集通知と特段の事情 ( 平29-04-13 東京地裁 棄却 控訴 TAINSコードZ999-6156

本件は、原告(Aグループの創業者・93歳)が、被告A社の取締役会における原告を代表取締役から解職する旨の決議(本件決議)は、原告に対する適法な招集通知が行われなかった瑕疵により無効であると主張して、A社に対し、本件決議が無効であることの確認を求めた事案です。

東京地裁は、次のように判示して原告の請求を棄却しました(東京高裁・棄却・確定)。

勝手に取締役を解職させられた…取締役会の前日深夜にメール

原告が自らパソコンを操作することがないこと等を考慮すると、招集通知メールがメールサーバに記録されたことをもって、原告の了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない。

加えて、取締役会前日の深夜のメール送信であって、実質的に見ても招集通知がされたと評価することは困難である。

取締役会への出席/欠席に関わらず、結果は同じだったと予測

しかし、本件取締役会には、原告を除く取締役ら全員が出席しており、そのうち棄権した原告の次男を除く全員の賛成をもって本件決議が成立している。

原告を除く取締役らは、取締役会の前夜、顧問弁護士も交えて協議をし、原告の長男が判断能力の低下した原告を利用してA社に混乱をもたらすことなどを防止するために、原告を代表取締役から解職するとの意見を形成するに至っている。

以上によれば、原告がA社の取締役会において相当に強い影響力を有していたことなどを考慮しても、原告が本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるというべきである。

したがって、招集手続の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、本件決議は有効になる。

株主総会決議が取消しになったケース

重要情報4

株主総会決議の取消しの訴え/準共有株式に係る議決権行使の適法性・決議方法最高裁判所第一小法廷平成25年(受)第650号株主総会議決取消請求事件(棄却)(確定)平成27年2月19日判決(判示事項)TAINSコードZ999-5316

1 本件は、被上告人(株式の共有者)が、臨時株主総会の決議(本件各決議)には決議の方法等につき法令違反があると主張して、上告人(特例有限会社)に対し、会社法831条1項1号に基づき、本件各決議の取消しを請求する訴えである。

会社法106《共有者による権利の行使》本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされた本件議決権行使(Bによる準共有株式の全部についての議決権の行使)、同条ただし書の上告人の同意により適法なものとなるか否かが争われている。

民法の規定に反した権力行使は、適法でない

2 会社法106条本文は、

「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」

と規定しているところ、これは、共有に属する株式の権利の行使の方法について、民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される。

3 その上で、会社法106条ただし書は、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と規定しているのであって、これは、その文言に照らすと、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。

4 そうすると、共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではないと解するのが相当である。

5 そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条《共有物の管理》本文により、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものと解するのが相当である。

指定および通知を欠いた権力行使は、民法に反するので適法でない

6 これを本件についてみると、本件議決権行使は会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされたものであるところ、本件議決権行使の対象となった議案は、

①取締役の選任

②代表取締役の選任並びに

③本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転

であり、これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され、又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものというべきである。

7 そして、事実関係によれば、本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず、また、残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。

そうすると、本件議決権行使は、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず、民法の共有に関する規定に従ったものではないから、上告人がこれに同意しても、適法となるものではない

8 以上によれば、本件議決権行使が不適法なものとなる結果、本件各決議は、決議の方法が法令に違反するものとして、取り消されるべきものである。これと結論を同じくする原審の判断は、是認することができる。

伊藤 俊一

税理士