インドネシア代表はオランダインド時代の1938年ワールドカップ出場歴のある古豪だが、AFCアジアカップは2007年以来4大会ぶりの出場となる。

 アジアカップ予選を兼ねていたカタールワールドカップ予選はアジア2次予選で敗退。その後、プレーオフとアジアカップ3次予選を経て本大会出場権を獲得した。今大会出場国中で最も下馬評の低いチームの一つと言えるだろう。

 一方で、インドネシアアジアカップに出場する24カ国の中で最も平均年齢の低いチームでもある。韓国人のシン・テヨン監督が率いる“チーム・ガルーダ”26人の平均年齢は24.3歳で、将来が楽しみな若手タレントも多い。

 そして、チームを支える屋台骨には帰化選手たちがいる。元ベルギー代表のMFラジャ・ナインゴランがそうであるように、インドネシア系の人々は世界中に分布しており、代表チームでは特に欧州育ちでインドネシアにルーツを持つ選手を積極的にリクルートしてきた。

 今回のアジアカップ出場メンバーには7人の帰化選手が含まれており、チームキャプテンを務めるDFジョルディ・アマトはスウォンジーやエスパニョールでも活躍した経験豊富なセンターバックだ。他にはベルギー生まれで現在も同国1部のメヘレンで主力を担う元U-20オランダ代表DFサンディ・ウォルシュも招集された。また、DFシェイン・パッティナマやMFイヴァル・ジェナー、MFユスティン・ヒュブナー、FWラファエルストライクオランダ育ちだ。

 オランダ出身のMFマルク・クロックだけはインドネシアにルーツを持たないが、インドネシアリーグで長くプレーしており、2022年に帰化が認められて代表チームにも欠かせない存在となった。

 ただ、アジアカップでは常に厳しい戦いを強いられるだろう。インドネシア代表は2023年11月に行われた北中米ワールドカップアジア2次予選で、アジアカップでも同グループのイラク代表と対戦し1-5で敗れた。さらに年が明けて1月2日と5日に続けて組まれたリビア代表との国際親善試合では前者が0-4、後者が1-2と2連敗を喫している。

 これまでの基本システムは3-4-1-2だったが、FIFAランキングでも自分たちより上位の国ばかりと対戦するアジアカップのグループステージでは5バックで守りを固める時間が長くなりそうだ。トルコキャンプ中のリビア代表戦でテストした3-4-3を採用し、守備時は5-4-1で自陣にブロックを敷く戦い方も考えられる。

 しかし、肝心の守備はたびたび脆さを覗かせる。自陣に人数が揃っていてもボールに適切にプレッシャーをかけられず、軽率なパスミスやクリアミスが失点に直結する場面が多すぎるのだ。全く問題ないはずの状況を自分たちのミスでピンチに変えてしまう悪癖を取り除けなければ、1失点が命取りになるアジアカップで勝ち点を積み上げることは難しくなる。

 東京ヴェルディのDFプラタマ・アルハンや、18歳でベルギー2部のKMSKデインズへ移籍し欧州で奮闘するMFマルセリーノ・フェルディナンら今後が楽しみな若手は多い。彼らのさらなる成長のため、そしてインドネシア代表が競争力を高めるためにも、4大会ぶりのアジアカップは重要な機会になるだろう。

 まずは開幕前最後のテストマッチとなる1月9日イラン代表戦でディフェンス面の課題を見直し、グループステージの戦いに入っていけるか。体調を崩した母親に付き添うためオランダに一時帰国したパッティナマは大会直前まで戻って来られない予定だが、他の選手たちにはまだ準備のための時間が十分に残されている。シン・テヨン監督率いるインドネシア代表の目標は同国サッカー史上初めての決勝トーナメント進出だ。

◆【KEY PLAYER】 DF12 プラタマ・アルハン

 19歳でインドネシア代表デビューを果たし、すでに30試合以上の出場歴を持つ超攻撃的左サイドバックだ。2022年からは東京ヴェルディに所属している。J2では2年間でわずか2試合しか出番を得られなかったが、日本での経験を糧に初のアジアカップに挑む。

 アルハンが日本のファンを驚かせたのは、弾丸のようなボールをゴール前まで届けられるロングスローだった。彼が出場していれば、敵陣に入ってからのスローインはほぼ全てがフリーキックやコーナーキックと同等のセットプレーになる。Jリーグ屈指の飛距離と急速を誇るロングスローは、アジアの舞台でもインドネシア代表にとって大きな武器になるはずだ。

 2023年に帰化が認められたシェイン・パッティナマがインドネシア代表入りしてからは、アルハンの出番がやや減少している。だが、パッティナマは病気になった母親の看病のためにアジアカップ開幕直前までオランダに一時帰国しており、初戦までにチームに戻って来られたとしてもコンディション面に懸念が残る。アルハンにとっては大きなチャンスであり、左ウィングバックおよび左サイドバックとして日本代表やイラク代表、ベトナム代表相手に活躍できれば、Jリーグで苦しんだ2年間の悔しさを払拭するような明るい未来が拓けてくるはずだ。

文=舩木渉