年金をもらって悠々自適な暮らし。日本の高齢者のすべてが、そんな老後を送っているとは限りません。なかには多額の借金を抱えて、「自己破産しか方法はない」というケースも。そんな場合に知っておきたい、「まとまったお金」を得られる意外な方法も。みていきましょう。

自己破産、年間6万人強…10%ほどが70代以上の高齢者

――伯父が破産寸前

と投稿した40代の男性。「どう生きていけばいいのか……お金を貸してほしい」と頼み込んできたといいます。

――伯父はまだ現役で働く71歳の独身

――借金を投資で返そうとしたらしい……結局、失敗して、借金1,000万円超え

――「貯金は?」と聞いたら「ゼロ」って……浪費家だから、伯父は

男性自身、貸すほどのお金もなく、断ったといいます。

日本弁護士会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、自己破産の理由の第1位は「生活・低所得」で61.69%。「投資」を理由にした自己破産は1.53%とわずかでした。また破産債務者のうち70代以上が9.35%。高齢者の自己破産は決して珍しいことではありません。

【「破産原因」上位10】

1位「生活苦・低所得」61.69%

2位「病気・医療費」23.31%

3位「負債の返済(保証以外)」20.48%

4位「失業・転職」17.58%

5位「事業資金」16.13%

6位「生活用品の購入」14.76%

7位「浪費・遊興費」:11.37%

8位「教育資金」:9.84%

9位「給料の減少」9.60%

10位「保証債務」:9.44%

(11位「クレジットカードによる購入」9.35%、12位「住宅購入」7.26%、13位「ギャンブル」7.18%)

裁判所『司法統計』によると、2023年11月に自己破産をした個人は6,107人。1年で6万〜7万人ほどが自己破産する計算です。破産原因の割合から考えると、4万人強が生活苦・低所得で自己破産。1,000人ほどが投資を理由に自己破産に至る計算です。また70代以上の自己破産は、6,000人強になると考えられます。

70代でも現役で働いているといいますが、年齢的に非正規社員でしょうか。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、70代非正規社員の平均給与は、月収で20.9万円、1人暮らしであれば手取りは16万円ほどでしょうか。貯蓄ゼロで手取り16万円……1,000万円の借金を返すには、遠すぎる道のりです。

70代で借金1,000万円、返済の目途がたたず…自己破産しか方法はない?

72歳で1,000万円の借金。返済の目途をたてられず。

――だめだ、もう自己破産するしかない

自己破産をしたら、原則、借金の支払義務は法的になくなり、債権者へ返済する必要はありません。ただその前に、本当に借金が返せないのか、まとまったお金を得る方法がないのか、色々と検討したいところ。

たとえば、71歳の伯父が、まだ年金をもらわず、働いていたとしましょう。年金は原則65歳で受給権が発生しますが、希望により、年金をもらう時期を繰り下げることができます。繰り下げることができるのは75歳までで、年金の受給を1ヵ月遅らせるごとに「0.7%」ずつ受給額が増えていくというメリットがあります。

そして繰下げ待機をしている場合、過去5年間をさかのぼって本来受け取るはずだった年金額を一括で受け取ることができます。つまり71歳であれば、66歳まで繰り下げたとみなし、そこから5年分の年金を一括で受給できるのです。

仮にこの伯父が、65歳から厚生年金の平均受給額である月14万円を手にするはずだったと仮定しましょう。66歳0ヵ月時点の増額率は「8.4%」。つまり月15.1万円に増額したとみなし、5年分の900万円強を一括で手にできる、ということです。また5年分を一括受給したあとも、増額された年金が一生続きます。

さらに厚生年金の保険料は企業に勤めていて加入資格があるなら、原則、70歳到達まで支払います。その分、年金の受給額が増えるので、伯父が60歳以降も厚生年金に加入していれば、年金の一括受給により借金返済の目途がつくかもしれない、というわけです。

ただし、気をつけたいのが「税金」。年金ももちろん課税対象。計算上900万円だからといって丸々もらえるわけではありません。また年金を一括受給した場合、過去に行った確定申告の修正申告を出さなければなりません。また数千円の延滞税も発生します。

どちらにせよ、年金の制度をうまく利用すれば、自己破産の道は避けられるかもしれません。

[参考資料]

日本弁護士会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』

裁判所『司法統計』

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』

日本年金機構『令和5年4月から老齢年金の繰下げ制度の一部改正が施行されました』