政府は2023年12月22日に1年の経過措置を経て、2024年12月2日に保険証の新規発行を止めることを閣議決定しました。しかし、健康保険証とマイナンバーカードが一体化した「マイナ保険証」利用率は伸び悩んでおり、むしろ2023年4月の6.3%をピークとして、10月には4.49%と低下の傾向すらみせています。このような現状の背景には、マイナンバー関連のトラブルが相次いだ結果、国民のあいだで不信感が広がっていることがあるでしょう。また、第2の「消えた年金」記録問題化するとの懸念の声すらあります。では、この問題の根本原因はどこにあるのでしょうか。年金記録問題と比較して元日本年金機構・理事の三木雄信氏が解説します。

本質的な問題が同じ「年金記録」と「マイナンバー・マイナ保険証」

筆者は、2007年以降「消えた年金記録」として大きく問題となった年金記録問題について、厚生労働省大臣政策室政策官や日本年金機構理事(非常勤)などいくつかの立場で対策・解決に当たってきました。そして、その経験から現在の「マイナンバー」や「マイナ保険証」で起きているさまざまな問題を考えると、これら2つの問題は本質的には同じだと強く感じています。

そもそも年金記録問題とはどのような問題だったか振り返ってみましょう。日本年金機構のWebサイトによれば次のように説明されています。

年金記録問題とは?

平成19年、年金手帳などに記載されている基礎年金番号に統合されていない記録(持ち主不明の年金記録)約5,095万件の存在が明らかになりました。

この記録は、平成9年にそれまでそれぞれの公的年金制度ごとに異なる番号で管理していた年金記録を基礎年金番号に統合した際に、様々な理由により古い番号のままで残っていた記録でした。また、この他、紙台帳等で管理していた年金記録をコンピュータに転記する際に、正確に転記されていないケースなども見つかっています。

つまり、年金記録問題の本質とは単に「消えた」というより「宙に浮いた(つまり基礎年金番号と結びつかない)年金記録と間違って結びつけられてしまった年金記録の発生」ということだったのです。

マイナ問題の発生原因

さて、マイナンバーマイナ保険証についてもさまざまな課題が報告されています。

2023年12月12日に発表されたマイナンバー情報総点検本部の総点検の最終的な取りまとめによれば、8,208万件を点検してそのなかで8,351件の紐付け間違いが検出されたと、発表されました。これらの紐付け間違いの発生の原因として、次の3つが挙げられています。

1.マイナンバーの提出がなく、2情報で住基ネット照会した際に複数人のマイナンバーが該当した場合の紐付け誤り

2.申請書にマイナンバーの記載誤り

3.本人と家族のマイナンバーの取り違え

氏名などの不一致は139万件…深刻なマイナ保険証問題

一部の自治体で使われた点検を容易にするためのツールの使用実績から、別人への紐付けの可能性が高いものは、その対象となった67万件のうち3.6万件(全体の5%)ありました。その原因は申請者が改姓や住所変更を届出していないことや、申請時にカナ氏名や性別の記入を求めていなかったこととされています。

おそらく、総点検では、これらについても調査をして改姓や住所変更、カナ氏名や性別を確認する手間のかかる作業を行い、紐付け誤りからは除外したのでしょう。

また、総点検と別に11月までにマイナンバーと紐付けられたすべての保険証についても住民基本台帳と突き合わせて調査をしたことも同時に発表されています。その結果、約139万件もの氏名などの不一致が明らかになっています。そのなかでの450件程度は別人に紐付いていると推計したと発表されています。

実は、この不一致139万件は年金記録問題でいえば、基礎年金番号と結びつかない「宙に浮いた」記録に近い状態ということになります。ただ、年金記録問題と違うのは、この139万件は現在の保険証という制度で独立して機能しているので完全に「宙に浮いた」状態でないということです。

しかし、今後保険証が廃止され、その後5年間は使用できるという資格確認書も失効した場合には、「宙に浮いた」状態が発生する可能性があり、解決すべき課題であることは間違いないでしょう。

「年金記録問題」と「マイナ保険証問題」の共通項

さて、年金記録問題とマイナンバーマイナ保険証問題の2つの問題を並べてみると、下記の点で非常に似ていることに気づかれた読者も多いでしょう。

まず、基礎年金番号とマイナンバーという国民1人ひとりに結びついている番号に対するデータの紐付けをする際に起きた問題ということです。

そして、その紐付けの際に間違いが起きる原因が、そもそも紐付けをする際に1人ひとりの人生のなかで変わることが当然の氏名・性別・住所・勤務先などの情報を使ったことも共有しています。

さらに、それらの情報について人間が処理することによってタイプミスや読み間違いや異体字(「高」と「はしご高」など)の違いなども紐付け間違いの原因となっています。

このように年金記録問題とマイナンバーマイナ保険証問題の発生原因は共通しているのです。

マイナ保険証問題を解決する、超シンプルな方法

では、どのようにしてマイナンバーマイナ保険証問題を解決して「マイナ保険証」利用率を高めていけばいいのでしょうか?

年金記録問題を踏まえて…

まず、最も重要なことは、紐付けをする際に氏名・性別・住所・生年月日の基本4情報を使うことをやめ、マイナンバー自体で紐付けをすることです。

なぜならば、先に述べたように氏名・性別・住所は変わる可能性がかなりあるからです。生年月日は変わらないものではありますが、たとえば氏名と生年月日で2情報では複数の人が存在する氏名と生年月日がかなりあることが年金記録問題の分析のなかでも判明しています。

マイナンバー情報総点検本部の総点検の最終的な取りまとめによれば、9月に各制度の申請時にマイナンバーの記載を求める旨を明確化する省令等改正を実施しています。

しかし、同時に原則基本4情報(氏名・生年月日・性別・住所)で照会方法についても「マイナンバー登録事務に係る横断的ガイドライン」の策定を行い、原則4情報でのマイナンバー照会以外は回答不可とするJ-LISの照会システム改修を12月に行うとしています。

このことから、この資料ベースでは、完全にマイナンバーのみでの紐付けでなく基本4情報(氏名・生年月日・性別・住所)での紐付けを今後も継続するようにも読み取れます。

筆者は、最も重要なことは、紐付けをする際に氏名・性別・住所・生年月日の基本4情報を使うことを今後は完全にやめ、マイナンバーのみでの紐付けに一本化するべきだと思います。

このことを明確化するためのも省令の改正だけでなくマイナンバー法を改正するべきでしょう。さらに、マイナンバーのみでの紐付け一本化は入力間違いなどを防止することにもつながります。

マイナンバー情報総点検本部の総点検の最終的な取りまとめによればマイナンバーカードからの自動読み取り機能を実装することで入力間違いなどに対応するとされています。しかし、そもそもマイナンバーには数字列の誤りを検知するために与えられる検査用の数字であるチェックデジットを含んでいるので打ち間違いがあれば判明するようになっています。

ですからマイナンバーに関連したすべてのシステムにチェック機能を入れて間違いは入力不可にして弾くようにすればいいだけなのです。自動読み取りよりもこちらのほうがはるかに安価で迅速に実装できるので効率的でしょう。

おわりに

筆者はマイナンバー情報総点検本部の総点検の最終的なとりまとめを読む限り、すでに事務方レベルでは、マイナンバーマイナ保険証問題の本質的な問題点は理解され、省令改正などで現行法で可能な対応はされていると思います。

しかし、問題はさらに高いレベルにあります。ぜひ河野大臣には今後5年、10年先を見据えてより抜本的な法律改正を含めて政治レベルで検討していただきたいと思います。

<参考>

※ 日本年金機構のWebサイト(https://www.nenkin.go.jp/service/nenkinkiroku/torikumi/sonota/kini-cam/20150601-05.html

三木 雄信

元日本年金機構 理事

トライズ株式会社 代表取締役社長