発災から約1週間経った能登半島地震について、防衛省は予備自衛官の召集を決定、被災地へ部隊を派遣しました。彼ら“予備”自衛官は一般的な自衛官と何が違うのでしょうか。

たとえるなら「パートタイマー」公務員

2024年1月1日に発生した能登半島地震防衛省自衛隊はすぐさま待機している部隊を被災地に向かわせ、初期の偵察活動を行い、県知事などからの要請を受けたうえで、救援部隊を送っています。

ただ、発災から時間が経ち、災害派遣も長期化の様相を見せる中、防衛省1月5日に「予備自衛官」などを最大100名ほど追加で派遣すると発表。1月10日には招集に応じた即応予備自衛官約90名からなる部隊を編成し、被災地での支援活動をスタートさせました。

この予備自衛官や即応予備自衛官と呼ばれる隊員は、一体どのような人たちなのでしょうか。

たとえるなら正規の自衛官、すなわち常備自衛官が「正社員」なのに対して、予備自衛官は「パートタイマー」とでも形容できる存在です。身分としては非常勤の特別職国家公務員で、普段は一般企業に務めたり、個人事業主として生計を立てたりしている隊員がほとんどです。

予備自衛官は、実際には役割や訓練日数などで「予備自衛官」「即応予備自衛官」「予備自衛官補」の3種類に分けられますが、任命されると、国が必要だと判断したら迷彩服(作業服)などに着替えて一時的に自衛官になります。なかには地方議員や俳優などを務める予備自衛官もいるため、人材としては非常にバラエティー豊かだと言えるかもしれません。

では、なぜ予備自衛官が必要かというと、それは常に維持している現役自衛官(常備自衛官)の人数を抑制し、いざという時に短時間で自衛官の人数を増やせるようにするためです。

その歴史は、陸上自衛隊が最も古く自衛隊発足とほぼ同時の1954(昭和29)年から。一方、海上自衛隊は1970(昭和45)年から、航空自衛隊は1986(昭和61)年から設けられています。

年間30日訓練している非常勤の国家公務員

今年(2024年)で創設70年の節目を迎える予備自衛官制度ですが、開始当初は即応予備自衛官も予備自衛官補もない、予備自衛官だけのシンプルなものでした。

予備自衛官は年間の訓練日数が5日間と短く、訓練内容も最新の国防情勢を学ぶ精神教育や、体力測定、実弾射撃訓練など、比較的軽易なものがメインとなっています。

特徴的なのが、予備自衛官は特定の部隊に所属せず、全国47都道府県北海道のみ4か所)に設置されている自衛隊地方協力本部で管理しているという点でしょう。役割は、今回の能登半島地震のように、大規模災害を始めとした有事の際に招集され、必要に応じて与えられた任務を遂行します。

ただ、前述したように年間5日では内容の濃い、長期にわたるような訓練を行うことが難しいという欠点がありました。そこで、陸上自衛隊は、より高度な訓練を受けた予備自衛官を育成するための新制度として、1997(平成9)年から即応予備自衛官制度を開始しました。

即応予備自衛官は、予備自衛官と異なり、決められた部隊、すなわち「第○○普通科連隊」という、常備自衛官が所属する一般的な部隊と同じ編成、同じ装備を持つ部隊に常日頃から所属し、訓練も年間30日間と予備自衛官の6倍も長く行います。

即応予備自衛官が所属する部隊は、トップの連隊長を始めとして少数の常備自衛官によって平時は部隊機能が維持されます。そのため、一般的な普通科連隊を「フル連隊」と呼ぶのに対して、即応予備自衛官で構成される普通科連隊は「コア連隊」と呼ばれます。

コア連隊に所属する即応予備自衛官の訓練内容は一般的な普通科連隊と同じで、体力検定や救急法検定などの各種検定を行うと共に、ミサイルやロケット弾、機関銃迫撃砲などといった重装備を運用するのに必要な特技検定(通称:MOS検定)の取得なども行われます。

「予備自衛官」を補う人たちって?

なぜ、即応予備自衛官はこのような訓練を行うのでしょうか。それは、即応予備自衛官がメインとなって構成されるコア連隊は、有事の際には常備自衛官で構成される軽普通科連隊と同様の戦力として復元されるから、というのが大きな理由です。

簡単に説明すると、普段は方面混成団という主に教育を司る部隊の隷下となっているコア連隊が、有事の際には第一線で戦う師団や旅団の普通科連隊として活動することが想定されているからです。

たとえば、東京を中心として関東甲信越をカバーする東部方面隊には、東部方面混成団という部隊があります。そこには神奈川県横須賀市にある武山駐屯地に本部を置く「第31普通科連隊」と、群馬県榛東村の相馬原駐屯地に本部を置く「第48普通科連隊」があります。

この第31普通科連隊は、有事の際には第一線部隊である第1師団の指揮下に入り、同師団に常設されている他の普通科部隊、すなわち第1、第32、第34の各普通科連隊と共に行動することになっています。

だからこそ、即応予備自衛官には年間30日の訓練出頭が求められると言えるでしょう。

なお、即応予備自衛官は陸上自衛隊のみの制度で、海上自衛隊航空自衛隊にはありません。もし、もともと海上または航空自衛官で、自衛隊を辞めた後に即応予備自衛官を志願する場合は、陸上自衛隊の非常勤隊員になる必要があります。そのため、即応予備自衛官部隊には陸だけでなく、海空の隊員も意外と所属していたりします。

こうして1997(平成9)年以降は制度上、2種類になった予備自衛官ですが、それから5年後にはさらに新たな制度が加わりました。それが「予備自衛官補」です。

予備自衛官補とは、自衛官経験がない一般人でも予備自衛官や即応予備自衛官になれる制度として新設されたもので、陸上自衛隊では2002(平成14)年に、海上自衛隊では2016(平成28)年から始まりました。

近い将来「コア連隊」は消滅へ

予備自衛官補は一般枠と技能枠があり、前者は3年以内に50日間の訓練を受ければ、後者は2年以内に10日間の訓練を受ければ、それぞれ訓練修了後に「予備自衛官」として、任務に就くことが可能になります。

一般枠は、18歳以上34歳未満で自衛官経験が1年未満(未経験含む)の者が受験できます。なお、技能枠に関しては非常に多くの国家資格保有者から広く募集しており、資格によっては50代以上(55歳未満)でも応募可能なものもあります(詳しくは地方協力本部などの公式WEBサイトを参照)。

このように、一口に予備自衛官といっても、いまやかなり細分化されていることがわかるでしょう。ちなみに、災害派遣など有事の際に招集されるのは、この中で全国に約3万人いる予備自衛官と約4000人いる即応予備自衛官だけとなります。

とはいえ、防衛省自衛隊としては予備自衛官制度を今後もニーズに合わせて改廃していく計画です。すでに、2022年末に発表された防衛力整備計画、いわゆる「防衛3文書」において、即応予備自衛官は運用体制を抜本的に見直すとされました。

具体的には、「即応予備自衛官がメインとなるコア連隊を廃止し、コア連隊に所属する常備自衛官をスタンド・オフ防衛能力、サイバー領域等で活動する部隊の増員所要に充て、即応予備自衛官は補充要員として管理する」と明記されています。

これら部隊の見直しに伴う詳細に関しては、まだ明らかにされていませんが、即応予備自衛官が所属するコア連隊は、近い将来、解散することになるのは間違いなさそうです。

冒頭に記したように、今般の能登半島地震に伴う災害派遣でも予備自衛官は常備自衛官と同様、被災地で活動することになりました。こうして見てみると、今や予備自衛官は大規模災害では必要不可欠な存在になりつつあると言えるのではないでしょうか。

能登半島地震の災害派遣で、豊川駐屯地を出発しようとする第49普通科連隊の高機動車。この部隊は、即応予備自衛官が主体のいわゆる「コア連隊」(画像:陸上自衛隊)。