従来の魚類用の環境DNA解析手法を用いた方法では、他種魚に比べて相対的に個体数の少ないビワコオオナマズやイワトコナマズの環境DNAを検出することが困難でした。京都産業大学生命科学部の稲元哲朗研究員、高橋純一准教授、滋賀県琵琶湖博物館の田畑諒一主任学芸員、(株)生物技研らの研究グループは、琵琶湖に生息する3種の在来ナマズ(図1;ビワコオオナマズ、イワトコナマズ、マナマズ)のミトコンドリア全ゲノムを解読しました(図2a)。そして環境DNA解析で利用することができるナマズ属および各種特異的な4種類のリアルタイムPCRプライマーセットの開発に成功しました(図2b)。今回開発に成功した手法は、感度・正確性が高いため(図3)琵琶湖水系に生息している3種の在来ナマズの分布、個体数、生態などの情報を調べることが可能になり、生態調査や保全に向けた取り組みに利用できることが期待されます。

図1 琵琶湖に生息する3種の在来ナマズ(左からビワコオオナマズ、イワトコナマズ、マナマズ)

ビワコオオナマズSilurus biwaensis、日本固有種で琵琶湖・淀川水系のみ生息。体長は100-120cm。準絶滅危惧(NT)、生態研究の報告は少ない。魚食性で長い尾びれの上葉が特徴。

イワトコナマズ:Silurus lithophilus琵琶湖北部・余呉湖のみ生息する固有種。体長は50-60cm。準絶滅危惧(NT)。生態研究の報告が少ない。黄褐色の斑点模様が特徴。

マナマズ:Silurus asotus、西日本(沖縄諸島、離島を除く)に自然分布する。大正時代に東日本、北海道に移入された記録がある。体長は60-70cm。 個体によって体色・模様に変異がある。

図2 ビワコオオナマズのミトコンドリアDNAの全長構造とリアルタイムPCRプライマー(赤枠)とプローブ(オレンジ色枠)の位置
図3リアルタイムPCRの解析結果(左はナマズ属全種、右はビワコオオナマズのみの検出にそれぞれ成功している。NCTはネガティブコントロール。)

環境DNA(eDNA, environmental DNA)

生物が環境中(水中など)に放出している粘膜や代謝産物を回収し、そこから抽出したDNAのこと。このDNAを解析することで、生物種のモニタリング調査が可能になる。

リアルタイムPCR

PCR装置を用いて、配列特異的なプライマーを使用して、特定のDNA配列のコピー数を決定することができる。PCRサイクル中の各ステージにおいて生成される増幅産物の量を測定することにより、DNAを定量することができる。通常のPCRよりも感度・正確性が高い手法。

  • 【論文情報】

タイトル:Development of a multiplex real time-PCR assay to estimate the distribution of the genus Silurus in Lake Biwa using environmental DNA.

著者:Tetsuro Inamoto, Yuu Kishimoto, Hisashi Okuyama, Ryoichi Tabata, Koichiro Nakano, Junichi Takahashi* (*は責任著者)

著者所属:稲元哲朗(京都産業大学生命科学部),岸本友(京都産業大学総合生命科学部),奥山永(京都産業大学生命科学部),田畑諒一(滋賀県琵琶湖博物館),中野江一郎(株式会社生物技研),高橋純一(京都産業大学生命科学部)

掲載誌:Conservation Genetics Resources,オンライン掲載日:2023年12月19日

DOI:https://doi.org/10.1007/s12686-023-01340-4

京都産業大学との同時リリースです。特に注記のない図版は、京都産業大学からのリリースに準拠しています。

  • お問い合わせ先

研究・ナマズに関すること 滋賀県琵琶湖博物館 主任学芸員 田畑 諒一

Tel 077-568-4811    Mail: tabata-ryoichi@biwahaku.jp

研究の方法に関すること  京都産業大学 総合生命科学部 准教授 高橋 純一

             Mail: jit@cc.kyoto-su.ac.jp

配信元企業:滋賀県琵琶湖博物館

企業プレスリリース詳細へ

PR TIMESトップへ