一般社団法人日本能率協会(会長:中村正己、JMA)は、社会や経営環境の変化が激しい時代において、組織の先頭に立って変革を牽引していく経営者として認識すべき経営課題や、これからの経営者に求められる要件、経営者・役員のためのトレーニングのあり方等を明らかにすることを目的に、JMAが開催している役員・経営幹部向け研修プログラムの受講者を対象として、『トップマネジメント意識調査2023』を実施しました。

※ JMAでは、役員・経営幹部の方々を対象としたトップマネジメント研修プログラムを1982年から41年間にわたって開催。これまで10,000名を超える方々にご参加いただいています。

<調査結果のポイント>

1.今後の日本の産業界および自社の競争力・成長に対する評価では、「不安」が「自信」を上回る。

そのような中で、経営戦略への影響が想定される関心が高い項目の第1位は「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」であり、「デジタル技術の活用、DXの推進」を抑えてトップとなる。

2.経営者となるためのトレーニングの有無に関する質問では、これまでに「受けてきた」との回答が昨年度比で1割以上高まり、5割に達する。一方で、現在の役職への就任を打診された時点で「準備ができていた」との回答は4割にとどまる。経営者となるためのトレーニングを「受けてきた」との回答した方ほど、現在の役職への「準備ができてきた」と回答が高くなることから、今後の経営を担う人材を育成するには、いかに意味のあるトレーニング機会を整備・提供するかがポイント。

3.これからの経営者に求められる資質は、「本質を見抜く力」「変化への柔軟性」「イノベーションの気概」「ビジョンを掲げる力」。一方で、「本質を見抜く力」、「イノベーションの気概」、「ビジョンを掲げる力」を自身の強みとしている役員・経営幹部は約0.5割~約1.5割にとどまる。

4. 現在の役職に就任する前にもっと身につけておけば良かったと思う知識やスキルの第1位は「会社法・税法などに関する法律知識」、第2位は「財務・会計に関する知識」。また、これらの知識・スキルについて、「既に身につけている」との回答は約1割~約2.5割にとどまる。

5. 卓越した経営者であると思われる人物:第1位 松下幸之助氏、第2位 稲盛和夫氏、第3位 スティーブ・ジョブズ氏 、第4位 本田宗一郎氏、第5位 渋沢栄一氏。

「トップマネジメント意識調査2023」実施概要

【本件に関するお問合せ先】

一般社団法人日本能率協会  経営・人材革新センター 組織・人材開発グループ (担当:勝田)

105-8522 東京都港区芝公園3-1-22 TEL:03-3434-1955 E-mail:JTOP@jma.or.jp

1.【今後の経営の見通し・経営戦略への影響が想定される関心が高い項目】
今後の日本の産業界および自社の競争力・成長に対する評価では「不安」が「自信」を上回る。そのような中で、経営戦略への影響が想定される関心が高い項目の第1位は「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」であり、「デジタル技術の活用、DXの推進」を抑えてトップとなる。

○ 日本の産業界の今後の国際競争力・持続的成長、ならびに、自社の今後の競争力・成長に対する評価を尋ねたところ、日本の産業界の今後の国際競争力・持続的成長については、「不安である」の合計(「やや」~「かなり」)が約8割に達しました。また、自社の今後の競争力・成長についても「不安である」の合計が過半数となっています。【図1-1.】

○ 業種別の回答を確認すると、大きく製造業と非製造業では、いずれも自社の今後の競争力・成長に対して「不安である」の合計が過半数近くとなり、同様の傾向であることが分かります。【図1-2.】 多くの役員・経営幹部が、今後の日本の産業界および自社の成長に対して厳しく捉えている姿をみてとることができます。

○ このように今後の先行きが不安な中で、今後の経営戦略に影響すると想定される項目についての関心度合いについても尋ねました。その結果、「大いに関心がある」との回答率の高い第1位は「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」、第2位「デジタル技術の活用、DXの推進」、第3位「テクノロジー動向の把握と対処」となりました。【図1-3.】

○ 昨年度と比較すると、「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」(昨年度第2位)と「デジタル技術の活用、DXの推進」(昨年度第1位)の順位が入れ替わる結果となりました。この1年間で内閣官房による「人的資本可視化指針」の公表(2022年8月)や有価証券報告書における人的資本、多様性に関する開示の義務化(2023年3月期より)等の人的資本をめぐる動向がありました。こうした背景もあり、役員・経営幹部にとって「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」に対する関心が高まっていると考えられます。

○ 経営環境が急速に変化するなか、企業の持続的な成長を支える中核となるのは「人」です。今後の経営戦略の成否は、「これからの経営を担う人材をいかに育成していくか?」がカギを握っているといえるでしょう。

○ 人的資本経営の言葉が独り歩きして、体裁や形だけを繕うのではなく本質的な組織開発と人材育成の実施が期待されます。

【図1-1.】 日本の産業界の今後の国際競争力・持続的成長/自社の今後の成長や競争力への自信 (n=321)


【図1-2.】 自社の今後の成長や競争力への自信(業種別)


※「やや自信」~「とても自信」を「自信」として集計。「やや不安」~「かなり不安」を「不安」として集計

【図1-3.】 今後の経営戦略に影響すると想定される項目についての関心度合い


2.【経営者となるためのトレーニング・役職就任の準備の状況】
経営者となるためのトレーニングの有無に関する質問では、これまでに「受けてきた」との回答が昨年度比で1割以上高まり、5割に達する。一方で、現在の役職への就任を打診された時点で「準備ができていた」との回答は4割にとどまる。経営者となるためのトレーニングを「受けてきた」との回答した方ほど、現在の役職への「準備ができてきた」と回答が高くなることから、今後の経営を担う人材を育成するには、いかに意味のあるトレーニング機会を整備・提供するかがポイント。

これまでに経営者となるためのトレーニングを受けたことがあるかどうかを尋ねたところ、「受けてきた」(「十分に」「ある程度」の合計)との回答が約5割となりました。役職別では、取締役、部長において「受けてきた」との回答比率が全体水準を下回っています。【図2-1.】

○ 昨年度は、「受けてきた」との回答が4割を下回っていたことから、約1割以上増える結果となりました。コロナ禍の規制が緩和され研修等を実施しやすくなったという短期的なトレンドに加えて、近年のコーポレート・ガバナンスを強化する潮流を受け、各社で経営者育成に関心が高まっていると推察されます。

○ また、上記設問で「まったく受けていない」と回答した人以外に、これまでに受けたことのあるトレーニング機会を尋ねたところ、第1位は「社外の経営幹部育成研修の受講」(57.2%)、第2位は「社内の経営幹部育成研修の受講」(55.1%)、第3位は「戦略・ビジョン策定プロジェクトへの参加」(43.9%)となりました。【図2-2.】

○ 役職別に回答結果をみると、社長では「戦略・ビジョン策定プロジェクトへの参加」がトップとなっており、「子会社出向」や「新規事業の立ち上げ」などタフアサインメントが、上記の研修受講と同水準となっています。【図2-3.】上位の役職であるほど、座学のみならず、実践の場でのトレーニングが必要だといえそうです。

○ これまでに受けてきたトレーニングの質、レベルは企業経営の視点の内容になっているのかなど、役員研修制度化の際にはいくつかのチェックポイントが必要と言えそうです。また、従業員時代と役員就任後の意識の違いで、気づきと学びが変化するので役員のリスキリングが必要になってくると考えられます。

【図2-1.】 これまでに経営者となるためのトレーニングを受けてきたか


【図2-2.】 これまでに受けたことのある経営者となるためのトレーニング機会(複数回答)


【図2-3.】 役職別のこれまでに受けたことのある経営者となるためのトレーニング機会(複数回答)





※役職別は「社長」「取締役」「執行役員」「部長」のみ抜粋

○ 現在の役職への就任を打診された時点で、その職務の遂行に必要なスキルやマインド等の準備ができていたかどうかを尋ねたところ、「準備ができていた」(「十分に」「ある程度」の合計)との回答は約4割に留まりました。一方、「準備できていなかった」(「まったく」「あまり」の合計)は3割を超えています。役職別では、取締役、執行役員において「準備ができていた」との回答比率が全体水準を下回っており、特に就任への準備が不足していることがみてとれます。【図2-4.】

【図2-4.】 現在の役職への就任を打診された時点で、必要なスキルやマインド等の準備ができていたか


○ 【図2-5.】は、経営者となるためのトレーニングの有無と現在の役職への就任の準備度合いとの関係性を整理したものです。その結果、経営者となるためのトレーニングを「受けてきた」との回答した方ほど、現在の役職への「準備ができてきた」と回答が高くなる関係性分かります

○ ここまでの結果から、経営者の育成をし、就任後の活躍を促すためには、会社が役員就任前から適切なトレーニング機会を整備・提供していくことが非常に効果的だと考えられます。また、現時点ではトレーニングの内容の多くは研修となっていますが、今後は、タフアサインメントなど実践的な経験の場を付与しながら、育成に取り組んでいくことも大切だと考えられます。

【図2-5.】 経営者となるためのトレーニングの有無と現在の役職への就任の準備度合いの関係性


3.【これからの経営者に求められる資質】
これからの経営者に求められる資質は、「本質を見抜く力」「変化への柔軟性」「イノベーションの気概」「ビジョンを掲げる力」。一方で、「本質を見抜く力」、「イノベーションの気概」、「ビジョンを掲げる力」を自身の強みとしている役員・経営幹部は約0.5割~約1.5割にとどまる。

○ これからの経営者に求められる資質として28項目を提示し、特に重要であると思われるもの、自身の強みであると思われるものにつき、それぞれ3つを選択していただきました。

○ 結果、【図3-1.】のとおり、特に重要であると思われる資質の第1位は「本質を見抜く力」(43.8%)、第2位は「変化への柔軟性」(30.6%)、第3位は「イノベーションの気概」(27.8%)となりました。これらの上位3項目は、昨年度の調査においても同様に第1位から第3位となっており、経営者として不変的に求められる資質だといえそうです。

○ 【図3-2.】では、役職別に上位5項目を整理しています。社長の回答では、「ビジョンを掲げる力」(38.1%)が第2位にランクインし、その回答率も全体の25.0%と比較して高い水準となっています。経営トップの視点からは、環境変化の激しい時代において、これからの経営者には、上記の3項目と同様に「ビジョンを掲げる力」も非常に重要な資質だと考えられているようです。

○ また、自身の強みであると思う項目では、「本質を見抜く力」、「イノベーションの気概」、「ビジョンを掲げる力」で、自身の強みであるとの回答比率が低く、重要度との乖離(ギャップ)が大きい結果となりました(それぞれ27.8%、18.2%、19.4%)。一方、「論理的思考力」「人への興味・愛情」「国際的経験」「楽観性」などの項目は、これからの経営者に求められる資質としての重要度が低いものの、自身の強みであるとの回答比率が高くなっています。【図3-3.】

○ 上記の結果から、これからの経営者として求められる資質の多くは、従来の延長線上では身につけることが難しいものであると考えられます。そのため、意図的に強みとして身につけるための機会を用意することが必要だといえます。

○ 強みとして身につけるための機会として、海外やグループ会社での経営を担うなどのタフアサインメントの経験や日常から他業界の経営者や経営幹部と交流する他流試合を行うケースがあります。

【図3-1.】 これからの経営者に求められる資質として、特に重要であると思うもの/自身の強みであると思うもの(上位10項目)(3つまで選択)


【図3-2.】 役職別のこれからの経営者に求められる資質として、特に重要であると思うもの(上位5項目)(3つまで選択)


【図3-3.】 これからの経営者に求められる資質として、特に重要であると思うもの/自身の強みであると思うもの(全項目)(3つまで選択)


4. 【役職就任前に身につけておけば良かった知識・スキル】
現在の役職に就任する前にもっと身につけておけば良かったと思う知識やスキルの第1位は「会社法・税法などに関する法律知識」、第2位は「財務・会計に関する知識」。また、これらの知識・スキルについて、「既に身につけている」との回答は約1割~約2.5割にとどまる。

○ 経営者として必要と思われる知識やスキルに関して、就任前にもっと身につけておけば良かったもの、既に身につけているものを尋ねたところ、もっと身につけておけば良かった知識やスキルの第1位は「会社法・税法などに関する法律知識」(67.3%)、第2位は「財務・会計に関する知識」(65.1%)となりました。また、既に身につけているとの回答比率は、それぞれ13.0%、26.9%でした。【図4】

○ 上記の結果から、現在の役職に就任前に準備が不十分だっただけではなく、就任後にも身につけることが難しい知識・スキルであることがうかがえます。なお、この項目は昨年度の調査においても同様に第1位、第2位となっており、経営者として必須知識だといえそうです。そのため、経営幹部候補の頃から時間をかけて計画的に習得することが望ましいと考えられます。また早急な知識装備として外部研修を活用するケースも見られます。

【図4】 経営者に必要な知識やスキルとして、もっと身につけておけば良かったもの/既に身につけているもの


5. 卓越した経営者であると思われる人物:第1位 松下幸之助氏、第2位 稲盛和夫氏、第3位 スティーブ・ジョブズ氏 、第4位 本田宗一郎氏、第5位 渋沢栄一

もっとも卓越した経営者であると思う人物1名を挙げていただいたところ、第1位に松下幸之助氏(44票)、第2位に稲盛和夫氏(43票)が挙げられました。次いで、第3位 スティーブ・ジョブズ氏(17票)、第4位 本田宗一郎氏(12票)、第5位 渋沢栄一氏(10票)となっています。【図5】

【図5】 卓越した経営者であると思われる人物(上位10人)


調査結果を受けてのコメント

一般社団法人日本能率協会 経営・人材革新センター

トップマネジメント研修事務局

今回は、日本能率協会が実施しているトップマネジメント研修プログラムの受講者を対象に実施した意識調査の結果をご紹介しました。

ご覧の通り、今後の日本の産業界および自社の競争力・成長に対して「不安」と回答している中で、「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」が経営戦略への影響が想定される関心が高い項目としてトップとなりました。実際に、経営者となるためのトレーニングを受けているとの回答も昨年度の調査より約10%増え、約5割に達しました。昨今の政府の動きも受け、各社で「これからの経営を担う人材をいかに育成していくか?」に注目が集まっていることが確認できました。

一方で、経営者育成の現状としては、現在の役職への就任を打診された時点で準備ができていたと回答していた方が4割にとどまる結果となり、まだまだ各社の経営者育成には課題があることがみえてきました。今後、経営者育成に取り組む上では、いかに意味のあるトレーニング機会の整備・提供するかが重要となります。

それでは、どのようなトレーニングが必要なのでしょうか。そのためのヒントも今回の調査から浮かび上がってきました。これからの経営者に求められる資質としては、昨年と引き続き「本質を見抜く力」「イノベーションの気概」「ビジョンを掲げる力」が重要性の回答とそれを自身の強みとする回答との乖離(ギャップ)が高い項目となりました。また、知識・スキル面では「会社法・税法などに関する法律知識」「財務・会計に関する知識」に課題感を持つ回答が多数となりました。こうした資質が磨かれる、また知識・スキルが得られるようなトレーニングが次世代の経営者を育てるためには有効な要素となってくると考えられます。

日本能率協会では、トップマネジメント研修を1982年から開催し、これまでに10,000人以上の方々にご参加をいただいております。役員・経営幹部としてのマインドや行動の変容、必須の経営知識の習得に向けて、今後もこうした事業活動を強化してまいります。

【JMAトップマネジメント研修プログラムとは】

「役員いかにあるべきか」をテーマにした、役員・経営幹部を対象とした研修プログラム。新任の役員を対象として、経営者・役員としての意識を醸成し、行動変革を促すプログラムであるJTS(JMA Top Management Seminar)と、経営者に必須の実践的知識を習得するCDP(Company Direction Program)の2つのプログラム群、合わせて12のセミナーで構成されています。

https://jma-top.com/

■JTS(JMA Top Management Seminar)

Ø 取締役の新時代視点と意思決定力強化セミナー

Ø 新任取締役セミナー

Ø 新任執行役員セミナー

Ø 経営者・関係会社トップのための新任社長セミナー

Ø 既任役員のための経営革新セミナー

Ø 新任監査役・監査(等)委員セミナー

■CDP(Company Direction Program

Ø 法務・企業統治セミナー

Ø 経営戦略セミナー

Ø 戦略財務・会計セミナー

Ø 組織・人材戦略セミナー

Ø 意思決定とリーダーシップセミナー

Ø 経営リテラシー集中セミナー

回答者の概要

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