敗色濃厚のまま「籠城」を続ける神戸山口組の井上邦雄組長
敗色濃厚のまま「籠城」を続ける神戸山口組の井上邦雄組長

小康状態に入っていた山口組分裂抗争が再燃している。発端となった事件の現場は、抗争の最前線である関西から飛んで埼玉。攻撃側の組織が、これまで抗争の前面に立っていなかった組織だったことに、業界関係者は関心を寄せている。

■再び起きた「車両特攻」

昨年12月6日夜、埼玉県八潮市の住宅の門扉に乗用車が突入して、損壊させた。現場は、神戸山口組幹部(75)の自宅だったことから、分裂抗争の一貫とみられている。全国紙社会部デスクが解説する。

「発生当時、被害者の幹部は在宅中だったそうですが、けがはありませんでした。事件から2日後の8日に、実行犯である六代目側の落合金町連合の組員(51)が埼玉県警に出頭して器物損壊の疑いで逮捕されました。『車で突っ込んだことには間違いありません』と容疑を認めており、背景に分裂抗争があるとみられます。

出頭の際には、落合金町連合の幹部2人も付き添っていて、県警は2人についていったんは身柄を取っていませんが、犯行や逃走の支援に関わった可能性を含めて捜査しています」(社会部デスク

今回の事件を起こした落合金町連合について、暴力団担当の刑事が語る。

「東京に本部を置き、国粋会からのれん分けして山口組の直参に上がった。総長は、六代目側のナンバー2の高山清司若頭の信任が篤いと聞く。これまでの抗争ではあまり名前が出てこなかった組織だったので、業界内では『遂に抗争に本腰を入れたか』と話題になった。

六代目側勝利の算段が既についているし、手柄をあげようと車を突っ込ませたんだろう。20年前は、相手の命を奪わないと評価されなかったが、刑法の厳罰化でタマを取るのは至難の業。車両特攻でも、『よくやった』と言ってもらえるご時世だからな」(暴力団担当刑事)

2016年3月、神戸山口組系の暴力団事務所に突っ込んだトラック
2016年3月、神戸山口組系の暴力団事務所に突っ込んだトラック

ちなみに昨年7月にも、神戸市西区にある神戸側の直系団体である二代目西脇組の本部事務所に、トラックが突っ込む事件が起きている。運転者は逃走したが、兵庫県警は、六代目側による抗争事件とみて調べている。

こうした動きを後押しするのが、執行部からの強いプレッシャーだ。

「高山若頭が今秋、直参組長に次々と檄を飛ばしまくっている。『神戸側の井上邦雄組長が身を引くまで、直参の引退は認めん。引退するぐらいなら代を譲って総裁になり、会費は払え』と命じたとか、『神戸側の組織の末端まで切り崩せ』と通達を出したという話が出ている。

分裂から8年が経過して、相手組織の崩壊まで足踏みが続いている現状にイライラしているとしてもおかしくない。高山若頭のプレッシャーに加えて、勝ち馬に乗りたいという動機から、いままで抗争に出てこず静観していた組織が神戸や絆會、岡山の池田組あたりを的にかけて攻勢を強めるのではないか」(暴力団事情に詳しいA氏)

■過去にも銃撃、つるはし...

ちなみに、今回の事件現場となった幹部宅は、2016年2月に六代目側の弘道会系組織に銃弾を撃ち込まれ、今年7月には外壁につるはしを突き刺されるなど度重なる被害に見舞われている。

「この幹部は、かつての神戸側の山健組に在籍し、東京・渋谷を根城に住吉会が強い新宿でも顔を利かせた人物で、分裂当時は"山健組三羽烏"などと持てはやされ、和解工作に向けての神戸側の使者を務めたほどでもあります。

しかし、自らの主だった子分は弘道会系に移籍し、その後の山健組の六代目への合流に際して、井上組長について残留を選んだために絶縁処分を受けています。孤立無援状態に陥る中、井上組長の側近での忠誠心が強く、ネームバリューもあるので、格好の標的になってしまっています。

しかも、今回の事件で出頭した実行犯グループの中には、かつて山健組に在籍していた幹部もいると聞きます。いったん苦境に立たされれば、かつての仲間にすらも食われてしまうというヤクザのシビアな現実がうかがえます」(前出デスク

最早、"落ち武者狩り"の様相を呈してきた分裂抗争。警察の取り締まりを危惧してこれまで眠ってきた組織までもが、余勢を駆って雪崩れ込む段階に入ったことで、裏社会では年明けから不穏な空気が漂っている。

文/大木健一 写真/時事通信社

敗色濃厚のまま「籠城」を続ける神戸山口組の井上邦雄組長