お披露目された野岩鉄道6050型改修車両

野岩鉄道は11日、関係者や報道陣向けに「6050型改修車両」のお披露目会と試乗会を行いました。

野岩鉄道栃木県の新藤原駅と福島県の会津高原尾瀬口駅を結ぶ「会津鬼怒川線」(30.7km)を運営する第三セクターです。南は東武鬼怒川線、北は会津鉄道会津線と接続し、三社の車両が走ります。

6050型は東武鉄道6000系をベースに開発された車両で、野岩鉄道の顔として開業時から活躍してきました。かつては東武鉄道会津鉄道も同型の車両を所有していましたが、両社ではすでに運用から外れており、2024年1月時点で野岩鉄道の2編成(2両×2編成)のみ運行を続けているという状況です。

車両の老朽化は避けられず、部品の調達なども困難になりましたが、「鉄道ファンに根強い人気のある6050型を生き残らせたい」という思いから野岩鉄道は車両改修に挑戦。2022年8月から10月にかけクラウドファンディングで支援を募ったところ、鉄道ファンや地元の利用者など1107人が賛同し、支援総額は目標金額を上回る2183万9,000円に達しました。

クラウドファンディングサイト「Ready for」で費用調達。画像はクラウドファンディング初日のページをキャプチャしたもの。すでに43万円以上も支援が集まっていました

クラウドファンディングに成功した野岩鉄道は「乗って楽しい列車」をコンセプトに6050型1編成(2両)を改修。外観はそのままに、1両(62103号車)は従来の6050型ボックス席をほぼそのまま残し、もう1両(61103号車)は畳座席や掘りごたつ席、運転台席を設けるなど大胆な改造を施しました。後者を同社のマスコットキャラクターにちなんで「やがぴぃカー」と名付け、運行時は「やがぴぃ〇号」の愛称を設定して運行します。

車内には「やがぴぃカー」のステッカーが掲出されています

車内を見ていきましょう。

ほぼ「原型」の62103号車

6050型は2両1編成で運用。62103号車の方はほぼ元のままですが、一部に手が加えられています

62103号車は従来の6050型の車内をほぼそのまま残しています。

細かな変更点として、自転車も持ち込める多目的スペースを新たに設け、トイレの洋式化を行いました。そのため座席定員は改修前から2名減って66名に。こちらの車両は乗車券のみで乗ることができます。

自転車を持ち込むこともできる多目的スペースを設置
洋式化されたトイレの様子

大胆に改造した61103号車「やがぴぃカー」

畳席や掘りごたつ席、運転台席などで様変わりした「やがぴぃカー」

一方の61103号車は観光列車用に大きな変更が加えられました。新たに畳席や掘りごたつ席、そして実物の運転台を使った運転台席を備えています。

◆畳席

畳席

野岩鉄道沿線には多数の温泉やハイキングコースがありますので、運動で疲れた足を休めたりお風呂上りにくつろげるよう、難燃性の畳を使用した畳席を設けています。利用の際は乗車券のほか、別途利用料金(大人500円、小人250円)が必要です。

畳席利用料金例(大人):乗車券+座席整理券(500円)

◆掘りごたつ席

掘りごたつ席 手すりに取り付けられているのはドリンクホルダー

席の一部を掘りごたつのように掘り下げ、畳席にいながら腰掛けられる構造に。テーブルは鏡面仕上げとなっており、車窓の景色が映り込む仕掛けです。手すりにはドリンクホルダーも取り付けられているので、会津や日光のお酒を小さな瓶で楽しんだりすると良さそうですね。

実際の利用イメージ。角度にもよりますが、鏡面仕上げのテーブルに車窓の景色が映ります

利用には乗車券類、座席整理券のほか別途利用料金(大人500円/小人250円)が必要です。

掘りごたつ席利用料金例(大人):乗車券+座席整理券(500円)+堀りごたつ席利用料金(500円)

◆運転台席

廃車済みの6050型から実物の運転台を移設した模擬運転台

かつて野岩鉄道に在籍していたもう1編成の6050型(61101号車と62101号車)から実物の運転台を移設し、車内に2か所運転台席を設けました。椅子には6050型のボックスシートに運転席と同色のモケットを貼り、画面には実際に撮影した前面展望映像が流れます(運転台の機器操作とモニターに映し出される映像が連動するわけではありません)。

「電車の運転士さんになってみたい」というお子さまや6050型の運転台を操作してみたい鉄道ファンに人気が出そうな座席です。利用区間は新藤原~湯西川温泉、湯西川温泉~上三依塩原温泉口、上三依塩原温泉口~会津尾瀬高原口の3つに分かれており、いずれかの区間で運転台を楽しめます。利用には乗車券類、座席整理券のほか、各区間ごとの利用料金(大人500円/小人250円)が必要です。

運転台席利用料金例(大人):乗車券+座席整理券(500円)+運転台席1区間分の利用料金(500円)

※運転台席は当面の間、予約者1名につき片道毎に1区間のみの予約受付となります。

【車両諸元・主要寸法】

◆全長:20m
◆全幅:2.878m
◆全高:4.2m(パンタグラフ折り畳み時)
◆車重
61103号車 改修前:40.2t/改修後:40.0t
62103号車 改修前:34.0t/改修後:33.9t
◆主電動機:形式TM63 定格出力130kw 個数4個
◆座席定員
61103号車 改修前:72名/改修後:32名
62103号車 改修前:68名/改修後:66名

「やがぴぃカー」シートマップ・運転時刻(画像:野岩鉄道

営業運転は1月26日から

中三依温泉駅に停車する6050型改修車両

6050型改修車両「やがぴぃカー」は2024年1月26日(金)から週末を中心に運行します。当面は土曜日にクラウドファンディング出資者向けの試乗会などを行うため、一般向けの運行は日曜日が中心となるようです。また2月には検査が予定されているため、乗りやすくなるのは3月頃でしょうか。

乗車にはメールによる事前予約が必要で、野岩鉄道ホームページで予約専用のメールアドレスを案内しています。乗車日1ヶ月前の午前10時から乗車日直前の平日正午まで先着順で受け付けます。

会津鉄道への乗り入れやイベント列車も検討

かつては浅草から会津田島まで運行していた6050型。「やがぴぃカー」も会津田島への乗り入れを検討しており、現在は認可の手続きを進めています。

また野岩鉄道は2023年11月に酒類の販売免許を取得しており、12月から新藤原駅で日光市や南会津町のお酒を販売しています。「やがぴぃカー」でも、酒付きのイベント列車などを検討しているそう。

記者の私見ですが、会津鬼怒川線内だけでは乗車時間も30分~40分ほどとやや物足りないものがありますから、他社線にも乗り入れて長時間楽しめるようなイベントがあると面白そうです。

トンネル区間も多い野岩鉄道ですが、闇を抜けた瞬間に広がる眺望はまさに絶景の一言です

野岩鉄道の二瓶社長も、お披露目式の挨拶で「弊社の経営改善計画には観光を主軸とした営業戦略を取り組むべき一番手に掲げているところであり、そのための武器を得ました。観光客の滞在時間を伸ばすことにつながる、当社線の沿線に誘える電車。あるいは乗ること自体が目的となるような乗って楽しい電車を目指してまいります」としており、今後はイベントやツアーなど、「やがぴぃカー」を活用した企画がたくさん出て来ることでしょう。

試乗会中に行われた「やがぴぃカー」車内幕回し。鉄道ファンの心をくすぐる要素もしっかり残しています

クラファンによって生まれ変わり、多くのファンや沿線民の期待を背負う「やがぴぃカー」。乗降客数の回復や沿線観光の起爆剤となり得るか、注目が集まるところです。

記事:一橋正浩