神秘的な催眠術にもやはり脳の働きが関係している。それを裏付けるように、脳を磁気で刺激すると、催眠術の効きやすさがアップすることが判明したそうだ。
スタンフォード大学の研究チームが、脳を傷つけることなく外から手を加える「経頭蓋磁気脳刺激法」で脳を刺激してみたところ、一時的に催眠術の効果が上がったのだ。
『Nature Mental Health』(2024年1月4日付)で発表されたこの研究は、慢性的な痛みがある「線維筋痛症」など、つらい痛みを和らげる新たな方法として、催眠術の大きな可能性を示している。
メディアなどがおかしく取り上げることで、怪しげなイメージがある催眠術だが、実際に医療現場で使用されており、それによる一定の効果は確認されている。
催眠療法は程度の差こそあれ、大人のおよそ3分の2に効果があるといわれている。とりわけ効果的な15%の人には、麻酔なしで手術を行うといった信じられないことすら可能なケースがあるという。
このように大きな可能性を感じさせる催眠術だが、問題はその効果の個人差が大きく、誰にでも効果があるわけではないいことだ。催眠術が効く人と効かない人がいるのだ。
だからこそ、研究者たちは、そうした個人差をどうにか埋める方法はないものかと探ってきた。
向精神薬や行動訓練などによるこれまでの試みは、まったく意味がないわけではないにしても、その効果は限られたものでしかなかった。
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脳を外から時期刺激で催眠効果がアップ
そこで今回、スタンフォード大学のポスドク研究員アフィク・フェールマン氏らは、それとはまた別のアプローチを試している。
脳を刺激して催眠のかかりやすさを上げられないか実験してみたのだ。
そうした刺激によって、催眠効果に関係する領域をよく効く人と同じように振る舞わせることができれば、催眠術の効果もアップするかもしれない。
今回の研究に参加したのは、「線維筋痛症」の患者80人だ。
この症状は、体の広い範囲に慢性的な痛みを生じさせる。原因ははっきりしておらず、痛み止めもあまり効かないことが多い。もしも催眠術で痛みを和らげられれば、その患者は大きな恩恵を受けられることだろう。
実験ではまず、催眠術の効果を測る一般的な方法(Hypnotic Induction Profileなど)で、参加者の催眠術のかかりやすさを調べ、それから脳の刺激が行われた。
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脳の刺激は、手術をしなくても行える「経頭蓋磁気脳刺激法」で行われた。とりわけ催眠術の効果に関係するとされる「左背外側前頭前野」という部位を、1分半ほど磁気で刺激する。
その結果を、実際に脳を刺激されたグループと刺激すると見せかけただけのグループで比べてみたところ、前者は催眠の有効性がはっきりとアップしていることがわかったのだ。
ただし、それは一時的なもので、1時間もすると改善効果はほとんど消えてしまっていたという。
興味深いのは、磁気刺激で催眠が効きやすくなった人であっても、催眠が深くなったとは特に感じていなかったことだ。
このことから、磁気刺激の効果は、「自分の脳は刺激を受けたはず」という参加者の推測とは関係がないと言うことができる。
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効果は一時的なものなので適切なタイミングで行うことが大事
今回の研究では、磁気による脳の刺激が催眠術の効きやすさをアップさせることが確認された。
ただし、その効果は一時的なものなので、医療の現場でこれを利用するなら、タイミングよく行うことが大切ということになる。
また、この研究が調べたのは、主に催眠術の効果を高めるメカニズムだった。そのため、脳の刺激によって線維筋痛症の症状をどのように改善できるかまではわかっていない。
今後の課題は、この技術の長期的な効果や医療への応用可能性を調べることのほか、線維筋痛症以外の痛みにも効くのかどうかを探っていくことであるそうだ。
References:Stanford Hypnosis Integrated with Functional Connectivity-targeted Transcranial Stimulation (SHIFT): a preregistered randomized controlled trial | Nature Mental Health / Stanford scientists boost hypnotizability with transcranial magnetic brain stimulation / written by hiroching / edited by / parumo
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