伊能忠敬の「忠敬」が、ローマ字で「CHUKEI」。このような綴りで書かれている道路標識が存在します。それには理由がありました。

標識自体も古めかしい

千葉県香取市は、江戸時代に正確な日本地図『大日本沿海輿地全図』を作成した伊能忠敬ゆかりの地です。市内には記念館があるほか、JR佐原駅の南にある佐原公園内には、伊能忠敬の銅像も建てられています。

その銅像への道順を示す駅前の案内標識がちょっと不思議です。表記が「0.3km 忠敬銅像 ↑(CHUKEI BRONZE STATUE)」となっているのです。誤記ともとれるためか、SNSでは、これを見た人から「ローマ字が気になる!『ちゅうけい』さんとお読みするのが正しい??」などと不思議に思う声も寄せられています。

伊能忠敬は本来、「ただたか」と読むはず。なぜローマ字表記が「ちゅうけい」なのか、理由を香取市の都市整備課へ尋ねると、以下の通り回答がありました。

「これはミスではありません。地元では尊敬の念を込めて『ちゅうけい』と呼んでおり、愛称としても定着しています。そのため、あえて『ちゅうけい』と表記しています。付近には小野川に架かる忠敬橋がありますが、こちらも『ちゅうけいばし』といいます」

ちなみに標識本体も、現在のような青地に白文字の案内標識ではなく、昭和20~30年代に使われた、「白地に青文字・赤矢印」の古いデザインとなっています。駅前では最近、区画整理が行われ、標識もその際に設置されたそうですが、旧デザインを踏襲した理由も尋ねました。

「標識には小野川への案内も表記していますが、一帯では歴史的な街並みを保全しています。そのため標識も周囲の景観に合わせるべく、昔のデザインとしています」(香取市都市整備課)

偉人などの名前をあえて音読みするケースは昔からありますが、その読み方が道路標識にまで適用されるケースは珍しいでしょう。それも含めて、歴史を大切にする演出のひとつなのかもしれません。

JR佐原駅の南にある案内標識(写真提供:味噌バターポテト@imonihamisoha)。