断捨離®とは手に入りそうなものを「断ち」、いらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」こと。人は断捨離により心を解き放たれ、ごきげんな人生を送ることができるという。この理念の対極に存在するのがオタクだ。ものへのこだわりが人一倍強い彼らは「好きなものに囲まれた人生は最高」であることを実感している。だが実際に取材を行ったところ「本当はキレイな部屋で暮らしたい」「憧れのインテリアにして人を呼びたい」といった一般人としての願望に葛藤するオタクが多く見られた。『オタクの断捨離』では、断捨離の提唱者であるやましたひでこ氏と漫画家のカレー沢薫氏が、愛すべきオタクたちにとって快適な"断捨離の考え方"を模索していく。

断捨離やましたひでこ個人の登録商標です。

いま、編集部注目の作家

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
バイク「KTM 390 DUKE」を駆る人気声優、夜道雪さん。彼女のお部屋を本邦初公開!

第3回「24歳、バイク6台を“育てる”オタク【夜道雪】」

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離

夜道 雪(よみち・ゆき)さんは、北海道出身の声優・モデル・コスプレイヤー。テレビアニメでは「スーパーカブ」(小熊役)、「女神寮の寮母くん。」(八月朔日せれね役)などに出演。9月に発売された『夜道 雪 2nd写真集 こいしき』(KADOKAWA)の評判は高く、Amazonでは発売から数時間で品切れになるほどの人気だ。

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
俺の嫁系YouTuber」とも呼ばれ活躍中の夜道さんも、断捨離に悩む。

KTM 390 DUKE
KTM RC8
HONDA TL125
HONDA スーパーカブ
YAMAHA セロー
MVアグスタ ドラッグスター800RR

これはすべて声優の夜道雪さんが所有するバイクの名称だ。いちばん大事にしているのは、最初に購入したKTM 390 DUKE。地元の北海道でアイドル活動をしている頃、アルバイト代を貯めて初めて購入した1台だ。販売が終了しプレミアがついていたが、探しに探して「大好きな人に譲りたい」という持ち主に出会い譲り受けることができた。大切な思い出が詰まったこのバイクだけは、たとえ壊れてしまっても手放したくない。

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
育成中のバイクの1台「KTM RC8」と夜道さん。バイクの大きさにも注目。

夜道さん「バイクは自由奔放で、乗っている人のことは何も考えてくれない。何度も泣かされているし、わがままな彼女って感じ。乗り方を模索しているうちに、メーカーや乗り心地の異なるバイクが欲しくなり、気づいたら台数が増えていました。いまは6台に落ち着いています」

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最初に手に入れたARAIのヘルメットも、手放せないものの1つ。「こっちでダメなら東京でもダメ」と言われ、悔しい思いをしていた北海道でのアイドル時代。それでも東京で自分を試してみたくて、一緒に上京したのがKTM 390 DUKEと、このヘルメットだった。ずいぶん劣化して、もう何年も被っていないが、なんとなく見える場所に置いてある。

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思い出のつまった「ARAI」のヘルメット。少し不安定な場所に置かれているような…?

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現在は都内にある3LDKのマンションで1人暮らしをしている夜道さん。マンションは家賃6万円台という破格の事故物件を選び、浮いた分をバイクの管理費に回している。3部屋のうち1部屋はバイクグッズ用にしているが、バイク歴も6年目を迎えて物が溢れてきたそうだ。

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YAMAHA セロー」と微笑む夜道さん。断捨離とは無縁の広々した草原の光景。

それぞれのバイクの色やデザインに合わせて買ったウェアやグローブもあるし、見た目と乗り心地にこだわってカスタムをするので、マフラーなどの大きなパーツもゴロゴロ。気に入ったバイクは自分の子どものように大切に育てていきたいのだ。KTM 390 DUKEのカムシャフト(バイクの部品の1つ)も、いまはもう削れてしまったので新しいものに交換してあるが、子どもの頃に抜けた乳歯のように記念品として取ってある。

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
愛おしいKTMのカムシャフト。新品に交換したあとも捨てられない。

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KTMのテーマカラー、オレンジのグッズ。バイクと色がセットなので捨てづらい。

しかし、そんな母親のような気持ちとは裏腹に、バイクグッズはどうしても汚れてしまう。専用の棚も作らないまま、バイク部屋の床にポンポンと置いてしまっているそうだ。ヘルメットは沢山あって場所を取るし、整理整頓は得意ではない。 いずれは壁に工具やパーツを飾ったようなガレージハウスに住むのが夢だけど、たとえ叶うとしてもずいぶん先の話。北海道から1人で上京し、東京で戦う自分と一緒に過ごしてきた、思い出深いバイクグッズたち。なんとか美しく収納できればいいのだけれど…。

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東京で戦う自分と共に過ごしてきた、大切なグッズのはずだが…。

<オタクとは矛盾に満ちたものなのかしら by やましたひでこ> 「6台のバイクを、子どもを育てるようにして大切に所有している」とは言うものの。

そう、「大切」という言葉がいくつか登場するけれど。

その実態はといえば。

「汚れているからあまり整理したくない」 「床にグッズを転がしている」 「ぐちゃぐちゃ」 「バンバン部屋に投げこんでしまう」etc.

これは、どう見ても「大切」とは真逆の状態であり行為。

6人の「バイクという子どもたち」にしていることは、育児放棄どころか、ネグレクトという虐待と判断されても仕方ないでしょう。

オタクという種族さんは、こんなにも矛盾に満ちたものなのかしら。 もしかしたら、「大切に所有している」というのは勝手な自分の思い込みだけなのかも。

だとしたら、何十年後に「ロマンが詰まったかっこいいガレージハウス」で取材陣を前に「ドヤ顔で写真におさまる」というその夢は、子どもたちからの激しい反発・反抗の挙げ句についえる可能性の方が高いかもしれませんね。

アニメの収録にイベント、SNSの更新…人気声優の毎日は分刻みのスケジュールで埋まっている。夜道さんも例にもれず、忙しい毎日の中で、片付けが苦手な上にその時間がないのかもしれない。しかし、断捨離の祖であるやましたひでこ氏の前では、どんな言い訳も通用しないようだ。

将来の夢を叶える前に「子どもたちからの反抗期があるかも」と言われてしまった夜道さん。6台のバイクを乗り回す漢気あふれる彼女が、どんな反旗を翻すのか? これからのアクションが楽しみである。

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
「理論の限界を超えた者」の称号を持つこのバイクと同じく、彼女にも断捨離の理論を超える日が必ず来る。

夜道雪 写真集情報★
夜道雪 2nd写真集 こいしき』(KADOKAWA)は、ひと夏の旅をテーマに全編、鹿児島県にて撮影を敢行した2nd写真集。水着やランジェリー、バイクに乗っている姿など彼女を知るには十分すぎるほどのカット数が掲載されており、本人曰く「自分史上、最高傑作」。

24歳、バイク6台を“育てる”オタク【夜道雪】の断捨離/やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離③