バスルームに足を鎖でつながれた二人の男と、一人の遺体…。そこから始まる生死を賭けた残虐なゲームを斬新なストーリーで描いた映画『ソウ』(2004)は、製作費約120万ドルという低予算ながらも1億ドル超えの世界興行収入を叩き出し、異例の大ヒットとなった。あれから今年で20年。リー・ワネルとともに物語を生み出した、当時新進気鋭だったオーストラリア出身のジェームズ・ワンは、現在公開中の『アクアマン/失われた王国』でメガホンを取った。『ソウ』以降のワンは、『死霊館』シリーズや『マリグナント 狂暴な悪夢』などホラー映画のみならず、『ワイルド・スピード SKY MISSION』や『アクアマン』などアクション映画でも活躍。今回クランクイン!はワンにインタビューを行い、さまざまなジャンルを横断してきたワン作品に共通する“人と人とのつながり”や“家族”を描く理由などを聞いた。

【写真】ワン監督が若い! 約20年前の『ソウ』メイキングの様子

■『ソウ』から学んだことを今でも大切に

――『ソウ』から今年で20年が経ちます。前作の『アクアマン』からは『ソウ』『死霊館』『ワイルド・スピード』など過去作の要素を随所に感じたのですが、映画づくりにおいて『ソウ』からずっと大切にしていることはありますか?

ワン:自分の目指すべき方向を常に示す北極星は、やはり観客が共感や「わかりみ」を持てるキャラクターを作ることだと思っており、それが重要だと考えています。ホラーでもSFでもファンタジーでも、ジャンルが何であれ、観客が共感できるような、とてもリアルな感情を持ったキャラクターたちがいれば、どんな設定であっても観客は一緒に旅に出てくれます。宇宙にだって、アトランティスの海底にだって連れて行くことができるし、悪魔も憑依させることができるんです(笑)。 観客にとってリアルに感じられる人間を創り出すことができれば、ある意味なんだってできるんですよね。

――『アクアマン』『死霊館』『ワイルド・スピード』は、いずれも誰かと共に行動し、困難を乗り越えていく作品でしたが、ワン監督が人と人とのつながりを描き続ける理由はなんでしょうか?

ワン:それは僕たちがキャラクターの人間的な要素に最も共感するからです。『ワイルド・スピード SKY MISSION』での、ビルからビルへ飛ぶ車自体には共感はできないと思います(笑)。でも車の中で「車は飛ぶもんじゃないって!!」「やめろ!やめろ!」と叫んでいるキャラクターには感情を添わせることができます。僕はこれがとても重要なことだと思うんです。共感ポイントを見つけることができれば、観客をものすごくクレイジーな冒険に連れて行くこともできます。観客を共感させ、「自分がその状況に置かれたら同じことをするだろうな」と思わせる“何か”がストーリーを作る上でとても重要なんです。実はこれは初めて監督した『ソウ』から学んだことでした。あの時、たくさんの人が「もし自分が連続殺人犯が仕掛けたゲームの一部となった“あの部屋”で目覚めたらどうするか」を話してくれて、僕にとって大きな学びになりました。観客をキャラクターの気持ちにさせることがいかに重要か実感しましたね。

――今回の『アクアマン/失われた王国』でも、アクアマンアーサージェイソン・モモア)に息子が生まれたり、アーサーと弟のオーム(パトリックウィルソン)、母のアトランナ(ニコールキッドマン)がハグするシーンが描かれたりしたように、ワン監督の作品の多くには“家族”が登場します。そのこだわりを教えてください。

ワン:そうなんです。ホラー映画でデビューした頃までたどっても、よく家族を描いてきました。自分がこれまで手掛けてきた“家に幽霊が出るホラー作品”だと、当然霊に悩まされるのはそこに住む家族ということになることが多いですよね(笑)。そしてやはり家族の絆って、誰もが共感できるものだと思うんです。どんな文化や背景を持っているかなんて関係なく、みんな何らかの「家族」や、何らかの家族的背景を持っている。愛にあふれた家族もいれば、何かが壊れている家族もいる。何にせよ、家族の絆は誰もが共感できることだと思っています。

――今回新たなヴィランではなく、前作にも登場したオーム、ブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)を再登場させたのは、アクアマンとのつながりをさらに濃く描くためではないかと推測します。やはり同じような「家族」的な理由もあって再登場を決めたのでしょうか?

ワン:まさにそうですね。またブラックマンタは、ただ世界を支配したいだけの、ヴィランが必要だから存在するヴィランではありません。彼はアーサーへの憎しみに駆られている。アーサーが自分の父親を救ってくれなかったから。だから、また「家族」というテーマを描いているんですよね。いい奴も悪い奴もみんな家族への愛に突き動かされています。ブラックマンタも父親をとても愛していたからこそ、父親の死の責任はアーサーにあると感じている。そしてアーサーに対する復讐として、アーサーとその家族を、自分がそうされたように滅ぼそうとする。彼はそう感じていますからね。そうやってまた、物語は家族の関係性(というテーマ)に立ち戻っています。

――本作からは、前作の要素を引き継ぎながら、アーサーとオームのバディ感など新たな要素が見てとれます。

ワン:二人は互いが大嫌いで1作目では宿敵だったのですが、今回は世界を救うために、一旦相容れないところは横に置いて、一緒に世界を救おうとします。この映画の楽しさはそんな二人から来ていると思っています。ジェイソンパトリックのバディぶりを見ているのが本当に楽しくて(笑)。アーサーは弟をからかうのが好きだから、そういう場面がたくさんあります。男兄弟の場合、兄が弟に茶々を入れるのは定番ですよね(笑)。

――たしかに(笑)。それでは撮影面のテクニックも聞かせてください。今回チェックすべきポイントはどんなところでしょうか?

■役者の負担を軽減 前作から進化した撮影方法

ワン:映画全体を通していっぱいありますが、やはりアクションやチェイス・シーンですね。今回はワイヤーに吊られ、セットを縦横無尽するスパイダーカムを使って上から撮影したりしています。

――海中シーンやスペクタクルなど、前作とは違う撮影方法を取り入れたシーンはありますか?

ワン:1作目では、水中で泳いでいるような感覚を作り出すために、役者をリグで吊るす形で撮影していたんですが、そのリグが役者にとって、とても痛くて不快なものだったんです。だから2作目ではVFXチームに役者に負担がない別の新しいやり方がないか相談したところ、彼らが考え出してくれたメソッドアイラインと呼ばれるものでした。アイラインでは、役者をブースに入れ、100台を超えるカメラで撮影します。あらゆる角度からシーンやセリフを演じている姿を捉え、撮影された役者の映像をその役者自身の3D上にマッピングすることでアニメーションする(動かす)ことができるので、それで泳ぐ動きを表現するわけです。わかりにくいですよね(笑)。でも、実写の撮影とバーチャル撮影を組み合わせることで、水中を泳いでいるキャラクターをどんなアングルからも撮影することが可能になるのが監督としてうれしいところなんです。

――ワン監督の作品では毎回カメラワークのアイデアに驚きます。前作から進化した撮影技術などあれば教えてください。

ワン:カメラを動かすのが好きなんです。映画は「motion pictures」とも呼ばれますからね。だから、いつカメラを動かし、いつ動かさないのか、それを知っていることは大切なスキルであり、自分が敬愛するフィルムメーカーたちの多くも、カメラをちょっと動かす以外は何もしていないのに、多くを語ることができる方ばかりです。特に『アクアマン』のような映画を作るにあたってダイナミックなカメラワークというのは、間違いなく非常に重要なツールだと感じています。何度も見たことがあるものでも、何か新しい撮影方法がないか、模索しながらこの映画を作りました。

――ありがとうございます。それでは最後に2本の『アクアマン』を撮り終えて感じる、シリーズの魅力を改めて教えてください。

ワン: 僕自身としては『アクアマン』というキャラクターを、原作とは違った形で新たに描くことができるところかな。何年後かに振り返った時に、僕の『アクアマン』2作を未来の『アクアマン』映画のテンプレートとして使ってもらうこともできる。それは光栄なことだと思っています。

(取材・文:阿部桜子)

 映画『アクアマン/失われた王国』は全国公開中。

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