本連載では、受験世界史研究家・稲田義智氏の著書『絶対に解けない受験世界史3』(2021年刊行、パブリブ)より一部を抜粋し、大学入試で実際に出題された世界史の「難問」を紹介していきます。本書における難問とは、「一応歴史の問題ではあるが、受験世界史の範囲を大きく逸脱し、一般の受験生には根拠ある解答がおおよそ不可能な問題」。受験生から一般の歴史好き、腕に覚えのある方に至るまで、ぜひチャレンジしてみてください。

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ヒンドゥー教の神・シヴァの、「舞踏の神」としての異名は?

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【2019年度 明治大 情報コミュニケーション学部より】

問題2 問2 下線部(1)「シヴァ神」はヒンドゥー教徒における破壊の神であるが,舞踏の神としても知られている。舞踏の神を表す神の名称を解答欄に記入しなさい。

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【解答解説】まさかこれを出題したのか!? 教科書制作者もびっくりの問題

私が全く知らなかった語句その1。この企画(『絶対に解けない受験世界史』シリーズ)を長年やっているので、さすがに全く知らない語句は本当に極わずかになってきたから、新鮮であった。

正解はナタラージャ。踊るシヴァ神の異名である。こんなの絶対範囲外だろうと思う一方で、何の脈絡も無く出題はしないだろうと一応さらってみると、灯台もと暗し、山川の『詳説世界史』(2019年版ならp.59)および実教出版の教科書(2019年版ならp.61)の「踊るシヴァ神像」のキャプションに書いてあった。

言うまでもなく、どちらの教科書も出題されることや、受験生に覚えてほしい事項として想定して掲載したわけではないだろう。このように教科書記載の余分な情報から出題されると、教科書制作者が余分な情報を載せられなくなって萎縮するから、本当にやめてほしい。教科書に載っているなら何でも出していいわけではなく、受験生が覚えるべき情報なのか「あそび」なのかの区別くらいはつくはずで、つかない人が入試問題を作ってはいけない。

『ラーマーヤナ』の主人公・王子ラーマ。その「妻の名前」は?

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【2019年度 明治大 情報コミュニケーション学部より】

問題2 問6 下線部(5)『ラーマーヤナ』は王子ラーマとその妻の物語であり,現在でもインドから東南アジアの影絵や舞踏のテーマとなっている。その妻の名前を解答欄に記入しなさい。

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【解答解説】某有名ソシャゲのプレイヤーならピンポイントで解けるかもしれないが

私が全く知らなかった語句その2。どうしてこんなひどい出題ができるのだろうか。これも山川の『詳説世界史』の脚注(2019年版なら同じくp.59)に載っているので、無理矢理範囲内と主張できなくもないが、少なくとも私は絶対に認めない。

正解はシーター。それでピンときた人もいるかもしれないが、『天空の城ラピュタ』のヒロインのシータの語源という説があり、同作はインド神話から「インドラの矢」という言葉も拾っているから信憑性があるが、明言はされていない。というよりも宮崎駿本人は「三角関数の角度を示す記号のθからとった」と言っているようだ。

なお、『Fate/Grand Order(以下、FGO)』プレイヤーの校正者から「すごく余談だが、シーターはFGOではラーマと夫婦一対のデザインでかなり印象的にメインシナリオに登場しているので(実装が期待されるくらいには人気)*、FGOプレイヤーの受験生ならピンポイントで解けたかもしれない。前問のナタラージャと大して理不尽さは変わらないのに、こちらは不自然に正答率が偏っている可能性が…。いずれにせよ、こんな範囲外用語ガチャの悪問を解かされる受験生気の毒でならない。」というコメントをもらった。受験期に『FGO』をやっていたら落ちると思う。

(*編註:FGOは2015年にリリースされたスマートフォン向けRPG。この“アプリ版FGO”を原作として2018年に稼働開始したアーケード版FGOFGO Arcade〕には、2020年10月にシーターが実装されたが、アプリ版は2024年1月現在も未実装である)

稲田 義智

受験世界史研究家

受験世界史研究家。東京大学文学部歴史文化学科卒。世界史への入り口はコーエーの『ヨーロッパ戦線』と『チンギスハーン蒼き狼と白き牝鹿IV』だったが、実は『ファイナルファンタジータクティクス』と『サガフロンティア2』の影響も大きい気がする。一番時間を費やしたゲームは『Victoria(Revolution)』。ゲームしかしていなかった人生だったが、奇縁にて『絶対に解けない受験世界史シリーズ』(パブリブ刊)を出すことになった。楽しい執筆作業だったが、ちょっと当分入試問題は見たくない。

(※写真はイメージです/PIXTA)