世界的音楽家坂本龍一を追悼する展覧会「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」。東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で開幕した。

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文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

坂本龍一のアート領域の活動を知る

 2023年3月28日、惜しまれつつこの世を去った音楽家坂本龍一。世界中で愛される“教授”の代表作として、何を思い浮かべるだろうか? YMO時代の「Tong Poo」「ライディーン」、映画「戦場のメリークリスマス」のテーマ曲、リゲインのCM曲「エナジー・フロー」。アカデミー賞作曲賞を受賞した「ラストエンペラー」やマイケル・ジャクソンのボーカル入りバージョンも有名な「Behind the Mask」を推す声もあるかもしれない。

 音楽史に残る名曲を数多く生み出した坂本龍一だが、世界的に支持される理由はそれだけではない。90年代以降、坂本龍一はインターネットへの関心を深め、自身の作品へメディア・テクノロジーを積極的に導入。1995年に日本初となるライブのインターネット配信を行ったのも坂本龍一だ。2000年代にはカールステン・ニコライや高谷史郎、真鍋大度、毛利悠子といったアーティストとコラボレーション。共同でインスタレーション制作にあたるなど、現代美術~メディア・アートの分野でも多くの作品を発表してきた。

 そんな坂本龍一と深い関りをもって活動を行ってきたのが、東京・初台にあるNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]。ICCではこれまで、岩井俊雄、江渡浩一郎とのコラボレーションによる《RemotePiano Installation》(1997年)、高谷史郎との共作《LIFE - fluid, invisible, inaudible ...》(2007年)、《IS YOUR TIME》(2017年)など、坂本龍一の新作を積極的に紹介。ICC開館20周年記念企画展「坂本龍一 with 高谷史郎 | 設置音楽2 IS YOUR TIME」は台湾にも巡回し、大きな反響を呼んだ。

 そして、2023年12月。ICCにて「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」が始まった。追悼展の会場として、この上なくふさわしい会場だといえよう。

遺された膨大なデータを未来に受け継ぐ

 展覧会のキュレーションを務めたのは、ICC主任学芸員の畠中実と、日本を代表するクリエイティブチーム「ライゾマティクス」の真鍋大度。畠中実は展覧会の開催について、このように語る。

「ICCの活動の節目にはいつも坂本龍一さんがいた。坂本さんが亡くなり、絶対に何かやらないと申し訳ないと思った。この展覧会は、一般的にイメージされる追悼展とは違う。過去の代表作を網羅して紹介するのではなく、坂本さんのアート作品の中にある本質をクローズアップし、坂本さんの活動を今後どのように受け継いでいけるのかを考察するような内容にしたかった」(畠中実)

 展覧会は大きく2つのブロックで構成されている。1つは坂本龍一が遺した演奏データを使って再構築した作品群、もう1つは坂本と縁の深いアーティストたちによる作品群を紹介するブロックだ。

 データを使用した作品群の冒頭を飾るのは、坂本龍一と真鍋大度の共作《センシング・ストリームズ 2023―不可視、不可聴》。アンテナによって収集した電磁波のデータを、ヴィジュアルとサウンドに変換したインスタレーション作品で、もともと「札幌国際芸術祭2014」で発表されたものだ。

「その作品を本展開催に合わせてアップデート。坂本さんは演奏や映像など、膨大なデータを遺しています。それを“もし坂本さんがいたら、こうやって活用しただろう”というふうに考えながら、アップデートの作業を行いました。遺された価値あるデータを活用することが、敬愛する坂本さんへのトリビュートになると考えたんです」(真鍋大度)

李禹煥の言葉が心に響く

 坂本と縁の深い作家を紹介する展示室では、まず毛利悠子《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成)が目に留まった。グランドピアノを用いたインスタレーション作品で、自動演奏によってピアノから奏でられる坂本龍一作曲のメロディが美しい。

 ダムタイプ《Playback 2022》はアナログレコードを使ったサウンドインスタレーション。坂本龍一のディレクションにより世界各地でフィールド・レコーディングされた音源を基に16枚のレコードを制作。これら16枚のLPレコードがアート作品として並ぶほか、会場では特別に未発表音源を収めた17枚目のディスクを聴くことができる。

 さらに李禹煥の作品も見逃せない。《祈り》は李が坂本龍一の病気平癒を祈って描いたドローイングで、生前の坂本に贈られたという。裏面に書かれた李から坂本へのメッセージが心に響く。

坂本龍一さん
このdrawingは 時計まわりと 反対に描いたものです
従って 見る時も左回りに目を回しながら見ます
そうすれば力が湧いてきます
時々10分程やってみてください
李禹煥 2022.8.15」

 坂本龍一の音楽、芸術、そして人間としての素晴らしさはこれからも愛され続ける。そうとはわかっていても、坂本さんの逝去は、やはり寂しい。

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