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(写真:PIXTA)

記録的な暖冬とはいえ、ここのところ寒さも一層強まり、ようやく温かい鍋料理が恋しくなる季節に。

「野菜がふんだんに摂取できて健康的だし、家族や友人などで鍋を囲む時間は楽しいものです。しかし、薬を飲んでいる人は、食べ合わせの相性の悪い鍋もあるので注意が必要です」

こう注意を促したのは、国際感食協会理事長で薬剤師の宇多川久美子さんだ。なかには一般的に市販されている風邪薬などでも中毒を起こしかねない“NG鍋”の組み合わせも存在するという。

この冬、注意すべき“やってはいけない、薬と鍋の食べ合わせ”を解説してもらった。

【1】消炎鎮痛剤×キムチ鍋

「頭痛のときによく服用する鎮痛剤や、風邪のときに服用する風邪薬など、NSAIDs(抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称)として販売されている非ステロイド性消炎鎮痛剤は、痛みを抑えてくれる代わりに、胃の粘液を減らす作用があります」

通常、胃は粘液によってガードされている。しかし胃が無防備になると、刺激物によって胃壁を荒らしてしまうのだという。

唐辛子にんにくなどが含まれたキムチ鍋や、刺激のあるスパイスが調合されたカレー鍋は要注意といえます。胃痛、胃のむかつきなどの症状が出やすくなってしまいます」

ドラッグストアに売っている代表的な鎮痛剤にも、キムチ鍋と一緒のタイミングで摂取する場合は注意が必要な成分が。イブプロフェンが含まれている頭痛薬などは身近だが、刺激が強い食事と一緒に取るときは気をつけよう。

【2】葛根湯×ブリしゃぶ

スーパーなどでも、冬場は脂が乗ったブリしゃぶセットが販売されているように、なじみ深い鍋料理だ。野菜と魚の組み合わせなので健康的なイメージだが、相性の悪い薬があるという。

「風邪のひきはじめによく服用される葛根湯は要注意です。葛根湯は副作用が少ないと思われていますが、じつは、かゆみを作るヒスタミンという物質をため込みやすい性格を持っています。葛根湯に限らず、同様の性質は多くの生薬が持っています。一方、ブリにはヒスタミンのもととなるヒスチジンが含まれており、体内でヒスタミンに変わります」

つまり、同時に摂取することでヒスタミンの濃度が高くなってしまうのだという。

「すると、アレルギー症状の一つであるヒスタミン中毒が引き起こされ、顔面紅潮や発汗、嘔吐などに見舞われる可能性があるのです。ブリの照り焼きを食べたらヒスタミン中毒を起こし、救急搬送されたというニュースもあります。葛根湯と合わせることで、そのリスクが高まってしまうおそれがあると考えられます」

ヒスチジンはブリのほかにもサンマイワシマグロなどの赤身魚に含まれているため、マグロとねぎをメインとしたねぎま鍋なども、葛根湯とは合わせないほうが無難だろう。

ポトフやチーズフォンデュなどの洋風鍋も要注意

【3】胃薬×シチュー

コロナ流行後、はじめての行動制限のない今年の年末年始。例年以上に忘年会新年会の予定を入れているとなると、ますます胃薬が手放せない。

ところが、市販の胃薬などに含まれる水酸化アルミニウムゲルは、カルシウムカルシウムが豊富な牛乳との相性が悪いともいわれ、疲労や吐き気、呼吸困難や錯乱などの症状が出る高カルシウム血症などを引き起こす可能性が指摘されているのだ。

「牛乳をたっぷり使用したクリームシチューなどは、アルミニウム製剤を飲んでいる人は避けた方がいいでしょう」

【4】血糖値降下剤×きのこ鍋

きのこは物価高のご時世でも、比較的価格が安定していて、しかも低カロリーで食物繊維が豊富なヘルシー食材。お財布的にも健康的にもやさしいきのこをふんだんに使った鍋を食べたいところだが、血糖値を下げる薬を飲んでいる人は要注意だという。

「きのこ全般にいえることですが、なかでもまいたけに含まれるβグルカンという物質が血糖値の上昇を抑えてくれる働きがあります」

そのため、糖尿病などで血糖値降下剤を服用している人が大量のきのこを食べると相乗効果で低血糖を起こしかねないのだ。

「低血糖の症状としては、最初は冷や汗や手の震え、発汗、頻脈、不安な気持ちが出てきたりします。さらに進むとめまいや頭痛、集中力の低下、場合によっては意識を失うなど救急搬送されてしまうケースもあります。こうした低血糖を避けるためにも、きのこ鍋の中に、高血糖の大根やにんじんなどの根菜、ごはんなども入れて、バランスが偏らないように食べることが望まれます」

【5】抗血栓薬×ポトフ

「血液をサラサラにするワルファリンなどの抗血栓薬を服用している人は、ビタミンKを含む食材はNGです。ビタミンKが、抗血栓薬の吸収を妨げ、効果を少なくしてしまうためです。ビタミンKが含まれる食材といえば納豆や緑黄色野菜です。ブロッコリーにんじんをふんだんに入れたポトフなども避けたほうがいいかもしれません」

さらにほうれん草を使った常夜鍋、納豆が入った鍋なども要注意といえそうだ。

【6】抗結核剤×チーズフォンデュ

「イソニアジドなど抗結核剤は、チラミンという物質の代謝を阻害する働きがあります。そのため、チラミンが含まれるチーズとの同時摂取は避けるべきでしょう」

チーズの鍋といえば、チーズフォンデュ。ワインと一緒に楽しみたいところだが……。

「ワインもチーズ同様に、このチラミンが豊富に含まれています。抗結核剤を服用していれば、体内のチラミン濃度が高くなり、顔面紅潮、頭痛、血圧上昇といった中毒症状が起こってしまう危険性があります。飲むときは気をつけましょう」

野菜もたくさん食べられるため、鍋=健康的と考えがちだが、服用している薬によっては不健康になりかねないことを留意しておこう。楽しく家族と鍋を囲んで団らんするひと時は、薬との組み合わせに注意してみて。