有志の弁護士グループが自衛隊員(元自衛隊員)や家族らを対象にアンケートを実施したところ「ハラスメントの声をあげても黙殺されてきた」「従順な者にはアメを与え異端者には陰険なムチを与える現況」などと悲痛な声が寄せられた。

アンケートでは、回答者の7割が自衛隊内で相談したものの、調査を求めた人のうち、処分に至ったのは3%のみだった。また退職強要や配置転換などの不利益取り扱いを受けた人もおり、アンケートを実施した「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」の武井由起子弁護士は「ハラスメントを肯定する文化や、声をあげた者を罰する文化の存在がある。アンケートでは第三者機関による調査や判断、被害者保護を望む声が多数寄せられた」と話した。

●相談した結果…退職強要や不利益な配置転換も

アンケート(自衛隊のハラスメント被害と組織の対応に関するアンケート)は、「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」がウェブで実施(2023年11月1日12月31日)。自衛隊員・元自衛隊員からは116件(有効回答113)、家族や知人友人など非当事者から31件(有効回答30)、合計147件(有効回答143)の被害を訴える回答があった。

被害内容としてはパワハラが81%と最多で、セクハラ9%、マタハラ被害2%と続いた。

このうち、相談していない人は29.5%にのぼった。相談しなかった理由として、「内部で相談すると加害者からの報復や組織から不利益に遭う」(26名)、「相談しても何もしてもらえないと思ったから」(22名)、「ハラスメントの相談窓口や相談員を信用できないと思っていたから」(12名)と並んだ。

告発の結果について聞いたところ、自衛隊に対して調査を求めた65名のうち、処分されたのは2名のみ(3%)で、「調査されなかった」(22名)、「調査されたが解決されない」(15名)、「加害認定されたが加害者への処分などなされなかった」(8名)との結果になった。

さらに、相談したことで不利益取り扱いを受けたとする人も46名にのぼった。内訳は退職強要(4名)や不利益な配置転換(17名)、減給(3名)、降任・昇任留保(6名)との不利益が生じたほか、上司から嫌がらせ(16名)、職場で嫌がらせ(14名)もあった。

●「ハラスメントの声をあげても黙殺」「異端者には陰険なムチ」

アンケートには次のような声が並んだ。

「ハラスメントの声をあげても黙殺されてきました。また、声をあげたことにより不適切に、人事評価を下げられ、給与や昇任面でも不利益を受けています。被害者の評価が下げられ、加害者が評価される」
「従順な者にはアメを与え異端者には陰険なムチを与える現況」
「国の税金で育てたパイロットに自ら退職を決心させる構造は、国防にとって大きな損失」
「他の公務員よりも自殺や精神疾患が多かったり、入隊する若者がどんどん減少している原因が何なのかについて上層部は誰も真面目に考えていないと思う」

1月15日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた「自衛官の人権弁護団・北海道」代表の佐藤博文弁護士は、アンケート結果について「予想された内容だ。五ノ井さんの問題を契機に特別防衛監察なども行われたが、私たちのところには今も多数の相談が寄せられている。自衛隊は声をあげることが禁止されている組織であるが、当事者の方々の声を可視化していきたい。人権を守れないような組織がどうして国民を守れるのか」と話した。

自衛隊ハラスメント「声をあげても黙殺され、人事評価を下げられた」 アンケートに悲痛な声 弁護士グループ調査