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これまで3万2000台以上が売れたGRヤリス

数年前のトヨタは、世界ラリー選手権のホモロゲーション取得で決められた数、2万5000台もGRヤリスが売れないのではないかと危惧していた。日本市場向けに、安価なベースグレード、1.5LハイブリッドGRヤリス RSを設定するほど。

【画像】随所を強化し280ps トヨタGRヤリスがマイナーチェンジ 存在感を増す「GR」たち 全108枚

果たしてトヨタの開発陣は、GRヤリスの世界的な人気へ驚いているに違いない。これまでに3万2000台がラインオフし、今でも数は増え続けている。そのおかげで、有効なマイナーチェンジも可能になったようだ。

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トヨタGRヤリス(マイナーチェンジプロトタイプ/欧州仕様)

GRヤリスは、各地のラリーやサーキットイベントで活躍。改良すべき点が発見され、今回のアップデートへ落とし込まれている。目立つトピックとしては、最高出力の向上と、ATの追加。だがそれ以上に、細部へのコダワリも生半可なものではない。

例えばフロントバンパーは、左右が繋がった1ピースから、3ピースの分割式に変更。峠道やサーキットでうっかり片側を割ってしまっても、簡単・安価に交換できる。

中央部分は、冷却用のエアインテークを拡大。金属製のメッシュが張られ、先行車の落とした破片や小石が飛んできても、ラジエーターの損傷を防げる。

リア側では、バックライトの位置が高くなっている。従来は、排気ガスの熱で溶けてしまう場合があった。ハイマウントストップランプは、スポイラーからリアガラス側へ移設。チューニングで大きなウイングへ交換する際、作業量を軽減できる。

エンジンは耐久性を高めつつ280psへ増強

見える部分としては、この程度。タイヤは、225/40 18インチミシュラン・パイロットスポーツ4Sで、変わりなし。アルミホイールのデザインも、変更はないという。

外からは見えないボディシェルも、抜かりはない。剛性強化のため、スポット溶接のポイントは15%も増えている。車重は、従来と同じ1280kgへ留めた。

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トヨタGRヤリス(マイナーチェンジプロトタイプ/欧州仕様)

フロントのサスペンションストラットを固定するボルトは、1本から3本へ変更。フロアパネルの設計が改められ、シートの固定位置は25mmも低くなった。

同時に、モニター式メーターパネルの場所は50mm低く、バックミラーは25mm高くなり、前方視界を拡大。競技用シートへ換装した場合を想定し、スイッチ類の配置も見直された。

1.6L 3気筒ターボエンジンと四輪駆動のドライブトレインも、しっかりアップデートされている。排気側バルブの素材を置き換えるなど、バルブトレインは強化。耐摩耗性に優れた、ピストンリングも採用された。

燃料供給や点火のマネージメント・ソフトウエアも更新。インジェクターは圧力が高められた。インタークーラーにはスプレー機能が追加され、新しいエアインテークと相まって、冷却性能も大幅に向上したそうだ。

その結果、最高出力は260ps/6500rpmから280ps/6500rpmへ増強。最大トルクは36.7kg-mから39.7kg-mへ太くしつつ、発生回転域を250rpm下げている。

8速ATを新設定 サスペンションは強化

トランスミッションは、6速マニュアルではリンケージを高剛性化。8速オートマティックも新設定された。トルクコンバーター式ながら強力にロックアップされ、滑らかさを犠牲にしつつ、パワーロスを最小限にしている。

8速ATの場合、車重は20kg増えるが、ローンチコントロールも実装される。トヨタによれば、6速MTより0-100km/h加速で0.3秒も速いとか。富士スピードウェイのラップタイムでは、1秒以上の差が出るという。

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トヨタGRヤリス(マイナーチェンジプロトタイプ/欧州仕様)

トルクセンシング・ディファレンシャルは、ATとMTで共有。今回のフェイスリフトで、前後のパワー分配率が改められ、モードはノーマルとトラック(サーキット)、グラベルの3種類へ変更された。

サスペンションは、スプリングレートを増加。サーキットパッケージでは、従来の前後とも36N/mmから、フロント46N/mm、リア40N/mmへ変更された。アンチロールバーは、フロント側で強化してある。

確認が長くなってしまったが、筆者がアップデート版GRヤリスのステアリングホイールを握ったのは、貸し切ったサーキット。量産前のプロトタイプという状態だったが、全開走行が許された。前期型のGRヤリスも用意され、乗り比べることも可能だった。

マイナーチェンジ前でも、GRヤリスは記憶に残るクルマだった。コーナーへ意欲的に食らいつき、英国編集部のスタッフを夢中にさせるほど優れていた。それでも、アップデートを受けたメリットは疑いようがない。

出色の運転体験は損なわれていない

シートポジションが低くなったことで、クルマの中へ収まった印象が増し、前方視界は大幅に広がっている。アナログ・メーターでなくなったことは少々残念だが、モニター式のメーターも速度と回転数、シフトポジションなどへ情報が絞られ、見やすい。

そして、出色の運転体験はまったく損なわれていない。引き締められたフロント・サスペンションにより、旋回初期のダイナミックさは若干薄れたものの、極めて機敏なことは従来どおり。コーナーの出口へ向けて、シャープなラインを狙っていける。

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トヨタGRヤリス(マイナーチェンジプロトタイプ/欧州仕様)

フロントノーズは積極的に向きを変え、僅かなボディロールで荷重を移し、素晴らしいグリップ力を引き出せる。アクセルオンで、前後左右のタイヤへ伝わるトルクは巧みに制御され、トラクションを最大化しつつ加速していく。

筆者は6速MTの方が好みだったが、8速ATも素晴らしい。Dポジションのままでストレスフリーながら、ドライバー自らギアを選んでも、反応は素早く滑らか。20kg増える車重も、感じさせない。

ブレーキペダルの感触も見事。ステアリングホイールの手応えや、路面からの情報も文句なし。過去に満点評価を獲得したホットハッチは、特長を保ちながら能力を更に高めたといっていい。

素晴らしい高性能マシンが一層磨き込まれた

想像以上のオーダー数で、トヨタの予想を良い意味で裏切った、GRヤリス。高級車を複数台持っているカーマニアが、普段の足として選ぶことも多いとか。

従来から価格は少々お高めで、フォード・フィエスタ STのように、誰しもが手を出せるモデルとはいえないだろう。開発・製造コストが、小さくないことは理解できる。だが、収益性も期待以上のようだ。

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トヨタGRヤリス(マイナーチェンジプロトタイプ/欧州仕様)

マイナーチェンジ後の生産開始は、2024年4月からが予定されている。6月には、英国でも買えるようになる。既に前期型のGRヤリスをオーダーしている人は、納車を延期して、切り替えることも可能らしい。

英国価格は3月に発表されるそうだが、俯瞰して整理すると、値上げされる可能性もゼロではない。社内の経理部門を誤魔化してでも、避けて欲しいところではある。いずれにしても、素晴らしい高性能マシンが、一層磨き込まれたことは間違いなさそうだ。

トヨタGRヤリス・プロトタイプのスペック

英国価格:未定
全長:−mm
全幅:−mm
全高:−mm
最高速度:233km/h(予想)
0-100km/h加速:5.1秒(予想)
燃費:13.9km/L(予想)
CO2排出量:185g/km(予想)
車両重量:1280kg
パワートレイン:直列3気筒1618cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:39.7kg-m/3250rpm
ギアボックス:6速マニュアル(四輪駆動


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