ウクライナ陸軍の司令官が対地攻撃能力強化のため、地上攻撃機であるA-10が欲しいと発言しました。制空権をとれていない段階では不向きな地上攻撃機を欲する理由は、どこにあるのでしょうか。

地上攻撃に優れた機体が欲しい!

ウクライナ陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は2024年1月12日、ロイター通信のインタビューで、ウクライナ軍の地上攻撃機の能力を強化することが大事だと訴え、支援機の具体例としてアメリカで運用されている A-10サンダーボルトII」の名前を出しました。

ウクライナは既に、デンマークノルウェーからF-16の供与を取り付けており、それを待っていますが、将来的には地上の攻撃に優れた航空機を求めているようで、シルスキー司令官はほかに、AH-64「アパッチ」、AH-1「スーパーコブラ」、UH-60ブラックホーク」などの攻撃ヘリや地上攻撃兵装が取り付け可能な多目的ヘリコプターの名前を出しました。

A-10は、機首下部に露出した30mmGAU-8アヴェンジャーガトリング砲や、AGM-65「マーベリック」空対地ミサイルなどによる絶大な対地攻撃能力をもっていますが、低速での地上攻撃を前提に作られた機体のため空戦能力は皆無で、敵戦闘機には無力なことから、運用には制空権、最低でも周辺空域の航空優勢の確保が前提になっています。

2022年2月にロシアウクライナへの侵攻を開始してから、2024年1月現在に至るまで、ウクライナ軍は戦闘機が少なく、侵攻の初期段階でかなり機体が撃墜されたとみられており、空では常に劣勢の状態です。

ただ、ウクライナがアメリカやドイツなどから供与を受けた「パトリオット地対空ミサイルシステムのおかげで、ロシア側も積極的にウクライナの防空網の中には入ることはできず、射程延長用の滑空装置を備えた無誘導爆弾を使って攻撃を行っている状況です。そのため、制空権があるとは言い難いですが、ロシア側が航空優勢にあることは間違いありません。

制空権がないのにA-10を欲しがる理由とは…?

にも関わらず、ウクライナの空軍司令官がA-10を欲する理由としては、F-16に対しての期待の高さが背景にあります。ウクライナF-16の空戦能力による、ロシア軍機への対抗以上に、旧ソ連機では搭載できない対レーダーミサイルを用いた、ロシア地対空ミサイルによる防空網の破壊を期待している可能性もあります。

ロシアウクライナが運用しているソ連時代からの防空システムは元々、北大西洋条約機構(NATO)など、いわゆる西側諸国の航空戦力が優勢であるという考えのもと設計されています。

そのため、戦闘機で積極的に制空権を奪いにいくというよりは、まず重厚な対空ミサイル網で守るという考えが強いです。そうした旧ソ連ロシアの防空システムを破るために改良され続けている西側のF-16が、ロシアの防空網を崩す有効打になると期待し、航空優位を取った場合に欲しい機体としてA-10の名前があがったと思われます。

なお、シルスキー司令官の発言を積極的に支持している、ウクライナ空軍司令官のミコラ・オレシチュク中将はさらに踏み込んだ考えを自身のテレグラムに投稿しています。それは、F-16の以外にも西側の軍用機を導入し、将来的にはほとんど西側の機体にすべきというもので「戦闘爆撃機Su-24Mはミラージュ-2000Dによって、Su-25攻撃機の戦闘能力はA-10によって強化される可能性がある」と発言しました。

しかし、2024年1月から供与され、第一陣となるはずだったデンマークF-16は、最大半年遅れる可能性があると2024年1月7日に報じられるなど、F-16がいつウクライナに到着するかは不透明な状態が続いています。

A-10「サンダーボルトII」(画像:アメリカ国防総省)。