学校を卒業してから40年あまり。サラリーマンとして区切りとなる定年。企業によって60歳であったり、65歳であったりとさまざまですが、「定年の1ヵ月前に退職すると得する」というアドバイスをするお金のプロも。どういうことなのでしょうか。みていきましょう。

「サラリーマン人生」の区切りとなる「定年」…いまどきは何歳?

――何歳まで働くか

人によってそれぞれですが、ひとつの区切りとなるのが定年です。厚生労働省令和4年就労条件総合調査』によると、91.5%の企業が「一律定年制を導入している」と回答。一律定年制を導入する企業のうち、「60歳」とする企業が7割。また最近は、雇用機会確保措置の義務化に向け「65歳」を定年とする企業も増加傾向にあり、21.1%と、5社に1社に上ります。

【一律定年制導入企業に聞いた「定年年齢は」?】

60歳…72.3%

61歳…0.3%

62歳…0.7%

63歳…1.5%

64歳…0.1%

65歳…21.1%

66歳以上…3.5%

つまり66.1%ほどの企業で「60歳」を定年とし、19.3%ほどの企業が「65歳」を定年としているということになります。

一律定年制を定めていても、定年到達者を退職させることなく引き続き雇用する勤務延長制度や、定年到達者をいったん退職させ再び雇用する再雇用制度により、定年年齢以降も働ける環境を整える企業がほとんど。

一律定年制を導入する企業のうち、その後も働ける制度を導入する企業は94.2%。勤務延長制度を取り入れる企業が10.5%、再雇用制度を取り入れる企業が63.9%、両制度を取り入れている企業が5.8%となっています。

勤務延長制度か、再雇用制度か、制度の違いはあれ、86.1%の企業が「定年後も“我が社で働ける”」という環境を整えていることになります。

勤務延長制度や再雇用制度がある企業は、定年年齢とは別に「最高雇用年齢」を定める場合があり、勤務延長制度を導入する企業では55.1%、再雇用制度導入企業では76.5%で、「65歳」とするのが、勤務延長制度導入企業では6割、再雇用制度導入企業では7割となっています。

現在、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務となっていますが、この流れが加速すれば、定年年齢や最高雇用年齢の引き上げが進むとみられています。

60歳定年で1,700万円の退職金がもらえそう…でも1ヵ月前に辞めるのがベスト?

厚生労働省令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、59歳サラリーマン(正社員)の平均給与は43.1万円、賞与も含めた年収で701.6万円。定年退職金は「(直近)月収の40ヵ月分」が平均といわれているので、1,700万円程度を手にする計算でしょうか。

そんな皮算用をしているなか、定年前にこんなアドバイスを聞くことがあります。

――退職するなら「59歳11ヵ月」がベストタイミング

どういうことなのでしょうか。そのカギを握るのが「失業保険」です。

「59歳11ヵ月の退職がお得」だと言われるワケ

雇用保険の被保険者が離職し、新しい仕事を探す間の生活を支えるために支給される失業手当。受け取れる日数と支給額は、離職日の年齢と雇用保険の被保険者だった期間、離職の理由によって決定します。

失業手当の1日当たりの支給額である「基本手当日額」は、原則、離職した日の直前の6ヵ月に毎月支払われた賞与を除く賃金の合計を180日で割って算出した金額に対し、60歳未満であれば50~80%、60歳~64歳は45~80%となります。

雇用保険の被保険者期間が20年以上の場合、59歳で「自己都合退職」だと、所定給付日数は150日で、基本手当日額の上限は8,490円。倒産や解雇、会社が希望退職を募った場合の「会社都合退職」だと所定給付日数は330日で、基本手当日額の上限は8,490円です。対して60歳で「定年退職」であれば、所定給付日数は150日で、基本手当日額の上限は7,294円です。

つまり「59歳11ヵ月で会社都合で退職」、または「59歳11ヵ月で基本手当日額が7,294円以上」であれば「失業保険が多くもらえる」可能性があるというわけです。

65歳が定年退職なら「64歳11ヵ月の退職がベストタイミング」

60歳定年であれば「59歳11ヵ月の退職がベストタイミング」といわれるように、65歳定年であれば「64歳11ヵ月の退職がベストタイミング」といわれます。

失業手当が受け取れるのは64歳までで、65歳からは「高年齢求職者給付金」がもらえるようになります。失業手当は被保険者期間が20年以上、60~65歳未満で、自己都合退社なら150日、会社都合退職なら240日が最大給付日数。それに対し、「高年齢求職者給付金」は30日、または50日分。つまり失業保険をもらうほうがメリットが大きいというわけです。

さらに特別支給の老齢厚生年金や、老齢年金の繰上げ受給の兼ね合いから、「退職するなら64歳11カ月がベスト」といわれています。

「定年退職1ヵ月前に辞めるのがお得」の落とし穴

60歳定年なら59歳11ヵ月で、65歳定年なら64歳11ヵ月と、定年の1ヵ月前に辞めるのがベストタイミングというお得情報。ただし法律では誕生日の前日に年齢が上がるというのがルール。「59歳/64歳」で退職したとするなら、誕生日の前々日までに退職しなければ、「60歳/65歳」で退職となってしまいます。

また基本的に自己都合による退職の場合、2~3ヵ月の給付制限期間があり、この間は失業手当は給付されません。

さらに会社によって退職金の規定は異なります。「59歳/64歳の退職」と「60歳/65歳の定年退職」では、退職金に差が生じることも珍しくありません。失業保険給付だけにこだわっていると、結果的に損をする可能性も。

そもそも失業保険は「雇用保険に加入し保険料を支払っていること」「離職の日以前2年間に12ヵ月以上の雇用保険の被保険者期間があること」「就労の意志と能力があり、求職活動を行っていること」が給付条件。つまり「60歳で/65歳で現役を辞める」と考えている人や、「この先も働くけど、(定年)退職したら、少しゆっくりしたいなぁ」という人は、「59歳11ヵ月/64歳11ヵ月の退職がベスト」の対象外です。

――60歳定年なら1ヵ月前に辞めるとお得ですよ

――そうなんだ、わかった!

“お得”の言葉だけで退職時期を決めた結果、「あまりに、浅はかでした……」と涙目になっても後の祭りです。定年退職1ヵ月前の退職で総合的に得となるのか、損となるのか、定年後のキャリアも含めて、綿密なシミュレーションのもと検討することが重要です。

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 就労条件総合調査』

厚生労働省『雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和5年8月1日から~』

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』