(小林偉:放送作家・大学教授)

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7年ぶりの女性主人公の大河ドラマ

 1月7日にスタートした、吉高由里子主演のNHK大河ドラマ『光る君へ』。「源氏物語」の作者として知られる紫式部を主人公に据えた作品です。紫式部については、これほどの有名人であるにもかかわらず、ほとんど資料が残っておらず、本名をはじめ、人となりが分かる確かな文献もないそうで、ある意味、創作意欲を掻き立てる人物であるとは言えるかもしれませんね。

 さて、その初回の世帯平均視聴率(関東地区)は12.7%と大河ドラマの初回放送としては歴代最低記録となってしまいました。しかし、裏番組に元日放送予定だった人気の『芸能人格付けチェック 2024お正月スペシャル』(テレビ朝日系)の振替放送があり、こちらが20.7%という高視聴率を記録。同時間帯ではこれに次ぐ数字だったことも言い添えなくてはなりません。

光る君へ』は、これまでの大河ドラマでは扱ってこなかった平安時代中期という、一般的にはあまり馴染みのない時代が舞台。その中で平安貴族の権力争いや、初回ラストで主人公の母が斬殺されるという衝撃の展開もあり、今後どんな風に描かれていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

 さてさて、そんな『光る君へ』は、2017年放送の『おんな城主直虎』以来7年ぶりの女性主人公の大河ドラマ。歴史を物語のベースに置いている大河ドラマに於いては、必然的に資料が多く残されている男性偉人が主人公になることが多く、女性を主人公に据えた作品は、全62作中、今回が15作目。およそ4作に1作という割合になっています。

 筆者はそんな“女性主人公大河”にスポットを当てた1月2日放送の特番『大河ドラマ名場面スペシャル~歴史に名を刻む女性たち』(NHK-BS)の構成を担当させていただきました。そこで、この番組のためにリサーチした様々なデータ(番組で使用しなかったものも含む)を元に、いろんな角度から“女性主人公の大河ドラマ”を掘り下げてまいりたいと思います。

 まずは、これまで女性を主人公に据えた大河ドラマを列記してみましょう。

女性主人公の大河ドラマは15作

 最初は大河ドラマ第5作目にあたる1967年放送の『三姉妹』。幕末から明治という激動の時代を生き抜いた三姉妹(岡田茉莉子、藤村志保、栗原小巻)が主人公でした。ちなみにこの三姉妹は創作上の架空の人物です。

 それから12年後の1979年には源頼朝石坂浩二)の正室・北条政子岩下志麻)が主人公の『草燃える』。1981年には豊臣秀吉の正室・ねね(佐久間良子)が主人公の『おんな太閤記』。1985年には日本初の女優とされる川上貞奴(松坂慶子)を描いた『春の波濤』。翌86年には戦後40年を駆け抜けた架空の女性医師・高倉未希(三田佳子)が主人公の『いのち』。1989年には徳川幕府3代将軍・家光の乳母・春日局(大原麗子)の『春日局』。1994年室町時代末期の将軍・足利義政の正室・日野富子(三田佳子)の『花の乱』。三田佳子はこれまで唯一、女性大河に2度主演されています。

 2002年には加賀百万石の大大名となった前田利家(唐沢利明)とその正室・まつ(松嶋菜々子)のダブル主演『利家とまつ』。2006年は“内助の功”という言葉を広めた戦国時代の武将・山内一豊上川隆也)の正室・千代(仲間由紀恵)が主人公の『功名が辻』。2008年は幕末に薩摩・島津藩から徳川13代将軍・家定(堺雅人)に嫁いだ篤姫(宮﨑あおい)の『篤姫』。2011年は織田信長の妹・市(鈴木保奈美)の三女で、後に徳川2代将軍・秀忠(向井理)の正室となった江(上野樹里)の『江~姫たちの戦国』。

 2013年は幕末の会津藩で砲術師範代の娘として生まれ戊辰戦争を戦い、後に新島穣(オダギリジョー)の妻として同志社英学校(現在の同志社大学)設立を支えた山本(新島)八重(綾瀬はるか)の生涯を綴った『八重の桜』。2015年は明治維新の立役者たちを育てた吉田松陰(伊勢谷友介)の妹・文(井上真央)の『花燃ゆ』。2017年は女性にして戦国時代の小国・井伊家の城主となった井伊直虎柴咲コウ)の『おんな城主直虎』。そして今回の『光る君へ』という15作です。

 こうしてみると、致し方ない面もあるとはいえ、一般的にはあまり馴染みのない方が多く取り上げられているというのが“女性大河”の特徴でもありますよね。また、1980年代2010年代が4作と多いのも気になります。そこには男女雇用機会均等法施行(1986年)や、女性活躍推進法施行(2015年)、アメリカ大統領選挙に初めてヒラリー・クリントンが女性として民主党の候補となったこと(2016年)などなどの時代背景が滲んでいるようにも感じました。NHKですものね。

最も多く登場した女性キャラクターは?

 続いて、主人公か否かにかかわらず、大河ドラマ全作品の中で最も多く登場した女性キャラクターは誰だったかもリサーチいたしました。まずは2位から5位・・・

2位 淀(茶々) 19作品
3位 初     15作品
4位 市     14作品
5位 江     13作品

 ・・・何と、戦国時代の武将・浅井長政の妻とその3人の娘ばかり。織田信長の妹と、豊臣秀吉の側室、徳川家康の息子・秀忠の正室という、いわゆる“三英傑”と深い関わりを持つ女性たちですからね。そもそも戦国時代を舞台にした大河ドラマが全62作中、21作を占めるという人気ぶりからもこの登場回数は当然の結果でしょう。

 さて、そんな浅井一族を抑えて1位に輝いた方はというと・・・

1位 ねね    20作品

 マァこれも当然といえば当然。豊臣秀吉の正室・ねねです。

 ねねは、当時としては珍しく恋愛結婚。子宝には恵まれませんでしたが、北政所として豊臣政権を陰で支えました。秀吉の死後も、側室・茶々の子である秀頼を支え、江戸幕府成立後は高台院と称して豊臣家が滅びゆくさまを最後まで見守った重要人物。そんなねねを演じたのは、以下の方々です。

 初めて大河ドラマにねねが登場したのは、1965年放送の第3作『太閤記』。緒形拳演じる豊臣秀吉を支えたのは・・・その後大河に8作品出演する名優、藤村志保でした。その後1971年の『春の坂道』では奈良岡朋子。1973年の『国盗り物語』では太地喜和子。1978年の『黄金の日日』では十朱幸代。

 そして、ねねが主人公となった佐久間良子主演の1981年『おんな太閤記』。秀吉の西田敏行がねねを呼ぶ際の「おかか」という台詞は流行語にもなりました。1983年の『徳川家康』では吉行和子。1987年の『独眼竜政宗』では八千草薫。1989年の『春日局』では香川京子。1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では何と当時22歳の中山美穂。1993年の『琉球の風』では柾木良子。この方は現在、着物の着付け師として活躍されているそうです。

 1996年の『秀吉』では沢口靖子。2000年の『葵 徳川三代』では草笛光子。2002年の『利家とまつ』は酒井法子。2003年の『武蔵MUSASHI』は小林由利。2006年の『功名が辻』は浅野ゆう子。2009年の『天地人』では富司純子。2011年の『江〜姫たちの戦国』は大竹しのぶ。2014年の『軍師官兵衛』は黒木瞳。2016年の『真田丸』は鈴木京香。そして昨2023年の『どうする家康』では和久井映見という具合。本当に日本を代表する名女優たちがズラリと並んでいて圧巻ですね。

 では最後に、女性俳優として大河ドラマに最も多く出演した方は誰かについて触れてみたいと思います。1位を除くトップ10名がこちら。

2位 松坂慶子  9作品
3位 藤村志保  8作品
4位 松原智恵子 大竹しのぶ 寺島しのぶ 7作品
7位 三田佳子  多岐川裕美 鷲尾真知子 鈴木京香 宮沢りえ 6作品

 先述した通り、7位の三田佳子は6作中2作主演というのも特筆すべきことです。ではでは、気になる1位は・・・

1位 草笛光子 11作品

 御年90歳の大御所・草笛光子。彼女が出演したのは・・・1975年の『元禄太平記』 に江戸幕府5代将軍徳川綱吉の側室・お伝の方(瑞春院)で初出演して以来、1977年の『花神』の幕末の女流歌人・野村望東尼1979年の『草燃える』での後白河法皇の女御・丹後局。ここまで2年おきの出演です。

 その後11年ぶりに1990年の『翔ぶが如く』で幕末の武将・島津斉興の側室・由羅として登場。1995年の『八代将軍 吉宗』では6代将軍家宣の正室・天英院。2000年の『葵 徳川三代』で高台院(ねね)。2002年の『利家とまつ』では秀吉の母・大政所。2009年の『天地人』では下級武士の母・トメ。2013年の『八重の桜』では語り手を担当。2016年の『真田丸』では真田幸村の祖母・とり。

 2022年の『鎌倉殿の13人』では源頼朝の乳母・比企尼。以上、40代前半から80代後半に至る37年間に、多彩な役どころで11作品もの大河ドラマを支えてらっしゃいます。女性でここまで大河ドラマに出演し続ける方がこれから先、出現するでしょうかねぇ。

 ということで、大河ドラマを“女性”という視点で、様々なデータから深掘ってまいりました。“歴史の影に女あり”などとも言いますが、どんな武将も偉人も女性から生まれたワケですから、もっといろんな角度からスポットを当てることもできるでしょう。そして、いち大河ドラマファンとしては、2020年代初の“女性大河”が盛り上がり、これから後もさらなる面白い作品が生まれることを願っております。(文中敬称略)

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