日本最大のAI専門メディア「AINOW」の編集長が、先進企業の生成AI活用法を大公開。本連載では、生成AIを企業に導入する手順、既存システムとの連携法、プロンプトエンジニアリング術にいたるまで実践的に解説した『生成AI導入の教科書』(小澤健祐著/ワン・パブリッシング)から、内容の一部を抜粋・再編集。国内企業のベストプラクティスを題材に、生成AIを生かしたビジネス変革の方法に迫る。

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 第3回目は、ベネッセグループの事例を通じ、生成AI導入のステップ、活用を推進する際にぶつかる壁と乗り越え方を紹介する。


第1回 きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入
第2回 ベネッセグループ1万5000人が使う「Benesse Chat」は、なぜ生まれたのか?
■第3回 ベネッセグループに学ぶ、生成AI導入「5つのステップ」と「壁」の乗り越え方(本稿)
第4回 日本最大級の求人情報サイト「バイトル」を運営するディップの生成AI活用法

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――本書を読んでくださっている方が生成AIの導入を検討する際には、どのようなステップを踏めばいいでしょうか。

國吉 生成AI活用を進めるステップでは、まず「体験を作ること」が重要です。自分自身が生成AIを使ってみることから始め、実際の利用体験を通じて、そのメリットや効果を体感しておく必要があるでしょう。

 そのうえで、ステップ2は「誰の、何のためのものなのかの特定」です。具体的にどのようなユーザーや顧客に対して価値を提供したいのかを明確にします。この段階での特定が、後のステップで方針を決める際に非常に重要となります。ターゲットの特定をするうえで、最初のステップの自分自身での体感が生きてくると思います。

 ステップ3として「差別化の検討」が重要です。生成AIのAPIを利用するだけであれば、多くの人ができてしまい、技術的優位性を作るのは難しい。しかし、自社の持つ独自の情報やリソースなどを組み合わせることで、他のサービスや競合との差別化は図れるはずです。このステップは、当社もまだ実験段階です。

 ステップ4は、「プロンプトと応答に至るまでのプロセスの設計」です。ユーザーや顧客からの入力(プロンプト)を受け取り、それに対する適切な応答を返すまでのプロセス設計を行います。この際、お客様がとりうる行動を想像しながら、そこで起こり得る問題をつぶせるように、プロセスを組んでいくことが必要となります。

 最後のステップ5では、「入力と出力の調整」を行います。生成AIの入力(プロンプト)と出力を調整し、ステップ2の期待価値とのギャップが生じないように注意しながら、内容や形式を最適化します。例えば、入力調整として、生成AIとの対話の初期段階では、完全に自由な入力を許可するのではなく、選択肢型の入力に制限することで条件を狭め、後に自由記述型の入力を許容することで、調整をかけていくことなどを検討します。

 この5つのステップを通じて、生成AI導入・活用の検討を進めていくと、考えが整理できると思います。特に、ステップ2とステップ5はPDCAを考えるうえで重要で、継続的な改善や調整をしていく際に、ポイントになる箇所だと思います。

――まずは社内で体験できる環境を用意し、そのメリットや効果の体感を作ることで、サービスへの生成AIの組み込みができていくわけですね。では、そんな生成AIを活用するメリットはどこにあると思われますか?

國吉 生成AIのメリットについては、実はまだ完全には把握しきれていないのが現状です。この技術はまだまだ発展途上の段階にあり、どれほどのインパクトをもたらすのか、その全容を理解するのは難しいんです。

 今は対話形式で自然言語に対して、自然言語で応答する形での利用が進みはじめています。しかし今後は、画像など様々な情報での入出力ができ、例えば商品の購入自動化機能と連携するなど、多岐にわたる機能連携による対応範囲の拡大が期待されます。

 目的や利用シーンから考えると、対話形式が常に最善というわけではないでしょう。様々なインターフェースでの生成AIがこれから生み出されていくと思っています。

 その結果、導入できる領域や業種が非常に広がっていくのだと考えています。この自由度の高さは、新しいサービスやビジネスモデルの創出を可能にします。ただ、その反面、精度の問題やセキュリティの問題など課題も複雑化していくと考えられるため、これからは様々なチャレンジが必要になるはず。高い自由度を持つ生成AIの出力を適切に調整し、ユーザーにとって有益な形にしていくことが今後重要となります。

「人間中心の原則」「教育・リテラシーの原則」「プライバシー確保の原則」「セキュリティ確保の原則」「公正競争確保の原則」「公平性、説明責任及び透明性の原則」「イノベーションの原則」を軸とした「人間中心のAI社会原則」や、JDLAの「生成AIの利用ガイドライン」など、様々な情報を参照しながらAIをより良い形で社会実装していくための方法論を磨いている最中です。

 また、どこまでの業務やタスクをAIに任せるべきか、その境界をどう設定するかは、現在も検討中のテーマです。私たちは、安全な範囲内から始めて、徐々にその価値を最大化していくアプローチを取ることが重要だと考えています。

――なるほど。では、実際に生成AIの活用を進める際には、どのような壁にぶつかりましたか? また、その壁をどのように乗り越えたのかも教えてください。

國吉 生成AIの導入や活用には、確かに多くの壁にぶつかります。特に、ルールやガイドラインがまだ明確には確立されていない現状では、未知の問題に対して答えを出していく必要があり、それがまず障壁になります。また、実際にサービスを世の中に出してみないと、その反応や影響は予測しきれません。

 そして、その結果として炎上のリスクも考えられます。自分自身の体感、様々な人の反応や意見をうかがいながら、そのうえで柔軟に判断・対応していくことが大切だと感じています。

 技術的な側面においては、私たちはもともとAzureを使用していたため、Azure Open AIの導入は技術的な親和性が高く、進めやすかった形です。また、社内での導入ではDIPの組織が経営陣や各部署との接続を担っているため、特に大きな問題や障壁はなく、スムーズに進めることができました。

――技術的にはスムーズだったという点は心強いですね。では最後に、御社における生成AI活用の今後の展望を教えてください。

國吉 今後の展望としては、特に次世代コンタクトセンターやWebサイト関連のプロジェクトに注力していく予定です。これらのプロジェクトは現在PoC(Proof of Concept)を進行中で、年度内には具体的な成果を出し、事業へのインパクトを明確にしていく予定です。

 さらに、教育や介護といった領域においても、サービスと生成AIを組み合わせた新しい取り組みを計画しています。これらの領域は、社会において非常にサービス進化の期待が高いと考えており、生成AIの力を活用して、より良いサービスを生み出していきたいと考えています。ただ、生成AIの導入や活用にはまだ不確実性やリスクも伴います。

 特に、どこまでが安心して利用できる範囲なのか、その境界が明確でない部分もあるので、サービスの実際の導入に関しては、非常に慎重に進めていく姿勢も持ちながらチャレンジしていきたいと思っています。AIは人の力を高めてくれる可能性がある技術。よいサービスを生み出して、日本から世界へ届けていけるといいなと思っています。


第1回 きっかけは入社式の安藤CEOのメッセージ、日清食品HDのCIOが語る生成AI導入
第2回 ベネッセグループ1万5000人が使う「Benesse Chat」は、なぜ生まれたのか?
■第3回 ベネッセグループに学ぶ、生成AI導入「5つのステップ」と「壁」の乗り越え方(本稿)
第4回 日本最大級の求人情報サイト「バイトル」を運営するディップの生成AI活用法

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