足元の為替市場では、米ドルが一時146円台まで円安に戻すなど、米ドル高・円安の動きが強まりました。そのようななか、特に日本のメディアが伝える米ドル/円の変動要因に異論を唱えるのが、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏です。吉田氏が考える米ドル/円の変動要因とはなんなのか、米ドル/円の予想レンジもあわせてみていきましょう。

1月16日~22日の「FX投資戦略」ポイント

〈ポイント〉

・先週の米ドル/円は一時146円台まで上昇したが、その後は反落。週足チャートで見ると2週連続長い「上ヒゲ」になるなど、米ドル高・円安の「伸び悩みの兆し」が出てきた

・年明け以降の米ドル高・円安を日米金融政策見通しの修正とする解説もあるが、実際は米景気を受けた米金利の影響が大きいだろう

・今週も142147円で小売売上高など米景気指標の結果を見守る展開を予想

先週の振り返り:一時146円半ばまで米ドル反発

先週の米ドル/円は、11日の米12月CPI消費者物価指数)発表などを受けて146円台半ばまで上昇しましたが、その後は144円台まで反落となりました(図表1参照)。

米ドル高・円安を試す展開が先行するものの、週末にかけて反落していわゆる長い「上ヒゲ」を残す週足チャートが2週連続した形となりましたが、これを見る限りは米ドル高・円安の限界を感じさせる値動きといえそうです(図表2参照)。

それにしても、このような米ドル/円の値動きは、基本的には日米の長期金利、10年債利回り差に沿ったものといえそうです(図表3参照)。要するに、146円を超えるまで米ドル高・円安に戻したのは、日米長期金利差米ドル優位が拡大したためですが、その動きが一巡するなかで、米ドル高・円安も伸び悩みが目立ってきたということです。

このような米ドル/円の値動き、とくに年明け以降米ドル高・円安に戻したことについて、メディアなどでは日米の金融政策見通しの修正、つまり能登半島地震の影響などを受けた日銀の早期緩和見直し観測の後退、一方でFRB(米連邦準備制度理事会)の早期利下げ期待の後退による、といった解説が多い印象です。

しかし、これらの見方について、筆者の見解は異なります。

年明け以降、米ドル高・円安の動きが戻った理由

基本的に、金融政策を反映するのは長期金利ではなく短期金利です。そこで、米ドル/円に日米2年債利回り差を重ねたのが[図表4]になります。これを見ると、日米の金融政策に米ドル/円が主に反応したということなら、145円以上への反発はなく、足元では再び140円割れ含みになっていたのではないでしょうか。

図表34を見比べると、ここまでの米ドル/円は短期金利差ではなく長期金利差が主たる変動要因になってきたと考えられます。そうであれば、主たるテーマは金融政策ではなく、景気だったと考えるのが基本でしょう。

ちなみに、2023年12月20日から先週までの日本と米国の10年債利回りのレンジは、前者が0.55~0.63%で最大変動幅は0.08%、後者は3.78~4.04%で最大変動幅は0.26%でした。最大変動幅は後者が前者の3倍以上です(図表5参照)。

その意味では、金利差は「実質的には米金利の変動で決まった」といっても良いでしょう。

以上からすると、年明け以降米ドル高・円安に戻したのは、主に米長期金利が上昇したからであり、そんな米ドル高・円安も伸び悩みが目立ち始めたのは、米金利上昇に一巡感が出てきたためということになるでしょう。

ではなぜ、年明けから米金利は上昇したのか? 米10年債利回りの90日MA(移動平均線)かい離率は、2023年の年末にかけて短期的な「下がり過ぎ」の目安となるマイナス20%近くまで拡大しました(図表6参照)。

これは、米景気の急減速を先取りした動きだったと考えます。ところが、急減速の「証拠」はなかなか確認されなかったため、短期的な「下がり過ぎ」の修正が入った、それが米金利上昇の基本的な背景だったと考えられます。

少し細かく見てきましたが、以上からすると年明けからの米ドル高・円安の動きは、日米の金融政策見通しの修正ではなく、米景気の急減速見通しにともない、米金利が短期的に「下がり過ぎ」気味になっていたことの反動が主因の可能性が高いです。

そうであれば、この先もこの構図が続く場合、米ドル高・円安が終わる目安は、米景気急減速の「証拠」の確認などにより米金利上昇が終了し、金利低下が再燃するタイミングでしょう。

今週の注目点:米小売売上高などの米景気指標発表

とくに日本のメディアは、米ドル/円の変動を日銀の金融政策など「日本要因」で説明する傾向が強い印象があります。ただこれまで見てきたように、最近にかけての米ドル/円は日米長期金利差と高い相関関係が続き、その長期金利差には「米長期金利の影響」が圧倒的に大きかったというのが実際のところでしょう。

その意味では、米ドル/円の行方を考える上では、米景気の見極めが最重要テーマとなります。

その米景気について、今週も以下のように多くの経済指標発表が予定されています。

<16日>

1月NY連銀製造業景気指数……前回-14.5%、予想-3%

<17日>

12月小売売上高総合……前回0.3%、予想0.4%

同コア……前回0.2%、予想0.2%

<18日>

1月フィラルフィア連銀景況指数=前回-10.5%、予想-6%

これらの結果から、米景気減速の程度を確認しながら、「米金利上昇=米ドル高・円安」がまだ続くのか、「米金利低下=米ドル安・円高」再開に向かうかを見極めることになりそうです。

以上を踏まえ、今週の米ドル/円は142147円のレンジで予想したいと思います。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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