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 1991年9月26日、今から約30年近く前のこと、地球の生態系を完璧に再現した密閉空間に、自ら進んで自己隔離した者たちがいた。

 そこは、第二の生物圏を意味する「バイオスフィア2」と名付けられた砂漠の中にそびえ立つガラス張りの建物だ。

 実験は、2年交替で8名がバイオスフィア2に滞在することを100年繰り返す予定だったが、食糧不足や酸素不足などのトラブルに見舞われ、結局2回で終了。1回目は2年、2回目は半年で挫折するという惨敗に終わった。

【画像】 閉鎖された狭い生態系で人類は生存することが可能なのか?

 バイオスフィア2の始まりは、1960年代後半にハーバード大学の卒業生、ジョン・P・アレンという男が「シアター・オブ・オール・ポシビリティーズ」という劇団を結成したことから始まる。

 アレンはエネルギーとカリスマに溢れた男で、グループを通じて世界を変革することを夢見ていた。だが、何をすればいいのか分からない。そこで彼のモットー「やりながら学べ!」に従い、行動を開始した。

 1969年、ニューメキシコ州の砂漠にやってくると、自給自足の生活を営むべく「シナジア牧場」を開設。さらに船まで作り、数年間世界を巡りながら地球の生態系について学ぶ。

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 やがてアレンたちは、その理解を自ら実験してみようと考えるようになった。

 もし地球以外の惑星に移住するとしたら、きっと地球と同じ環境を再現しなければならないはずだ。はたして閉鎖された狭い空間の中で人類は生存することができるのだろうか?

 これを知ることがバイオスフィア2建設の目的の1つだった。

 投資家から150億円の支援を受けて作られたバイオスフィア2は、ガラス張りの構造物で、世界各地から持ち込まれた動植物によって、熱帯雨林やサバンナ、海や湿地帯といったさまざまな環境が再現されていた。

Inside Biosphere 2: The World's Largest Earth Science Experiment

 そして記念すべき第1回目は1991年9月26日から1993年9月26日まで行われた。男女8名が足を踏み入れ、前代未聞の実験が開始された。

様々なトラブルに見舞われる

 だが、まもなく彼らはいくつかの問題に悩まされるようになる。1つは食糧不足だ。バイオスフィア2内では、作物がなかなか成長せず、労働に見合った収穫をえることができなかった。

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 これは大気の自律調整がうまく機能しなかったことと、日照不足が原因だとされている。メンバーは必要なカロリーを食事から得ることができず、体重が落ちていったという。

 さらに酸素の減りが予想以上に速く、二酸化炭素まで蓄積するという深刻な問題まで生じた。地球の大気は21%が酸素で構成されているが、バイオスフィア2内では14.2%にまで低下。

 メンバーの体は思うように動かなくなり、睡眠時無呼吸症候群に苦しめられる者たちも現れた。その苦しさは、「まるで登山」でもしているかのようだったという。

 そのような状況では当然士気が低下し、メンバーも対立するようになった。もともと彼らが劇団だったことが状況をさらに悪化させた。バイオスフィア2は全面ガラス張りだったのだ。

 大勢の野次馬が日々訪れ、中を覗き込んでは写真撮影をした。あるときは著名な霊長類学者ジェーン・グドールがやってきて、まるで動物園のサルでも見るかのように彼らを観察していったという。

 さらに外側でも騒ぎは大きくなっていた。メディアはエセ科学だと書き立て、あるコメンテータは、「流行りのエコ・エンターテイメントだ」とこき下ろした。

巨大な密閉空間の中の人工生態系 バイオスフィア2

実験は失敗だったのか?

 バイオスフィア2は当初100年運営が続けられる予定だったが、第一回の実験は2年で終了。その後、1994年に6か月だけ二回目の実験が行われたが、それきりとなった。

 しかし、これをもってまったくナンセンスな試みと断罪するにわけにはいかないだろう。

 大金を投入したにもかかわらず、たった8人すら短期的にしか生存させられなかった事実は、地球の生態系を再現することがいかに難しいのかを物語っている。

 今私たちはそれが持つ価値をあまり意識することなく、生態系の破壊を続けている。昨年放送されたドキュメンタリー『Spaceship Earth』では、実験中に起きたことは未来の地球でも起こりうることで、警告と受け止めるべきだと述べられている。

Spaceship Earth. Official Trailer. Launching Everywhere May 8.

 8人の参加者のうちの1人、マーク・ネルソン氏は「入ったのと同じ人数が出てきただけでも勝利です」と語る。

 彼に言わせるならば、世間に認められていなくても、過去に行われたものに匹敵する人類の大冒険だったそうだ。

バイオスフィア2はどうなったのか?

 1995年バイオスフィア2の運営はコロンビア大学に委託され、2003年まで教育施設として利用された。

 2005年には建物周辺の土地とともに売りに出され、2006年に宅地開発業者によって購入され、2007年からはこの施設をアリゾナ大学が利用している。

 現在は有料で見学者を積極的に受け入れているそうだ。

References:iflscience / theguardian/ written by hiroching / edited by parumo

2021年03月15日の記事を編集して再掲載してお届けします。

 
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宇宙移住に向け人工生態系の密室空間「バイオスフィア2」で暮らす実験、わずか2年と半年で挫折