妻の妊娠を機に、マイホームの購入を検討しはじめた30代のA夫妻。郊外のベッドタウンで、新築の戸建てを購入しました。条件に見合った家が見つかり大満足の2人でしたが、1年後……なんと自宅を売却し、賃貸マンションへ引っ越せないか検討しているそうです。A夫妻にいったいなにがあったのか、ファイナンシャルプランナーの松田梓氏が、A夫妻の事例から「持ち家を検討する際の注意点」を解説します。

“夢のマイホーム”を手に入れたA夫妻だったが…

年収600万円のAさん(34歳)と、年収400万円のBさん(33歳)は、結婚3年目の夫婦です。これまでは都内の賃貸マンションで暮らしていましたが、妊娠が発覚したタイミングで家の購入を検討しはじめました。

共働きのため、ペアローンを組めばよりいい条件の家も検討できましたが、「産休・育休で収入が減るから」、「(考えたくはないが)離婚など万が一のことがあった場合大変だから」といった理由から、年収が高い夫の単独名義でローンを組むことに。結局、都心のマンションは価格が高騰しており手が届かなかったため、A夫妻は郊外にある新築の戸建てを購入しました。

郊外とはいえ、条件に合った家が見つかり大満足の2人。やがて3人での暮らしが始まり、充実した生活がスタートしたはずでした。しかし……。

購入から1年。夢のマイホームを手に入れたはずのA夫妻は現在、この住宅を売却できないか検討しているそうです。この1年のあいだになにがあったのでしょうか?

通勤時間は伸び、周りには同世代がいない…「予想外」の事態にぐったりの2人

「車があれば郊外に住んでも問題ない」と踏んでいたAさんでしたが、平日は車の置いてある最寄り駅までバス通勤に。ベッドタウンのため通勤時間のバスはぎゅうぎゅうです。賃貸マンション住まいのころに比べ通勤時間は2倍に伸び、会社への通勤だけで日々ぐったりと疲れてしまうそうです。

一方妻のBさんも、困っていることがあります。子育て世帯が多く住むベッドタウンに住めば、協力して子育てができると期待していたBさん。しかし現実は反対で、賃貸マンションのころは同じマンション内にママも多く住んでいて交流が盛んでしたが、戸建てはこちらから出かけていかないとママたちと接点がありません。

また、近所に同世代の家族があまりいないことに、住んでみて初めて気がつきました。見知らぬ土地で友人とも気軽に会える距離ではなくなったBさんは、孤独を感じています。

また、妊娠中や産後まもないBさんにとっては階段の昇り降りがきつく、子どもが生まれてからも落下や転倒が心配なことから、2階はあまり使用できず。毎日のほとんどを1階で過ごしています。

今後もこの生活が続いていくことに対してA夫妻はともに大きなストレスを感じ、「戸建ては売却して、前のマンションのようなところに住めないかな」と検討しているそうです。

A夫妻にあった「2つ」の不安材料

たとえば、投資信託や株式の場合は、流動性が高く売買手数料も安価なため、「今日買って、明日売る」ということもできますが、住宅はそうはいきません。

住宅はすぐに売り手が見つかるものでもありませんし、購入するときだけでなく売却時にも大きな手数料がかかります。一般的に、不動産売買時にかかる費用は売却価格の5~10%前後といわれており、数百万円にのぼります。購入から1年など短い期間で、「こんなはずではなかった」と売却を繰り返すのは非現実的です。

そのため、住宅を購入する際には、長く快適に住み続けられる場所や条件をしっかりと考え、慎重に検討することが重要です。

A夫妻の場合は、マイホーム購入時に以下のような「不安材料」がありました。

1.「予想」で間取りを決めた

2.予算を優先し、いきなり知らないエリアに住宅を購入した

1.「予想」で間取りを決めた

A夫妻は第2子を検討していることから、子ども部屋が2つある物件に決めました。ただ、必ず第2子を授かる保証はありませんし、逆に今後第3子に恵まれるかもしれません。介護などの関係で、親御さんと同居する可能性もあります。

家族全員が快適に暮らすためにも、部屋数がはっきりとしてから購入を検討するとよいでしょう。

2.予算を優先し、いきなり知らないエリアに住宅を購入した 

近くに小中学校などの教育施設や便利な商業施設があるか、病院があるかといった周辺環境や災害の発生リスクなどはある程度事前に確認可能ですが、実際の住みやすさや通勤のしやすさ、ご近所トラブルがないかなどについては住んでみないとわからないものです。

そこで、もし土地勘がなく、住んだことのないエリアに家を買う場合、住宅購入前に1度賃貸物件を借り、そのエリアにおためしで住んでみることもおすすめです。

住みやすさや問題点を体感したあと、「ここなら大丈夫そうだ」と判断したあとに購入を決断すれば、失敗を最小限に抑えることができます。

「購入するならマンションか戸建てか」と迷っている人にも、この方法はおすすめです。頭でイメージするだけでなく、実際に住んでみることで、住居に対する自分なりの価値観が見えてきます。購入する際の迷いも少なくなるでしょう。

これらのポイントを総合的に鑑みると、A夫妻はしばらく賃貸物件でもよかったのかもしれません。

「賃貸vs.持ち家」、「マンションvs.戸建て」、「新築vs.中古」の3点は、物件選びの際の大きなポイントになります。それぞれにメリットとデメリットがありますので、家を買ってから後悔しないように、それぞれの特徴を事前にチェックしておきましょう。

将来的にいまの物件に住む可能性があるなら、「賃貸に出す」のも選択肢

A夫妻には、今後もこの戸建てに住み続けるという選択肢もありますが、生活の基盤となる「衣食住」のひとつに不満が募ると、日々の満足度が下がってしまいます。A夫妻には、どのような選択肢があるのでしょうか?

1.思い切って戸建てを売却する

まずは、現在A夫妻が検討しているように、「売却する」という選択肢があるでしょう。A夫妻が購入した住居は築年数が1年と築浅のため、築古物件に比べると売却しやすく、新築のような新しさが買い手にとって大きな魅力のひとつとなります。

ただし、購入~売却までのトータルの手数料などを考えると、売り手であるお2人にとっては大きくマイナスになる可能性が高いことは否めません。

2.戸建てを賃貸で貸し出す

「せっかく買った戸建てを手放したくない」あるいは「いまではないけれど、将来的にはこの家に住むことも視野に入れている」といった場合には、売却ではなく賃貸として貸し出す選択肢もあります。

ただし、この場合税金などの負担がかかりますし、入居者が決まらない場合はローンの支払いが発生します。自宅の家賃と、この物件の住宅ローンと支払いが二重になる可能性があるため注意が必要です。

なお、「定期借家契約」として期間限定で貸し出すこともひとつの選択肢です。家賃を相場より安くする設定する必要はありますが、たとえば子どもが小さいときには賃貸に出しておき、小学校に入学するタイミングで戸建てに住む、ということも可能です。

いずれにしてもメリットとデメリットがありますので、人生で大きな買い物であるマイホーム購入の際は、ご自身のライフステージにあった選択肢、タイミングを慎重に見極めることが大切です。

松田 梓

株式会社FP STYLE

代表取締役/ファイナンシャルプランナー  

(※写真はイメージです/PIXTA)