仙台高裁の岡口基一裁判官(職務停止中)のネット投稿をめぐる訴訟の控訴審判決で、東京高裁は1月17日女子高生殺害事件の判決文URLを紹介する投稿について、一審とは異なり不法行為と認定した。

一審判決は投稿について、裁判官として不適切としつつも、表現の自由や、投稿内容がほぼ判決文から抜き出したものだったことなどを挙げ、違法とまでは言えないと判断していた。

当該投稿は、今回の岡口判事と遺族側の民事訴訟だけでなく、弾劾裁判の発端にもなっている。

●一審判決のポイントは?

控訴審で新たに違法と判断された投稿は、2017年12月15日にツイッター(現・X)とフェイスブックに投稿されたもの。女子高生殺害事件の控訴審判決が掲載された裁判所ウェブサイトのURLとともに、次のように書かれていた。

「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男 そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」

この投稿について一審は、「異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現」で遺族の心情を深く傷つけるなどとして、「現職裁判官に課せられた義務に違反する不適切な行為」だと指摘した。

一方で、次の理由などから不法行為とまでは言えないと判断していた。

・裁判例を紹介するツイートも表現の自由の保障を受けること

・被害者の名前が広く実名で報道されていたこと

ツイートの文章の一部については判決文でもほぼ同一の表現が用いられていたこと

・リンク先の判決文が仮名処理されていたこと

・当時、岡口判事のSNS投稿の大半は、法律や司法、時事問題にかかわるものだったこと

●控訴審判決「遺族の心情は保護に値する人格的利益」

これに対し控訴審判決は、岡口判事が以前からツイッターに自身の半裸の写真などを投稿し、裁判所から厳重注意処分を受けて以降も同様の投稿がなくならなかったことや、司法関連の記事の紹介で関係者を揶揄する投稿があったことなどから、SNSの運用について「好奇の目を集める実態があったことは否定できない」と指摘。

約4万フォロワーと大きな影響力を持つ岡口判事から、「異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現で、閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて判決を閲覧するよう誘導しようとする投稿」をされたことで、遺族の心情がひどく傷つけられ、少なからぬ精神的苦痛を受けたと認定した。

判決は、亡くなった娘の尊厳がこれ以上傷つけられないよう願う遺族の心情は保護に値する人格的利益であると判示。重大事件に関する記事を紹介することが表現の自由の保障を受けることを考慮しても、岡口判事の投稿は社会通念上受忍すべき限度を超えて、犯罪被害者等として認められる人格的利益を侵害したとして、不法行為を構成すると判断した。

ただし、遺族が投稿翌日の2017年12月16日に抗議したのに対し、提訴は2021年3月29日だったことから、3年の消滅時効期間がすでに経過しているとして、遺族側の請求権は消滅しているとした。

⚫️「因縁」投稿は遺族の主張退ける

このほか、控訴審では自身のブログに「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ。」というタイトルの記事を投稿したことも争われた。

この記事はすでに削除されているが、その内容は遺族がおこなった岡口判事の支援者に対する批判的な投稿について、第三者が感想を述べたツイートを紹介したものだった可能性があるという。ただし、この第三者のツイートもすでに削除されている。

この点について、判決は一審判決同様、岡口判事に対する遺族側の抗議活動に言及したものであるとは認められないとして、遺族側の主張を退けた。

なお、遺族が「洗脳」されている旨のフェイスブック投稿をめぐっては、一審で岡口判事に44万円の賠償が命じられている。岡口判事は一審判決について控訴しなかった。

岡口判事の「判決URL紹介」ツイート、高裁で一転「違法」認定された背景